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勇者はじめて物語

 それはアンリの前置きなしの唐突な一言から始まった。


天界(じっか)へ帰らせていただきます」


 朝食・・・と言っても前夜の小火騒ぎのせいで高級宿屋(ホテル)を追い出されたため、やむなく馬車で一晩を明かし、手持ちのパンに屋外で簡単に炙ったベーコンや卵焼きなどを挟んだサンドウィッチと香茶を露天で食べるという、旅の空と変わらぬ気楽なものだったが。


 全員の時が止まっていた中、逸早く再起動した昨夜の騒ぎの元凶である千早(チハヤ)が、血相を変えた。

「せ、拙者のせいでござるか?!」そのまま地面へジャンピング土下座して「申し訳ござらぬ! これも拙者の不徳と致すところ! この上は潔く腹かっ捌いてお詫び申し上げる所存!!」

 いや、お前不死身じゃん。切腹する意味ないぞ。


 チハヤの謝罪にも動じることなくジャムサンドを食べながら――形だけでも取り成せば良いものを面倒臭がってるのは明白である――アンリは視線を俺の方へチラリ向けた。

「いえ、そういうことではなく、マスターが…」


「主殿――――――っ!! なにをやったのでござるか?! いますぐ謝るでござる!」

 切腹のために諸肌はだげかけていたチハヤが崩れた支度のまま、跳び上がると同時に俺の襟首を掴んで、ガクガク首を揺さぶった。

 どうでもいいけど普段ゆったりした着物をきていたので気が付かなかったけど、こいつ巨乳だなー。FかGくらいあるんじゃないか? そしてサラシでなくてスポーツブラなのか。

 そうした重大情報を心のメモに記載しながら、俺はいい加減揺さぶられ過ぎて気持ち悪いのと、たゆんたゆん目の前で動く巨乳に気持ち良いのとでしばらくそのままでいたが、差し引き気持ち悪さが勝ってきたので、チハヤの両手首を掴んで止めた。


「勝手に早合点するな。俺に覚えはない」

「男は皆そう言うんでござる・・・と、そういえば昨夜、高級宿屋(ホテル)の大風呂に女神様とリリアーナ殿が連れ立って入りに行く途中、主殿と会ったと言っておったでござるが、まさか覗きでござるか!? そういえば二人とも風呂から戻って来た時に妙に上気した顔をしておりましたが、あれは湯中りではなく主殿に――なんたる破廉恥漢(はれんちかん)!!」

「その言葉と刃の先はそっちの痴女二人に向けろ! 俺の方が覗かれたんだ!」

 突き出された『紅蓮(ぐれん)』の切っ先を抓んで、アンリとリリの二人に向ける。


「ボ、ボクは反対したんだけど、アンリ姉様が『せっかく覗きの絶好のポイントを教えてあげたのに覗きにこないなんて、ある意味女子に対する侮辱だわ! なら公平にこっちが覗けばマスターも覗くでしょう』って強引に連れて行かれただけで……」

「くくくくくっ、予想通り良い身体してましたなぁ。しかもさすがはマスター、我々に気が付いたら『きゃーっ、アンリさんのエッチ!!』とお湯をかけて来るサービスっぷり!」

「・・・ほら、明確に俺が被害者じゃねーか」

「うぬぬぬぬ、で、では、今朝のレミ殿の挨拶『昨夜はお楽しみでしたね』という意味ありげな台詞は?!」


 いいかげんもう冤罪が確定してると思うのにまだ逆転有罪に頑張るのか・・・という周囲の生暖かい視線を無視して、なおも尖ったナイフのように問い質すチハヤ。

「ああ、あれは昨夜レミと二人で夜中までトランプをして楽しく遊んでただけだ」

「トランプぅ……?」

「そうそう。ほらよく異世界トリップモノとか転生モノであるだろう、地球の洗練された娯楽を持ち込んで一攫千金ウハウハっていうの。なので手軽にトランプとかどうかと思ったんだけど、なんかもうグリアスには似たようなカードゲームがあるみたいで・・・まあトランプ自体、地球でも14世紀にはヨーロッパで一般化してたんだし、考えることはどこも同じってことだよな」

