従者と暗殺者達
俺は、千石組の本拠地と呼ばれる建物を眺められる酒場に来ていた。
別に酒を飲みに来たわけじゃない。情報収集だ。俺みたいな一般人が何の策も持たずに乗り込んだところで、何もできずに殺されるだけだ。そんな無駄死にはごめんである。
というわけで、そこら辺の少し酔っぱらったオヤジに話を聞いていたわけなんだが。
まあ俺が知ってる情報と何ら変わりないものばかりだった。暗殺業をやっている少し珍しいヤクザ。それぐらいである。
「よう、姉ちゃん可愛いねえ。俺と一緒に飲まねえか?」
不意に耳に入ってきた声に、俺はつい興味本位でそっちに視線を移す。
割と若めの男が女をナンパしていた。女は帽子を深く被っていて、残念ながらここからでは顔がよく見えなかった。俺と歳は近そうだが。
ナンパ男はウザいくらい女を誘っているが、当の本人は全くの無視。
「あの、すみませんけど、僕の連れなので……」
すると、女の向かいの席に座っていた頼りなさそうな男が、ナンパ男に言葉を発する。というか、全くその男の存在に気付かなかった。
ナンパ男はあからさまに男の言葉を無視している。
何かあの人、どっかで見たことあるような。男も帽子を被っていたので、はっきりと顔は見えないのだが。
男はおどおどした様子でナンパ男を見ている。
――ああ、そうだ。俺が逆ギレして辞めた工場の先輩に似てるんだ。
小田島さん。
俺を庇ってくれた珍しい人間。だけどその好意を、俺は無下にしてしまった。すっげーお人好しな人だった。懐かしい。
俺はついつい感傷にふける。
「馬鹿な男と話してる暇はない。散って」
黙り込んでいた女の口から、いきなり辛辣な言葉が飛び出てきた。さすがのナンパ男もその言葉に笑顔が消える。
いつの間にか周りの客が面白そうに、彼らを見て酒を楽しんでいるようだった。
「アキ、出よう」
小田島さん似の男は、女の名前を呼んで席を立つ。ここで争うつもりはないのだろう。
しかしナンパ男がこのまま引き下がるわけもなく、ちょっと待てよ――と二人の道を阻んだ。
「下衆が」
女の一言に、ナンパ男は凍りつく。
すげえ口悪ぃ女。
ナンパ男は怒りに顔を赤くして女に掴み掛かろうとし、
「本当にすみません。今回は勘弁してくれませんか」
一瞬で小田島さん似の男がナンパ男の目の前に躍り出て、そいつの腕を掴み取っていた。
う~ん、小田島さんとは思えない動きだ。やはり似ているだけか。
ナンパ男は一瞬気圧されるが、ふざけんなと叫ぶ。あそこまでいったら、引っ込みつかないだろう。奴の気持ちはよくわかる。
すると、小田島さん似の男は懐からナイフを取り出した。
店内は一気に静まる。……ちょっとやばい展開なんじゃ。
ナンパ男は驚いて一歩下がろうとするが、腕を掴まれていて動けない。
「なら、殺す」
低い声で呟いたそれは、店内に不思議なほどに響き渡った。
ナンパ男は情けない叫び声を出し、畜生っと叫んであっという間に店を出た。
周りの客や俺はほっと一息つき、小田島さん似の男もふうっと気の抜けた溜息を吐いた。さっきまでの迫力が嘘のようだった。
何なんだ、この二人組。
小田島さん似の男は、周りの視線に気付いたのか急に慌て出した。
「あ、お騒がせしてすみません! あの、じょ、冗談ですから! そ、それじゃあ……」
と言って、さっさと店を出て行こうとする。
「ちょっと、小田島っ」
小田島さん似の男に、女が追いかけながらその名を呼ぶ。
――えっ? お・だ・じ・ま?
まさか。まさかまさか。
あの優男の小田島さん本人!?
