44、沼地
「戦地で沼地が広がっている。死者が増えている。気を付けるんだ」
沼地?
何の話だ。
「核施設はどうなったんだ」
「兵士は核兵器なんて求めていない。求めているのは沼地だ」
わからない。
沼地か。一度、沼地を調査するべきかもしれない。
装甲車が何台も沼地に行って帰って来る。毎日のように。
「沼地は危険だ。一般人は立ち入り禁止だ」
兵隊が沼地に立ち入り禁止のロープを張っていく。
「あの煙は何だ」
「火葬さ。死体を焼いているんだ」
「沼地で何人死んでいる」
「たくさんだ」
「答えろ。沼地で何人死んでるんだ」
「たくさんだ。沼地では人が死ぬ」
「何のために」
「祖国のためさ」
「おれたちの祖国か」
「沼地の祖国さ」
兵隊は立ち話を終え、帰ろうとした。
「いつまでも終わらない戦争で、民衆や兵士が考えるのは、くそったれな人生で終わってたまるかってことだ」
「だが、なぜ、沼地なんだ」
「文明をやりなおすんだ。大都会なんかいるかよ。文明なんて、沼地で充分だ」
「沼地に何があるんだ」
「戦いだ。沼地には戦いがある。沼地で味方と戦争するのさ。時々、敵もやって来る」
沼地が幸せに見えるとしたら、それは、沼地が戦場にあるため、たくさん人が死んでいるので、自国の上層部が、沼地にストレスを与える調整をまちがえてしまったからだと思うんだ。
沼地の民。沼地で生まれたやつら。沼地で生まれ、沼地で育ち、沼地で戦い、たいていの者が死んでしまうが、沼地で生きのび、沼地で働いて、沼地で出世する人たち。
生まれる前からつづく戦争。
終わらない戦争。
「沼地が我が国を滅ぼすぞ」
「敵国の沼地を攻めよう」
勉強と労働の中に喜びを見い出す人々が進化して未来の人類になるんじゃないのか。真面目に働くお父さん、お母さんはどうなるのか。
沼地は、国家内独立行政組織だ。沼地は、家族制度の崩壊。沼地は、国家統制システムだ。
「これを理解するためには、数を数えるしかないぞ。どうやって数えたらいいのかな。上層部は数を数える前に始めちゃったのかもしれないぞ。数え方、難しい」
「あんた、マジで見所がある。おれには何の数を数えたらいいのかわからないんだ。それがわかって、数を数えられたら、沼地が正しいのか教えてほしい」
だが、沼地から吹いてくる風が心地よくてな。
いつの間にか、おれは沼地へ向かっている。
先進国?
人類の文明そのものを笑うぜ。
液体の怪物。
沼地で生まれた怪物が、大地に染みわたり、液体となり、二度と地上には帰って来ない。
戦争で沼地を見るのが楽しみでさ。
沼地で戦争に勝てるまで数を数えろってさ。
何の数だろう。
自分で考えないとな。
死ぬ兵士の数。
要塞を攻略するのに必要な人数。
その人数を育てるのに必要な志願兵の数。
沼地に己の血を賭ける。
沼地に魂を賭ける。
戦地で沼地が広がる。




