おおかみ女
「・・千・・弐・・。」
私は、目を覚ました。
・・?ここは?
「円華さん!!よかった・・。」
綺麗な女の子が、私に抱きついて涙を流す。
「あなたは・・?」
私の問いに、彼女は青ざめる。
「き・・記憶が・・無いんですか?」
記憶?
周りを見渡す。不思議な空間・・匂いに覚えがない。
「円華!!」
【ドキ・・】
近づいてきた男の子に、心が反応する。
「・・誰?」
「自分の名前は、言えるか?」
生意気そうな男の子が、私に聞いた。
「菜乃・・?
・・いえ、・・違う?ここは・・。」
私の周りに3人。
・・?
「保志。邪魔をしていた彼女は、本家で預かる。
円華の記憶を取り戻す方法も、解るだろう。
歌毬夜も、16で亡くなるのが嘘だと分かったし・・。」
難しい話をしている。
「円華姉は、家に連れて帰るよ・・。」
訳の分からないまま・・疲れが、私を眠りに誘う・・。
懐かしい匂い・・。
悲しくなるような・・温もり。
知っている。私の・・大切な人。愛した・・人だ・・。
やっと・・帰ってきたのね。
「・・おかえり・・なさ・・い・・」
「ただいま。もう、離れない・・。
俺の、一生に一人の相手。愛している・・。」
幸福な・・気持ちに包まれ・・
意識が遠退いていく。
朝。
「ん~~。ふぁ・・。」
目が覚め・・ベッドから下り、着替える。
今日は、大学の合宿の最終日。
・・?
何か、数日の記憶が曖昧だ。
【コンコン・・】
ドアをノックする音。
「円華姉・・?」
保志が、ドアを開ける。
「何、どうしたの・・?」
私の反応に、保志は安心した顔をした。
「よかった。記憶が戻ったんだ!
諷汰さんに連絡しといてよ?」
「・・誰のこと?」
「・・・・。」
保志は、口を開けたまま・・。
「あぁ、保志兄の時と同じね。」と、麗季が入ってくる。
「円華姉?
保志兄が、記憶無くしたときのことを覚えている?」
歌毬夜の記憶以外は覚えていた保志と・・同じ?
「私、契約・・したの?」
二人は、ニヤリと笑う。
「さぁ?諷汰さんに聞いたら~。」と。
弟妹は、いつものように冷たい。
【ズキッ】
頭痛がする。
私は、いつものように大学に歩いていく。
いつもと変わらない道。大学の合宿場所。
「円華ちゃん!」
いつもの嘉野先輩。
【ドク・・ン】
ん?何だ?
「どうしたの?」
体が、熱い・・思考が乱れる。
何、この匂い?
「はぁ・・。」
私は、嘉野先輩に寄りかかる。
「え・・?」
嗅いだことのない・・いや、覚えがある。
でも、この人じゃ・・ない。違う・・のに・・
私は、彼ののど元に唇をつけた。
「ま、円華ちゃん??」
はぁ・・
息が切れる。満たされない欲望が私を動かす。
駄目、この人じゃない・・。
唇に、キス・・したら・・ダメ・・。
意識と違い、手は彼の胸に触り・・
「私に触れて・・」
彼を促し・・誘う。
彼の手が、私の頬に触れる。顔が近づき、唇が触れそうになる。
嫌・・だ・・
違う、違う!違う!!
「ヤッ!!」
嘉野先輩の口を両手で押さえた。
・・はぁ・・はっ・・
苦しい。
「ご、ごめんなさい。・・先輩、私・・体調が・・」
目がくらむ・・。
立っていられない私を、先輩は支える。
「いいよ、ごめんな。医務室に行こう。」
優しい手・・
でも、甘えてはいけない。
「大丈夫です。一人で・・行きます。」
先輩からの匂いから離れたら、通常に戻るだろう・・。
意識を集中する。
先輩から離れ、医務室のほうへ向かった。
保志の時、こんなことがあったとは聞いていない。
足りない何かを、埋めようとして契約者以外の女の子に触れたら、嫌悪を感じるまでになったと・・。
確か、笛のせいだと。
これは何だ?
私の相手は、同じ大上家のおおかみ。彼じゃない。
弟妹の言っていた匂いがするけど、分かる。相手じゃない。
先輩から距離を取ったはず・・。
保志の言っていた、足りない欲求?違うような気がする。
感覚が狂っているんだ。
保志は、記憶が無くなった時・・
歌毬夜の匂いを集中したのに、微かしか匂わなかったと・・。
はぁ・・はぁ。
ふっ、まるで動物。発情期か・・?
こんな・・苦しいなんて。
誰でもよくなってくる・・。誰でも・・いい・・満たして・・欲しい。
嫌・・諷・・汰・・
「諷汰・・」
医務室に辿り着けない・・。冷たい廊下に、座り込む・・。
意識が・・薄れていく。
【フワッ】
体が浮いて、温かさを感じる。
誰かの腕の中・・。
匂いはない。
まさか・・
「諷汰・・」
意識を失う前に、額に触れる唇・・。
満たされる気持ち。
間違いない・・この人だ。
私の、一生の・・相手。私の・・愛する人・・諷汰・・
目を覚ました時、医務室の天井ではなかった。
知らない場所・・?ん??
来た?自分の古い匂いが、微かにする。
ベッドの上、布団を除け・・周りを見渡す。
「起きた?」
【ドキッ】
低い声に、背の高い男の人・・。
高校生ぐらいだろうか?
「もしかして、諷汰・・くん?」
なんだか、ぎこちなく訊いた。
「あぁ。話の前に、風呂入ってくれる?」
不機嫌だ。