「――理屈はわかり申したが、なぜレミ殿と二人きりだったのでござるか?」

「え……? お前トランプゲームとかできるの?」


 どうせできないだろうと思って誘わなかったんだが、知らずに仲間外れ(ハブ)にしていたのなら申し訳ない・・・と思ったのだが、

「うっ! いや、拙者は遊興の類はまったく心得はござらぬが……ほ、ほれ、リリアーナ殿もいたであろう?」

「……ボク友達がいなかったからトランプとか全然知らないんだ」

 不遇な人生を送ってきたリリアーナの言葉に、チハヤは無言で視線を逸らした。


「えーーと、では、女神様を誘わなかったのは・・・」

 そのアンリは、どこから取り出したのかやたら達者な手でトランプをシャッフルし、一見無造作にカードを抜き取ったかと思うと、俺たちに向け片手で扇状に広げた手札を見せた。

「はい、これがロイヤルストレートフラッシュで~す。APが高すぎて攻撃した相手を消滅させてしまう必殺技なので注意してください♪」

「――な。初めからまともな勝負になるわけないだろう?」

「「「……」」」

 深く納得した3人であった。


「結局、なぜ主殿が女神様に愛想を尽かされたのでござる?!」

「本人に訊け! つーか、愛想尽かされた前提なのか?!」

 全員の視線を受けて、優雅に食後の香茶を飲んでいたアンリがカップを置いて一言。


「有給です」


「「「「まてこら!!」」」」


「というのは冗談で、言語・一般常識・習慣の学習、武器の装備、パーティメンバーの構築、資金の確保、これをもってマスターのチュートリアルが終了したと唯一神様(うえ)が判断したようです。私はもともとマスターがこの世界(グリアス)に慣れるためのサポート役なので、戻って来いと昨夜連絡がありました」

「――――――――」

 その言葉の意味を理解した瞬間、頭の中が真っ白になった。


 帰ル・・・


 居ナクナル・・・・・・


 モウ会エナイ・・・・・・・・・


 ・・・・・・・・・・・・嫌ダ



「――ということで、いったん戻って報告書を書いてくることになりました」

「…………へ? いったん…?」

「ええ、報告の内容と、KONOZAMA(コノザマ)の通販で注文しておいたアニメや映画のDVDやBD、気なる漫画の続き次第ですけど、早ければ4~5日、遅くても100年もあれば帰ってきますけど、それがなにか?」

 ・・・いや4~5日から100年って幅がありすぎじゃねーか?!

 と、突っ込みを入れる前に、レミ、チハヤ、リリアーナの3人は口々に安堵の歓声をあげた。


「びっくりしましたおねえさま。お別れかと思ったんですけど100年くらいならすぐですね!」

「うむ、それがしも安堵いたしました。100年程度あっという間ですからな」

「ボクも100年くらいなら寂しくないです。ゆっくりしてきてください!」

「ええ、そうね。まあH×○やF○S、BA○TARD!!、ガラ○の仮面、ベル○ルク、ワ○パンマンや星○シリーズが終わる頃には戻って来られると思うけど」

 ……なにげに不安なラインナップを口にするアンリ。


「いやいや待て待て、お前らはともかく俺は100年も生きられないぞ!」

 そう口に出した途端、なぜか全員視線を交わし、妙に優しげな目でこちらを見てきた。

「生きられない……んだよな? お前らなにか隠してないか?!」

「「「「気のせい(です)(でござる)(だよ)」」」」

 なんだ?? なにが起きているんだ、俺の知らないところで?!