気付けば俺は、二人を追いかけていた。
「ちょ、ちょっと待ったぁ!」
道のど真ん中、俺は二人を呼び止める。
別に確認したからってどうするつもりもないのだが、気になったんだから仕方ない。
「えっ……」
小田島さんらしき人がこちらを振り返る。
アキという女もこっちを見ていた。成程、口は悪いが顔は中々可愛い。
俺を見た小田島さんは驚いたように口をぽかんと開けていた。
「ク、クルトか……?」
本当に小田島さんだった。
「何、知り合い?」
アキは少し警戒したように小田島さんに問い掛ける。
「ああ……同じ工場で働いていた後輩だよ」
「……堅気の人間か」
何だよ、その反応。堅気って。
「それよりクルト、どうしてこんな所にいるんだ」
小田島さんは心配したように俺に詰め寄る。
まあ確かに、こんな危なっかしい町にいるわけだしな。
しかし相変わらずのお人好しだ。
「まさか……千石組に関わってるんじゃないだろうな」
いきなり核心をついてきやがった。
「いや……小田島さんこそ何やってんスか、こんなとこで」
俺は答えを濁し、質問で返した。
でも本当に疑問だし。未だに信じられないし。さっきのこの人の雰囲気。
しかも隣の女も普通じゃない。
「さっきの酒場じゃあ……まるで別人でしたけど?」
小田島さんは小さく唸り、見てたのか――と決まり悪そうに呟く。
「確かに少し、小田島らしくなかったけど」
「……あそこで僕が出なかったら、アキが殺してただろう」
アキの言う『らしくない』は、恐らく俺が思う『らしくない』とは別だろう。しかし小田島さんの口から再度、殺すという単語が出てきて俺は少し面食らう。
小田島さんは俺のそんな様子に気付いてか、思いきり咳払いをした。
「……えっと、クルト。とにかく早くこの町を出たほうがいい」
急に真剣な表情に切り替わる。
というか、この人達はどこに行こうとしてるんだろうか。
俺は何故か期待していた。何に期待って、そんなの決まってる。
「小田島さん、千石組に用があるんじゃないッスか?」
絶対そうだ。
何故か自信があった。
「その通りだけど。だったら何なの」
アキが答えた。
小田島さんは顔に手を当てて、アキ――と呆れたように呟く。
俺は勢いで言った。
「俺も連れていけ!」
それから結構な時間、俺と小田島さんの話し合いは続いた。この人は頑なに俺を連れて行くことを拒否し、俺はしつこく食い下がった。
その間に、非常に大雑把にではあるがお互いの状況を語り合った。さすがに道の真ん中で話せることでもなく、裏通りに移動したが。
小田島さんの話は正直、信じられなかった。
何が一番信じられないって、目の前のこの人が元暗殺者だということだ。まあさっきの酒場で、堅気じゃない雰囲気は醸し出していたけど。
しかし同時に頼もしくもあった。元暗殺者の小田島さんに加え、千石組直下の暗殺者まで仲間にいれば、俺の命の保証も高まる。
もう俺はこの目で悪魔を見てるんだ。どんなことでも信じてやるさ。
まあ当然、二人は悪魔のことは半信半疑で聞いてたけど。さすがに人魚や不老不死などの話は伏せておいた。話してこのやるせなさを共有したかったけど。
しかし、アキは悪魔グラスの話を聞いてぼそりと言った。
「組長が……不老不死を探してるって噂は聞いたことがある」
せっかく伏せておいた単語をあっさり口にしやがった。というか千石組も探してるってか。
「悪魔に不老不死、か……何だか、現実感がなくなってくるよ……」
小田島さんは混乱してるだろう。いきなりそんな非現実的な単語を聞かされても、信じられないのは当然だ。その普通の反応が嬉しかった。
普通、誰だってこうなるよな、うん。
そして俺はそこでつい、人魚と不老不死の話も説明してしまった。ちなみに二人は〈天魔封印〉の話を知っていた。本当に有名なんだな。
「とりあえず、わたし達には一切関係ない話でしょ」
俺のせっかくの説明を水の泡になるような発言をするアキ。
いや、全く以てその通りだけど。
「もういいでしょ、小田島。時間が勿体ない。酒場でも特に目ぼしい情報は聞けなかったし、内部のことならわたしのほうが断然詳しい。こいつは好きにさせとけばいい」
ムカつく言い方だが、今の俺にとっては有難い言葉でもある。
小田島さんは暫く悩み続け、俺を見た。
「クルトはフルールという女の子と、グラスという……悪魔を連れ戻せればいいんだよね?」
俺は頷く。フルール嬢を助け、グラスの暴走を止める。それが俺の目的だ。だいぶ時間を食ったから、グラスの野郎が手遅れでないことを祈るが。
