表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/23

天真爛漫男と不老不死女・4

 ディノは私とは全く正反対の性格だ。人当たりが良くて、いつも前向きで明るくて、誰からも好かれて、とても眩しい存在。

 酒場で働く彼を見て、話をして、ますます彼に興味を持った。

 結局、私も魅かれていたんだ。好きだと言われて、傍にいたいと言われて。彼の熱意が、本当に嬉しかった。だから伝えてしまった。とても怖かったけれど。

 私はディノの反応をじっと待つ。胸の鼓動がうるさくて堪らなかった。

「……それって、年も取らず死ぬこともないっていう……?」

 ディノは自信がなさそうに問い掛ける。信じられないのだろう。

 こくりと頷くと、彼は勢いよく私の両腕を掴んできた。

「じゃあ……怪我してもすぐに治っちゃったりとか?」

 その質問の真意がわからず、私はただ「うん」と頷いた。

「じゃあ! この前の暴行事件! やっぱり青蓮なんだよね!?」

 ああ、この子は。

 まだあの事件のことを気にしていたのか。

「……そうよ」

「痛かったでしょ」

 うん、痛かった。

「怖かったよね」

 怖かったよ。

「ずっと一人で……?」

 一人じゃない時もあったけれど。

 最後に、裏切られた。

 青蓮――と俯く私の顔を覗き込みながら、とても優しい声で私の名を呼ぶ。

「詳しく話して」

 私は――未だ震える声で、ディノに語り始めた。



 私が生まれたのは、今から二百年前くらい。不老不死の体になったのは二十三、四歳の時だったと思う。戦争が頻繁に起こっていた時代で、私の家族はすでに死んでいた。

 その時から私は一人ぼっちだった。

 ある時、私はもう食べる物が何も無くなってしまって途方に暮れていた。もう限界かと、気付けば海に辿り着いていた。

 ――海に身を投げて、死のうか。

 そう思っていた時、浜辺で魚を見つけた。尾の部分しかなかったけれど、とても大きい魚で私は喜んだ。たとえ毒があったとしても、これを食べなければ私はもう死ぬしかないのだから構わず食べた。

 美味しかった。夢中で食べた。食べ尽くした。

 しかし、その後。

 見つけてしまった。私が食べた魚の上半身を。

 人間の顔だった。

 私は恐ろしくなってその場から逃げ出した。

 そして、自分の体の異変に気付いたのだ。あったはずの怪我が消え、お腹も空かなくなった。人に言っても気味悪がられるだけだから秘密にした。特に不自由なことがあるわけでもないから、誰にも言わなければ普通に暮らしていけた。

 それから暫くして戦争は終わり、私は結婚した。

 とても優しい人で毎日が幸せだった。だけど十数年経った頃、夫は恐れるような目で私を見て、避けるようになった。病気もせず、怪我もすぐ治り、いつまでも私が若い姿のままだったからだ。

 その時、自分は不老不死なのだと気付いた。原因は間違いない。あの〈人魚〉のせいだろう。

 そしてついに、夫は私をどこかの研究所に売った。

 私の不老不死の体に興味を持ち、実験を行ったのだ。詳細は言いたくない。とにかく残虐非道だった。

 だけど、その研究員の一人が私を逃がしてくれた。遠くまで一緒に逃げた。

 単純と思われても構わない。彼を好きになった。その時の私には、もう彼しかいなかった。信じていたのだ。

 研究によって、私の血を一定量飲むと不老不死になることがわかっていた。人間には試したことがなかったのだけれど、彼が私と共に生きたいと言ってくれたから、自分の血を彼に与えた。

 そして彼は不老不死になった。だけどその瞬間から、彼の態度が一変した。

『お前に用はない』

 そう吐き捨てて、彼はいなくなった。

 最初から不老不死になることが狙いだったのだ。

 私は絶望した。だけれども死ぬことも叶わず、ただ永遠の時を生きるしかない。

 それから私は、一人で生きることを決めたのだ。誰にも頼ることなく、信じることなく――



 私はディノに、一通り自分のことを話し終えた。こんなに冷静に昔の話をできるとは思わなかった。

 真剣に話を聞いてくれたディノは、悲しそうな瞳で私を見つめる。まあ、聞いて楽しい話ではないだろう。

「……信じてくれる?」

 少し笑みを浮かべて問い掛ける。何故か過去を話したら、とても晴れやかな気持ちになっていた。さっきのディノもこんな気持ちだったのだろうか。

「……うん、おれ青蓮を信じるよ」

 ディノは決意をしたように、そう答えた。

 そんなに簡単に信じられるものだろうか。私だったら多分無理だ。

 そんな私の不安を見透かすかのように、彼は真っ直ぐに見つめてきた。

「嘘なら怒るけど」

 その本気の目に少したじろぐ。

「う、嘘なわけないでしょ」

 私の言葉に、ディノはにこっと笑顔を見せた。

「うん。だから信じる。ありがとう、青蓮。話してくれて本当に嬉しい」

 礼を言われることではないのだけれど。

 私もお礼を言おうと思ったけれど、ディノの言葉に遮られる。

「つまり、青蓮は不老不死の体を治したいんだよね!」

 いきなりの結論に虚を衝かれた。決して間違ってはいないのだけど。

「一緒に探そう。で、一緒に幸せになろう!」

 そうだ。

 話したらこうなるに決まってる。

 私はただ、ディノが傍にいてくれることだけを望んでいるのだ。

 でも彼は、私との普通の幸せを望んでいるに違いない。

「ディノ。そんな方法、私だってとっくに探してる」

 当然だ。限りのない人生なのだ。必死に探した。でも、そんな都合のいい方法なんて見つかるわけもない。

「まだ見つかってないだけかもしれないじゃないか」

 それは幻想だ。彼をそんな幻想に付き合わせるつもりはない。

「私は、あなたに傍にいてほしいと思ってる」

 ディノは黙った。

「それだけでいいの」

「……矛盾してるよ。それじゃあ、おれだけが先に死ぬ。青蓮はまた一人になる!」

 このままならばそうなるだろう。だけど方法はあるのだ。

「研究所にいた時にね、不老不死の体について色々と知ることができたの」

 私の血を一定量飲めば不老不死になるというのも、その一つ。

 もちろん、元の体に戻る方法だけはわからなかったけれど。

「死ぬ方法が一つだけあるの」

「死ぬ……?」

 ディノは怪訝な顔で私を見る。

「あなたが天寿を全うする時、私もその方法で死ぬわ」

 一人で死ぬのは怖い。でも彼が、ディノがいるなら。

 これは私の単なる我儘。

 それでもディノが私を受け入れてくれるのなら。

 私は精一杯、彼に尽くそう。

 彼のために生きよう。



 その晩、私はいつも通りに酒場で歌った。

 そして酒場に来ていた千石組の男達に、私は攫われた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