 そこで立ち上がったアンリが表情を改め、俺に向かって深々と頭を下げた。

「そういうことですので、マスターにはしばらくご不便をおかけします」

「・・・あ、いや。考えてみればそっちが本業なんだし。だけど、まあ…サポートと回復役がいないと不便なんで、できればでいいけど早く帰ってこいよ」

 さっきの自分の内心での取り乱しようを思い出して、俺はなんとなく視線を外してなるべくなんでもないようにぶっきらぼうに答えた。


「……デレ?」

 こてんと首を傾げるアンリ。

「デレ違うわ! 犬だって3日飼えば情が移るだろう! そんな感じで……いいから、早めに済ませて来い!」

 平静を装う俺の内心を見透かしたかのような微笑を浮かべ、

「大丈夫ですよ、私はいつもマスターの心の中にいますから。ビバ、アンリさんと共にあらんことを」

 相変わらず本気か冗談かわからないことをぬかす。


「それと」

 続けて、どこからともなく天使をデフォルメした形をしたパソコン本体ほどの大きさの箱を取り出して寄越した。

「これは私が居なくなった後、どうしても困った時や対処できない事があった時に開けてみてください」

 受け取ってみると中でなにか液体がチャポチャポ揺れていた。

「薬?」

「いえ、中身は『EDO808エド・エイトオーエイト』という大江戸八百八町を吹き飛ばすほどの威力の液体爆薬ですので、あまり不用意に振らないでください」

「いらねーよ! つーかなんでも武器や力技で対応する姿勢はやめれ!!」

「まあまあ、武器も結局は使い方次第ですから。かのガンジーも言ってました『臆病者と見なされたくなかったら、武器をできるだけ上手に扱わなければならない。』と」

「・・・有名人の言葉を引用すればなんでも肯定できると思うなよ」


 と、アンリの頭上の光輪(ハイロゥ)の光が急に強くなってきた。

「…どうやらお呼び出しのようですね。それでは名残は惜しいですが行ってまいります」

「お、おう。……じゃあ行ってこい」

 ぺこりと頭を下げるアンリにかけるべき言葉を選んで、結局そんな言葉しか出なかった。

「では、レミちゃん、チハヤちゃん、リリちゃん、マスターのことをよろしくお願いします」

 いよいよ眩しく直視できなくなってきた光の中からアンリの声だけが響いてくる。

「はい、おねえさま。勇者様はあたしがしっかりお守りします!」

「あいわかり申した。委細任せられよ!」

「は、はい、非力ですけど、ボクも頑張るよ!」

 その答えに、ふっと微笑んだ気配がして、そして光は消え――――――――そこには、見知らぬ天使が立っていた。


「「「「へっ……?」」」」


「――やあやあヤークトパンター、どーもどーも、出迎えご苦労さんしーご! アンリエット様が居ない間の代理天使、俺参上だぜ。代理天使だから略して代天使(だいてんし)なーーんちゃっておねーさん。お、なんだなんだみんなノリが悪いな~。どいうもこいつもアホ面下げて。――ああ、そうそう自己紹介がまだだったね。アタシはアレッタ。歌って踊ってベタまで塗れる、ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~な何でもできちゃうすーぱーな天使! アタシを呼ぶときは『アレッタ様』でも『アレポン』でも『代天使アレゾーマ』でも好きな愛称で呼んでいいけど、『アレな奴』とか言ったら踏んで縛って吊るして腹パンだからよく覚えとくよーに!」

 腰まである茶髪を二つに分けカントリー・スタイルにした髪形のアンリと年恰好が変わらないと思えるその天使は、やたら表情豊かに感情を目一杯表に出す性質らしい、元気一杯に周囲に愛想を振り撒いていた。


「「「「……」」」」

 逆に静まり返る俺たち。先刻までのしんみりした雰囲気とかその他いろいろと台無しというか、反動でとてつもなくいたたまれない気分である。


「おまいらのことはアンリエット様から聞いているよ! アホ面に見合った阿呆ばかりらしいけど、同じ阿呆でも踊らにゃ損ということで、阿呆のように歌って踊って楽しもうぜーっ」


 一人テンションクライマックスなアレッタとは別に、阿呆阿呆繰り返された俺たちは数呼吸ほどの間、アホの子のように開いた口が閉じない状態で呆然としていたが、同時に我に返って見事にシンクロした呼吸でアレッタを指差して、

「「「「チェンジ!!」」」

 そして雲ひとつない青空に向かって叫んだ。

「「「「(アンリ)(おねえさま)(女神様)(アンリ姉様)早く帰ってきてーーーっ!!!」」」」





 ◆◇◆◇





「“チェンジ”ってどういうことだよ?! やんのかコラ。ゲッターロボ以外の意味だったらボコボコにしてやんよ!」

 ファイティングポーズをとるアレッタ。果てしなくどうでもいいが相手は一応アンリの代理だというので、適当に全員でなだめにかかった。


「すまん、アンリが居なくなった後に代理がくるなんて知らなかったから」

「ついビックリしたんです、他意はないです」

「うむ。拙者も他の天使様を見るのは初めてで戸惑うと申すか…」

「アンリ姉様とは全然違うので意表を突かれたというか…」

「キャプテン・アメリカとキャプテン・スーパーマーケット並みの落差につい本音が出ただけだ」

 最後にまとめた俺の台詞になぜか激高された。


「そーか、それじゃあ仕方ないなー……って全然別モンじゃなーかー!! やっぱやんのかコラ、外にでろ・・・ってここもう外じゃねーか!?」

「……いや、ホントにすまん。これはほんのお詫びの印なので、天界に帰った時にでも開けて使ってくれ。かなり貴重なものらしいし」

 いま困った時だし、対処できない事があった時だし、ここが使いどころだと思った俺はアレッタに『EDO808エド・エイトオーエイト』の箱を渡した。


 受けとったアレッタはその重さににんまり笑い、

「おまいのモノで誠意を示そうというやり方はアタシ的には嫌いじゃない。というか好きな部類だ。というかほとんど好きに入ってる。より具体的には日常的に好きな方へ押し込んでいる。なのでメシウマだぜ!」