「……わかった。一緒に行こう。他にも連れ去られた人がいるみたいだし、まずは人質の解放からだ」
他にも人質がいるというのは初耳だったが、とりあえずこれで先が見えてきたぜ。
「クルト、奴らは殺しが本業だ。危険だと思ったらすぐに逃げろ」
「もちろん、逃げますよ。俺だって死にたくないし」
「だったら来なきゃいいのに、足手纏い」
「なんだと、てめえ」
「ふ、二人とも、ここで喧嘩してどうするんだ……」
そんなやり取りを交わしつつ、俺達は千石組の本拠地へと向かった。
アキの提案で、俺達は裏口から侵入することになった。日はとっくに沈んでいる。
今のところ、建物内部は静かだった。
しかし。
「裏口だけど、結構見回りがいるじゃねえか」
四、五人の男がつまらなそうにウロウロしている。
「あんなの簡単に突破できる」
淡々とした口調のアキに、俺はそっスか、と適当に相槌を打つ。
暗殺者の中でナンバー2とか言ってたもんな。そりゃ相当な強さなんだろうよ。
「クルトはここで待ってるんだ」
小田島さんが小声で俺にそう言って、アキと共に素早く見回りの男達に近寄っていく。
俺は緊張しながら二人の動きに注目する。
小田島さんは気配を消し、背後から見回りの一人の首に腕を回す。瞬間、そいつは昏倒した。それに気付いた他の見回りが小田島さんに襲いかかる。だがあっさりそれを躱して、軽やかな動きで男を蹴り倒す。
アキはというと、大した動きも見せずに右手を軽く動かしただけで男三人が倒れ込んだ。恐らく投げナイフか何かだろう。
すげーな、この二人。俺は感心しながら二人に駆け寄る。
「ちょっと提案があるんだけど」
まるで息の切れていない小田島さんは、俺とアキを交互に見た。
「二手に分かれて行動しようと思う」
予想外の提案に俺は驚く。しかしそれはアキも同じだった。
「どういうこと?」
不機嫌になるアキに、小田島さんは特に動じた様子もなく俺を見た。
「クルトの目的をアキに手伝ってもらおうと思うんだけど、どうかな」
どうかなと言われても。ということは何か。俺とこの女で組めってことか。
「内部の構造はアキに聞いたし。僕はまずB5を探す」
敵討ち……と言ってたか。
「アキにはまず、ここの暗殺者の解放を頼みたい。味方になってくれそうな人もいるんだろう?」
俺はそこの話はあまり深く聞いてないが、嫌々ここで働いてる暗殺者もいるらしく。この女もその一人みたいだけど。
アキは、まあねと答えた。
「でも、仕事中の暗殺者だっているんじゃねえの?」
俺は二人の会話に口を挟む。
「ああ、それはね。実はこの時期、千石組は毎年活動を控えているんだ。何故だかわからないんだけどね」
「さっき言った、不老不死探しに専念してるっていう話を聞くけど」
そんなに本格的に探してんのかよ、ヤクザの千石組が。
小田島さんも、そうなのか――とアキの言葉に驚きつつ、すぐに話を戻した。
「それで、その騒ぎに便乗してフルールを助ける。僕はB5を倒したらすぐに組長のもとに向かうから、そこで合流しよう」
「B5は組のナンバー4だけど、実際はもっと強い。一度会ってるし、わかってるでしょ?あいつはあの地位に甘んじてるだけ。大丈夫なの?」
アキの言葉に小田島さんは少しも怯まなかった。
「ああ。必ず倒す」
やっぱり、俺の知ってる小田島さんとは違う。
「でも、アキに負担を掛け過ぎてる気がするけど」
「そんなのは当然でしょ。それに味方ができる可能性がある分、こっちのほうが成功率は高い」
小田島さんはそうだといいけど――と苦笑した。
「じゃあ、アキ、クルト。お互い助け合って、仲良く頼むよ」
どこの保護者だ。
俺はとりあえず頷いといた。アキはそっぽを向いてたが。
「どりゃあ!」
俺はグラスに手渡されたナイフで千石組のチンピラとやり合う。
グーパンチを腹に叩き込んで気絶させた。
暗殺者じゃなけりゃこんなもんだぜ。まあ、アキは俺が一人倒す間に五、六人やっつけてたけど。いや、俺が普通なんだって。
俺達は小田島さんと別れ、地下へと向かっていた。
「それにしても地下が暗殺者の住処って、普段から暗い生活してるんだな、お前ら」
俺は階段を駆け下りながら言った。
アキは俺を一瞥しただけで返事をしない。ちょっと失言だったか。
「あんた、小田島がお人好しだからっていい気にならないでよ」
お。噛みついてきた。
「お前こそ、だいぶ小田島さんに迷惑かけてるみたいだけどな」
「……なっ!」
アキは言葉に詰まる。ちょっと落ち込んでるっぽい。
少し予想はしていたが、これは間違いない。
この女――小田島さんに惚れている!
