アーラ市ラプソディ(下)
そこは戦場だった。
「そこ、腰の角度が浅い! やり直し!」
「馬鹿野郎ーっ、お客が来たら直ぐに近寄って挨拶! スマイルっスマイルっ、50時間働いていようが60時間働いていようがスマイル!!」
「チャーハンできたお!」
「女将をよべぃ! こんなものがチャーハンと言えるか、お前は中華の基本である火力が使えていない!!」
「・・・ま、またこの生活が始まったでござるか」
ガッツリうなだれながらも、身についた習性で一切の無駄なく接客訓練の指導をこなすチハヤ。
「・・・私もさすがにこの生活はどうかと思うわ。この際、チハヤちゃんが言うように勇者として魔王軍と戦うとか、ログ・ホ○イズンみたいに異世界の知識で智謀の限りを尽くして生き抜くとか、そういうハードボイルドな生活の方がましだと思う」
既に昨夜から不眠不休体勢で、文字通り飛び回っているアンリも、うんざりした顔で同意した。
「いーんだよ、そういうのはやりたい奴がやれば、第一これだって異世界の知識で智謀の限りを尽くして生き抜く手段だぞ。腹黒メガネとやってることは大してかわらん!」
胸を張って堂々と暴言を吐くマサト。
「それ橙○さんが聞いたら、助走をつけて蹴り飛ばすレベルの暴言だと思うわ」
「大丈夫だ問題ない。どーせ見てないから」
そんなところへ、買出しに行っていたリリとクリスが戻ってきた。
「ただいまーっ!」
「遅くなりましたマイロード」
「「「おかえり(なさい)(でござる)」」」
荷物を受け取ってキッチンの隅に置きながら、マサトは二人に尋ねた。
「んで、街の反応はどうだった?」
「うん、かなり好評だったよ!」
「宣伝広告も試食品もすぐになくなり、またそのほとんどの方が詳しい内容の説明や、開店日のことなど質問されていました」
「ふふん。やっぱ二人にその格好で出歩いて貰ったのは正解だったな」
「まあそうだねー。みんなの視線が凄かったよ、ちょっと恥ずかしかったけど」
「ほう」驚いたような感心したような顔で感嘆するマサト。「“ちょっと”で済むとはたいしたものだ。アンリたちに以前頼んだ時には『そんな羞恥プレイ絶対いやです!』『そんな傾奇者のような格好で街を練り歩くなら、この場で舌噛んで死ぬでござる』と大暴れで、結局レミが店の前に看板持って半泣きで立ってたのが限界だったのに」
「――ちょっと待った! これってそんな恥ずかしいことだったの?! 知ってれば絶対しなかったのに!!」
恨めしげな目で見られ、黙って生贄を差し出したアンリとチハヤの二人は揃って横を向いた。
「そういえば、レミ様とアレッタ様のお姿がありませんが、2号店の方でしょうか?」
「ああ、あっちもあっちで大変そうなんで、ひと段落着いたら二人とも、あっちの手伝いをしてきてくれ。無論宣伝しながら」
「ま、またやるのぉ・・・」
「じゃ、じゃあ宣伝用のお菓子をくるんできますね」
そそくさとその場から退避しようとするアンリの姿と『お菓子』という言葉で、リリはふと先ほどの靴磨きの少年を思い出した。
「そういえば宣伝の途中でマサト兄様とアンリ姉様のこと知ってるて靴磨きの男の子――鼠人族の子に会って話をしてきたよ」
「・・・ああ。あの時のスリか」
「そうそう。二人に随分感謝してたよ。いまは孤児院で暮らして、真っ当に働いてるみたい」
「そうですか。それは良かったです」
「宣伝広告も渡しておいたから、その内食べに来るかもね」
「ふーん。まあ金さえ払えば誰だって客だからな。……でもまあ、来たらデザートくらいはサービスしてやるか」
照れ隠しなのだろうそう言ってマサトは厨房へ戻って行った。
時間が無いので分割投稿となります。