 言いつつバシバシ俺の背中を叩いて喜びを顕わにした。


「(コソコソ)いいのでござるか、あんな危険物を渡して?」

「(コソコソ)いいんだよ、危険物には危険物。毒には毒。いま使わなくていつ使うんだ? ひょっとすると未知の反応が起きて毒が裏返るかも知れない」

 困惑した様子でチハヤが尋ねてくるが、危険物の処分と危険人物の機嫌を取れ一挙両得の以外の何ものでもない。


 その間にレミとリリの二人が香茶を入れたりマドレーヌやワッフルを食べさせたりと餌付けに余念がなかった。

「おお、ワッフルワッフル♪ なかなか気が利くじゃんおまいら」

 ……そういえば移動販売用のお菓子とか、前もってアンリが作ってたんだよなー。居ない間どうしよう。


「――なあ、いちおう訊くけど、お前…アレッタ、料理とかできるか?」

「あン? 料理? アタシを誰だと思ってるの、すーぱーな天使なんだから、当然どんな料理だろうがボタン一発でKONOZAMA(コノザマ)さんが送料無料で届けてくれるに決まってんでしょう。このざまだよ!」

 うん、つまり戦力外と。

 じゃあ舞台の方で使えるかと言うと……うん、無理ぽ。無茶苦茶に引っ掻き回される結果しか思い浮かばない。


「どーした勇者。浮かない顔して? 困ったことがあったらアタシに相談したまえ。そのための代理とは言え勇者を導く天使なんだから。まあアタシもこれがはじめてだから、失敗したときは今後の課題にするつもりだけど…てへ」

 悩みの元凶がなんか不安になることをさらに追加してくる。


「……いや、まあ…今後のこととかいろいろ悩みがあるんだよ」

「今後? んなものぱーーっと魔王倒して万事オッケーバッチグーてなもんじゃないの?」

「そうそう簡単に物事が運んだら楽なんだけどねー」

 言いつつ今朝パンと一緒に買って来たの朝刊を見せた。


「えーと…『小さいおじさんの村田が女子更衣室の覗きで御用!』」

「そこじゃない! 一面を見ろ!」

「なんだこれか。…えーと『非公認勇者ヒョウ・トコーが魔王領へ単身潜入、あえなく国境警備隊に捕まり魔王軍幹部により制裁され無残な姿で発見される!!』『発見さえたヒョウ・トコーは命はあったものの全裸に剥かれ、全身の毛を永久脱毛され、股間に消えない魔法のインクで小象を描かれ、乳首に花、顔には眼鏡とちょぼ髭、毛が三本、タラコ唇、とどめに額に『肉』が描かれ、今後勇者はもとより社会復帰は絶望と見られる』……うおー、魔王軍えげつねー。そして、勇者YOEEE!!」

「そうだろう。はっきり言って勇者だろうが修羅の国に行ったフ○ルコ扱いされてる現状だ、魔王なんてとてもとても……つーかそもそも魔王の居城がどこにあるのかすら知らないんだし。――なあ、リリ」


 両親からの聞きかじりで多少は魔王とか魔王軍に知識のあるリリアーナが頷いた。

「あ、うん。噂では魔王は拠点を定めないで定期的に移動しているとか、そもそも魔王城自体が移動しているとか言われているよ」


 その言葉に逆にアレッタの目が輝いた。

「おおっ凄ーっ。大魔王○ーンの城みたいだぜ! それかあれ…天空の城? バルスよバルスっ!! やっぱ実物見ないと始まんないし、ちょっと行ってみよう勇者! 運が良けりゃ行ってすぐ遭遇できるかも知れないし」

「そんな1,000回迷えるダンジョンみたいな魔王領(とこ)金輪際行かん!」

「なーーに言ってんのかなこの勇者()は? せっかく勇者としてこの世界(グリアス)に来させた結果がこれだよ!! 勇者なんて魔王倒してハーレム築いてナンボだよ?」

「……う~~む、なんでござろうか。普段自分が口にしている台詞とほとんど大差ない内容なのでござるが、他人の口から聞くと理不尽に感じるものでござるなぁ。主殿の耳にも拙者の言葉がこんな風に聞こえていたのでござろうか・・・」

 なにか感じるものがあったのか、チハヤがしみじみ呟いた。

「だいたいあってる」


「とーにーかーくー、アタシの仕事は勇者のサポートなんだから、さっさと魔王を倒すなり、魔物倒してレベルアップするなり、ダンジョン攻略するなりしないとアタシの査定に響くじゃないですか!やだー」

