天真爛漫男と不老不死女・4
ディノは私とは全く正反対の性格だ。人当たりが良くて、いつも前向きで明るくて、誰からも好かれて、とても眩しい存在。
酒場で働く彼を見て、話をして、ますます彼に興味を持った。
結局、私も魅かれていたんだ。好きだと言われて、傍にいたいと言われて。彼の熱意が、本当に嬉しかった。だから伝えてしまった。とても怖かったけれど。
私はディノの反応をじっと待つ。胸の鼓動がうるさくて堪らなかった。
「……それって、年も取らず死ぬこともないっていう……?」
ディノは自信がなさそうに問い掛ける。信じられないのだろう。
こくりと頷くと、彼は勢いよく私の両腕を掴んできた。
「じゃあ……怪我してもすぐに治っちゃったりとか?」
その質問の真意がわからず、私はただ「うん」と頷いた。
「じゃあ! この前の暴行事件! やっぱり青蓮なんだよね!?」
ああ、この子は。
まだあの事件のことを気にしていたのか。
「……そうよ」
「痛かったでしょ」
うん、痛かった。
「怖かったよね」
怖かったよ。
「ずっと一人で……?」
一人じゃない時もあったけれど。
最後に、裏切られた。
青蓮――と俯く私の顔を覗き込みながら、とても優しい声で私の名を呼ぶ。
「詳しく話して」
私は――未だ震える声で、ディノに語り始めた。
私が生まれたのは、今から二百年前くらい。不老不死の体になったのは二十三、四歳の時だったと思う。戦争が頻繁に起こっていた時代で、私の家族はすでに死んでいた。
その時から私は一人ぼっちだった。
ある時、私はもう食べる物が何も無くなってしまって途方に暮れていた。もう限界かと、気付けば海に辿り着いていた。
――海に身を投げて、死のうか。
そう思っていた時、浜辺で魚を見つけた。尾の部分しかなかったけれど、とても大きい魚で私は喜んだ。たとえ毒があったとしても、これを食べなければ私はもう死ぬしかないのだから構わず食べた。
美味しかった。夢中で食べた。食べ尽くした。
しかし、その後。
見つけてしまった。私が食べた魚の上半身を。
人間の顔だった。
私は恐ろしくなってその場から逃げ出した。
そして、自分の体の異変に気付いたのだ。あったはずの怪我が消え、お腹も空かなくなった。人に言っても気味悪がられるだけだから秘密にした。特に不自由なことがあるわけでもないから、誰にも言わなければ普通に暮らしていけた。
それから暫くして戦争は終わり、私は結婚した。
とても優しい人で毎日が幸せだった。だけど十数年経った頃、夫は恐れるような目で私を見て、避けるようになった。病気もせず、怪我もすぐ治り、いつまでも私が若い姿のままだったからだ。
その時、自分は不老不死なのだと気付いた。原因は間違いない。あの〈人魚〉のせいだろう。
そしてついに、夫は私をどこかの研究所に売った。
私の不老不死の体に興味を持ち、実験を行ったのだ。詳細は言いたくない。とにかく残虐非道だった。
だけど、その研究員の一人が私を逃がしてくれた。遠くまで一緒に逃げた。
単純と思われても構わない。彼を好きになった。その時の私には、もう彼しかいなかった。信じていたのだ。
研究によって、私の血を一定量飲むと不老不死になることがわかっていた。人間には試したことがなかったのだけれど、彼が私と共に生きたいと言ってくれたから、自分の血を彼に与えた。
そして彼は不老不死になった。だけどその瞬間から、彼の態度が一変した。
『お前に用はない』
そう吐き捨てて、彼はいなくなった。
最初から不老不死になることが狙いだったのだ。
私は絶望した。だけれども死ぬことも叶わず、ただ永遠の時を生きるしかない。
それから私は、一人で生きることを決めたのだ。誰にも頼ることなく、信じることなく――
私はディノに、一通り自分のことを話し終えた。こんなに冷静に昔の話をできるとは思わなかった。
真剣に話を聞いてくれたディノは、悲しそうな瞳で私を見つめる。まあ、聞いて楽しい話ではないだろう。
「……信じてくれる?」
少し笑みを浮かべて問い掛ける。何故か過去を話したら、とても晴れやかな気持ちになっていた。さっきのディノもこんな気持ちだったのだろうか。
「……うん、おれ青蓮を信じるよ」
ディノは決意をしたように、そう答えた。
そんなに簡単に信じられるものだろうか。私だったら多分無理だ。
そんな私の不安を見透かすかのように、彼は真っ直ぐに見つめてきた。
「嘘なら怒るけど」
その本気の目に少したじろぐ。
「う、嘘なわけないでしょ」
私の言葉に、ディノはにこっと笑顔を見せた。
「うん。だから信じる。ありがとう、青蓮。話してくれて本当に嬉しい」
礼を言われることではないのだけれど。
私もお礼を言おうと思ったけれど、ディノの言葉に遮られる。
「つまり、青蓮は不老不死の体を治したいんだよね!」
いきなりの結論に虚を衝かれた。決して間違ってはいないのだけど。
「一緒に探そう。で、一緒に幸せになろう!」
そうだ。
話したらこうなるに決まってる。
私はただ、ディノが傍にいてくれることだけを望んでいるのだ。
でも彼は、私との普通の幸せを望んでいるに違いない。
「ディノ。そんな方法、私だってとっくに探してる」
当然だ。限りのない人生なのだ。必死に探した。でも、そんな都合のいい方法なんて見つかるわけもない。
「まだ見つかってないだけかもしれないじゃないか」
それは幻想だ。彼をそんな幻想に付き合わせるつもりはない。
「私は、あなたに傍にいてほしいと思ってる」
ディノは黙った。
「それだけでいいの」
「……矛盾してるよ。それじゃあ、おれだけが先に死ぬ。青蓮はまた一人になる!」
このままならばそうなるだろう。だけど方法はあるのだ。
「研究所にいた時にね、不老不死の体について色々と知ることができたの」
私の血を一定量飲めば不老不死になるというのも、その一つ。
もちろん、元の体に戻る方法だけはわからなかったけれど。
「死ぬ方法が一つだけあるの」
「死ぬ……?」
ディノは怪訝な顔で私を見る。
「あなたが天寿を全うする時、私もその方法で死ぬわ」
一人で死ぬのは怖い。でも彼が、ディノがいるなら。
これは私の単なる我儘。
それでもディノが私を受け入れてくれるのなら。
私は精一杯、彼に尽くそう。
彼のために生きよう。
その晩、私はいつも通りに酒場で歌った。
そして酒場に来ていた千石組の男達に、私は攫われた。