俺のイタズラ心に火がついた。
「小田島さんは清楚な女が好みみたいだからなあ」
「せ、清楚……」
「前にそういう人と付き合ってたの、知ってんだ」
本当のことだ。紳さんの紹介で無理矢理付き合わされた感じだったけど。
「……わたしには、関係ない」
俯き加減にぼそりと呟くアキ。ちょっと意地悪しすぎたか?
少しフォローしてやろうとしたが、ちょうどその時、地下に辿り着く。薄暗く気味の悪い雰囲気に呑まれ、俺はすっかりそのフォローの言葉を忘れてしまった。
アキが俺の前に出る。
その先には一人の男がいた。
「おお、裏切者のU2じゃん」
U2。アキのコードネームか。
俺達より少し年上に見える男の表情は、言葉とは裏腹に笑顔だった。
「暗殺者か?」
俺は小声でアキに問う。
「ここのナンバー3。T6」
いきなりナンバー3かよ! 俺はめちゃめちゃ身構える。
「あっれー? もしかして彼氏ぃ?」
なんという軽いノリだ。
「馬鹿。ただの足手纏い」
その紹介の仕方も何なんだ、この女。
T6という男は何やら大きな鎌を肩に乗せていた。武器だ、凶器だ。だけど一向に襲いかかってくる気配もないし、アキもまるで身構えていない。
「とうとう、この日が来たか!」
T6は嬉しそうに鎌を持ち上げる。
「手、貸すぜ」
そうか。こいつが味方になってくれそうなやつか。
「助かる。とりあえず、ここにいる暗殺者全員を外に出したい」
「ここに忠誠誓ってる奴らは?」
T6は真面目な顔で問い掛ける。
「殺す」
物騒極まりない言葉を放つアキだが、俺が口を挟めるわけもない。
「了解! じゃあ行くぜ!!」
T6はそう声を張り上げ、鎌を振り上げる。そしてそれを壁に叩きつけた。
するといきなり、耳を突くようなでかい音が鳴り響く。どうやら非常ベルを鎌でぶっ叩いたらしい。
監獄のような部屋からわらわらと人が出てくる。
「な、なあ、千石組の暗殺者って何人いんの?」
「五十人くらいかねぇ」
俺の質問にT6が楽しそうに答えた。
「でもナンバー4以下は実力が一気に下がるから、問題ない」
アキはこんな時にも淡々と語る。
「おい、お前ら! 逃げたい奴は逃げていいぜ! 千石組はぶっ潰すから問題ない! それに刃向かう奴はかかってこい!!」
T6の言葉に暗殺者達は一瞬戸惑っていたが、徐々に逃げ出すものが出てくる。
それと同時に数名がこっちに襲いかかってきた!
T6は鎌でそいつらの攻撃を受け止める。
その中の一人が口を開く。
「俺達は、ここでしか生きられない!」
必死の表情だった。
「なら、殺してあげる」
背後から躍り出たアキが、容赦なく長剣をそいつに突き刺した。
T6も鎌を振り上げ、次々と襲ってくる暗殺者を倒していく。
「ここしか居場所がないってんなら、俺達が殺してやる! 本気でかかってこい!」
居場所。
きっとここにいる暗殺者は、居場所がなくて千石組に来た奴らばっかりなんだろう。実際、捨て子を拾ってるって話も聞いた。
ここしか居場所がない奴らにとって、ここで果てることが幸せなんだろうか。
それを証明するように、殺された奴らはまるで解放されたように清々しい顔をしてやがる。
この異様な戦いに、俺はただ茫然と立ち尽くしていた。
結局、逃げ出した暗殺者は全体の半分以下。
その他の奴らは全員、アキとT6によって殺された。さしたる時間もかからずに。
どこの地獄絵図だよ、まったく。
さすがに少し息を切らす二人。
「ふう……さすがに疲れたな」
T6の言葉にアキは無言だった。
「俺は……こいつらを殺したことは後悔してないぜ」
死体を眺めまわして奴は言う。
「自分の居場所を守るために戦って死んだんだ。こいつらだって本望だろ」
その言葉に、最初に出会った時の軽さはなかった。
「そう……思うことにする」
アキは一言だけ返す。
「ここは素直に『そうだね』でいいだろ」
俺はついつい口を挟む。
まあどう考えようと、殺したという事実は覆ることはない。だけどこの先も生きていくつもりなら、前向きに捉えておくべきだろ。ま、他人事だから言えることではあるけど。
「はは、U2は昔からこうだからなぁ」
T6は最初の調子に戻る。
殺した奴らの中にも、きっと昔馴染みの仲間がいたんだろう。俺は寧ろ、この二人を尊敬する。
「じゃあ、次は人質を助けに……っ!?」
そう言って立ち上がろうとしたアキの右腕が、突然切り裂かれる。
投げナイフだ。
「お前ら……凄いことをやってくれたな」
俺達の後方から声がする。振り向くと、長身で大柄な男が一人立っていた。
中年のおっさんだ。もちろん明らかに堅気じゃない。
「A3……」
今度はA3ってか。
というか、残りを考えるとこいつは。
「ナンバー1、とか?」
「正解」
俺の質問にT6が苦笑で答える。
マジか。
「み、味方になっては……」
「くれないだろうなあ。どうだい、A3!?」
T6はA3に向けて大声を出す。
「裏切者のお前らに味方する道理などない」
俺の期待も虚しく一蹴される。怒鳴りはしないものの、威圧感が半端ない。
「U2、大丈夫か。やるぞ」
「問題ない」
確かに傷は浅そうだが、表情一つ変えないアキに俺は少し面食らう。
A3は背中に背負った大振りの戦斧を手に取り構える。
最初にアキが動き出した。
ナイフを投げながらA3に向かっていく。A3はそれを戦斧で軽く払う。
その瞬間、アキが跳躍して奴の背後を取った!