「……お前、俺らがどうなろうと『自分ががんばった』という実績だけ作りたいだけじゃないのか?」

 思わず不審の目を向けると、

「かっ、勘違いしないでよね!! そういうんじゃないんだからね!!」

「なんで急にツンデレになるんだ!?」

「とにかく取りあえずなにやるのかな? 魔王? 魔物を倒してレベルアップ? 仲間と言いつつ女の子集めてハーレム……は、もう実践してるか。 じゃあダンジョン攻略? ハグレ○タル狩り? それともタ・ワ・シ?」

「タワシでどうするんだ・・・?」

「そこは『タワシじゃなくてアタシだろう!』と突っ込むところじゃないか。ダメだなあ勇者君は」


 うざい。底抜けにうざい。誰かなんとかしてくれ!!





 ◆◇◆◇





「どうなされたのですかマサト様、先日お別れしてからまだ4日と経っていないのに、しかもアーラ市(こちら)においでになるなんて? さすがにまだ契約書は完成しておりませんが。――あっ、もしやわたくしにお会いに?」

 頬を赤らめもじもじと落ち着かなげなクラグィアの前へ、俺を押し退けアレッタが進み出る。


「うおおーっ、すげー、ドリルだドリル! 見るからにお嬢様なドリルだよ!! もうこれはドリル様とかドリドリとか呼ぶ他ないね!」

 からからと笑うアレッタにクラグィアの笑顔が瞬時に凍り、額に怒りマークが瞬時に2~3個浮かんだ。

「マサト様。どなたですのこの失礼な天使っぽい方は?」

「ぽいっじゃなくて本物の天使様だぜっ! 本来なら我を崇め奉らないといけないところだけど、ドリドリのドリル様に免じて『アレッタ様』と呼んでもいいぜ。これで同等(イーブン)っ!」

 ドヤ顔で胸を張るアレッタ。

「えっ・・・なにげにわたくし髪型(ドリル)の付属品扱いされてませんか?」


「お久しぶりでございますマサト様。それとお仲間には初めての方もいらっしゃるようですが、皆様お疲れのご様子ですので挨拶は後にいたしまして急ぎ香茶と甘い物でも用意させますので。それとも甘い蜂蜜酒か乳酒の方がよろしいでしょうか?」

 久々に会った執事(バトラー)のギャリソンさんが相変わらず慇懃かつ細かな心配りをしてくれる。

「……あー、久しぶりです。酒はいいのでとりあえず落ち着ける茶を頼みます」

「承知いたしました」


 そのギャリソンさんが下がるのと入れ替わりに、ごっそりとSAN値(正気度)が減った顔で、よろよろとクラグィアが詰め寄ってきた。

 うーーむ、やはりこやつでもアレの相手は無理だったか。

「どぉいぅことでしょうか…マサト様、あの天使様は? というかアンリエット様はどうされたんでしょうか?」


 取りあえずこれまでの経過を話して聞かせた。

「……そういうことですか。まあラスボス(アンリエット様)がいない現状はわたくし的に有利な気もしますけれど、代わりのアレはある意味アンリエット様以上の曲者ですので、下手な対処は身を滅ぼしますわね」

「そういうことだ。俺としてはアンリが戻るまで適当に『勇者』活動をしているところを見せないと、マジで魔王領に特攻させられそうなのでなんとかいい知恵がないかと思ってここに来たんだけど」

 アンリだったら全体を見て勇者活動に有効と判断してくれる柔軟さがあったんだけど、今度のアレッタは目立った実績がないと理解できないようなのだ。


 その言葉に俄然やる気が出たらしいクラグィアは、しばし考え、

「…つまり、アレッタ様は勇者様の実態を無視して『勇者ごっこ』をしたいということですわね」

 そう結論付けた。

「そーいうことだな」

 なので適当な魔物が居る場所の情報とか聞きにここに来たのだが。

「で、あるならば、そうですわね、わたくしに考えがあります」

 クラグィアが自信ありげに頷いた。

そんなわけでゲストキャラ登場です。

ちなみにアレッタは天使としての位階は下から2番目の大天使です。

アンリのほうは基本的に位階に関係ないオンリーワンの天使、最上位の熾天使や御前天使よりも上位の存在という風な感じです。

そして次回は定番のダンジョン探索となります。

タイトルは『ハラハラ時計』(仮)の予定ですが『帰ってきたアンリさん』(仮)でも良い様な・・・

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