A3は戦斧を大きく後ろへ振り回す。
アキはそれを屈んで躱す。
そしてT6がA3目掛けて飛び出してきた!
A3は戦斧を振り回した勢いそのまま、鎌を受け止める。
「チッ!」
舌打ちしたT6は後ろへと飛び退く。
腰から長剣を取り出したアキがA3の足を狙う。
奴は横に飛んだ。
って、俺の目の前!?
落ち着いて傍観してる場合じゃない!
俺は慌てて逃げ出す!
だが奴の戦斧は俺にばっちり狙いを定めてる!
死ぬ――
そう思った時、T6が俺の目の前に躍り出る。
戦斧を鎌で受け止めた。と思ったら柄が折れた!?
T6は庇うように俺を突き飛ばす!
A3のもう一振りがT6に振り落とされる。
俺はすぐに立ち上がり、ヤケクソでA3に体当たりをぶちかます!
だが俺の決死の体当たりも、奴の動きを完全には止められなかった。
戦斧が少し狙いを外すが、T6の肩をバサリと切り裂く!
「ぐぁっ!」
T6の苦痛の呻き。
「クルト、下がって!」
後方からアキが俺の名を叫ぶ。
俺はその場を何とか転がるように離れる。
アキの投げナイフ!
その一つがA3の肩にヒット!
「はあっ!」
アキが長剣を構えて突進してくる!
A3は引きつった顔で、アキの長剣を戦斧で受け止める。
しかし力は明らかにアキが劣っている。
それにも関わらず、アキは飛び退こうとしない。
「アキ! そのままぶった切られるぞ!」
俺は思わず叫ぶ。
その時、T6が折れた鎌に手をかけた。
「これでも、食らいやがれ!」
鎌をA3の背中に思いきり投げる!
命中。
鎌の先端が奴の背中に突き刺さる。
「がぁっ!?」
よろめくA3。
アキの長剣が戦斧に押し勝つ。
そして隙だらけになったA3の腹を、アキはバサリと切り裂いた。
「悪いが、俺はここで退却させてもらうぜ」
T6は服の切れ端で傷口を抑えている。
重症とは言わないが軽傷でもない。肩口から滲み出る血が痛々しい。
「十分助かった。ありがとう」
アキの言葉にT6はニッと笑みを浮かべる。
「U2に礼を言われるとは思わなかった」
「何それ」
アキは不機嫌になる。わかりやすい女。
「あ、そうそう。クルト……だっけ?」
急に俺に向けて話しかけてきたもんだから、「へ?」と間の抜けた声を出してしまった。
「ありがとな! お前が体当たりをかましてくれなかったら、死んでたかもしれない」
「ああ、あれな。まあ、俺を庇ったからああいう状態になったわけで……お相子だろ?」
何か面と向かって言われると照れ臭い。
「……あんた、これからどうするの?」
少し聞き難そうに、T6に問うアキ。
「さあてな、とりあえずは自由気ままに生きるかねぇ」
何も考えてないらしい。
「ただ」
ただ?
「暫く殺しは勘弁かなー」
「……確かに、ね」
アキが同意する。
やっぱりこいつらも、好きで殺しをやってたわけじゃないんだろうか。
「じゃあわたし達、先を急ぐから」
「ああ」
俺とアキはT6に背中を向ける。
「二人とも気をつけろよ! 他力本願で悪いが、頼んだぜぇ!」
俺はその言葉に片手を振って応えてやった。




