魔法少女 マジ狩るレミりゅん♪
『ある日、平和な街中を白い太股も眩しい半ズボン姿の愛らしい少年が歩いていました。』
「るんるんるん♪ ボク可愛い少年」
藍色の髪をした少年とも少女ともつかぬ容姿の可愛らしい少年(?)が、若干ぎこちない笑顔と台詞回しで舞台中央付近へとスキップしてやってきた。
と、突然地面から白いスモークが噴き出した!
そしてスモークが晴れたそこには、髪の毛をドリルのような縦ロールにし、右目に髑髏マークの眼帯をかけ、その上やたら刺々しいデザインのボンテージ風衣装を着た、いかにも高慢そうな女が鞭を片手に立ち塞がっていたのだった。
「ほーっほほほほほっ!! この世の美少年はすべてワタクシ、マジマジ教団幹部クラリア様のものよ!」
クラリアの鞭が翻って一瞬にして少年を束縛した。
『なんということでしょう! そこにいたのはマジマジ教団の少年愛好趣味女幹部クラリアだったのです! 少年のピンチです』
「あーれー、助けてーーっ」
微妙に棒読みの少年の悲鳴を聞いて、木陰(の書き割り)で一部始終を見ていた銀髪の女の子の肩の上に、オウムほどの大きさの不死鳥が留まり、可愛らしい女性の声で女の子へ喋りかけた。
「大変よ、レミちゃん! 可愛い男の子がマジマジ教団に襲われているわ。すぐに変身して助けないと!」
「で、でも、ちーちゃん。相手は幹部って言ってたわ。あたしに倒せるのかしら?!」
「だいじょうぶよ! 自分を信じて。レミちゃんならどんなマジが相手でも倒すことができるわ!」
「う、うん、わかったわ。ちーちゃん、あたしがんばる!」
『マジとは!!
すなわち“魔字”といい、この世界とは違う魔界から侵攻してくる情報生命体のことを指すのです。
このマジに取り憑かれた人間の身体には魔界の文字が浮かび上がり、やがては人格も魂もマジに吸収されマジの操り人形となってしまいます。
そして、マジマジ教団とはこのマジを崇め、次々と人間をマジの毒牙にかける邪悪な敵なのです!
ですが闇あるところ光あり。悪あるところ正義あり。マジを倒すためイレイザー界に選ばれた一人の可憐な少女レミがいました!』
割と本気で嫌がっている少年の頬に墨汁で『@』を書いたり、額に『大往生』とか書いていたノリノリのマジマジ教団幹部クラリアの前にレミが飛び出す。
「待ちなさいマジマジ教団! あなたたちの悪事もこれまでよっ!!」
「うん。なんだお前は? 小娘には興味がない。命が惜しくは早々に立ち去れ!」
「そうはいかないわっ、その少年を放しなさい!」
「貴様、ワタクシの邪魔をしようというのか!? 許せん――!」
と、レミの肩に留まっていた不死鳥が、力強くレミを励ます。
「いまよ、レミちゃん変身よ!」
「ええ、任せてっ。ちーちゃん!」
『普段は平凡な美少女レミですが、マジを倒すとき彼女はイレイザー界の魔法の呪文を唱えることで正義の魔法少女『マジ狩るレミりゅん♪』へと変身するのです!!』
手にしていた新鮮なバナナを素早く剥いて、レミは右手で剥いたバナナを振りかざし呪文を唱えた。
「バナナバナナテラコッタパイ!!」
その瞬間、レミの身体が閃光に包まれ――――――――
「魔法少女マジ狩るレミりゅん♪――推参!!」
光が収まったそこには、右手にバナナを握ったエプロンドレスに似たフリフリ衣装の――ゴリラが立っていた!!
そのままバナナを食うゴリラの姿に、会場からは爆笑の渦とオヒネリが大量に舞台へと投じられた。
『ありがとうございます!ありがとうございます!なお、親切な方がごほうびくださいますが、芸人は疲れておりますので、ごほうびはなるべく軽い、紙のようなものをいただけるとありがたいです。
なおバナナは、栄養値が高いだけではなく、食物繊維やビタミン、ミネラルが豊富に含まれ美容、健康にも最適です!お帰りの際にはぜひ当店オリジナルのバナナマフィン、バナナカップケーキ、バナナワッフル、バナナパイをお買い求めくださいませ♪』
◆◇◆◇
舞台衣装のゴリラの着ぐるみの頭だけ外した状態のまま、舞台袖(と言っても舞台そのものが露天にカーテンで仕切りをつけただけだが)の机に並べられたおひねりやバナナ製品の売り上げを数えながら、俺は満足のいく結果に頬の緩みを押さえることができなかった。
「――うむ。やはり俺の目に狂いはなかった! 素晴らしい台本、斬新な演出、美少女ばかりの役者、そして笑える展開。これでウケないはずがない。案の定、子供から保護者、大きなお友達までハートキャッチ! 本来バナナのお菓子を売るための演出だったが、グッズ展開やどっちがおまけかわからん握手券付き製品の販売など、ちょっと本腰を入れても良いかもしれないなっ」
テンションが上がる俺とは逆に、不死鳥のマスコットキャラバーションから普段の人型に戻ったチハヤが唇を噛んでいた。
「なんでそれがしがこのようなサル芝居を・・・」
「サルでもゴリラで儲かりゃいいんだよ。店が物理的に潰れた以上、なんとしても日銭を稼がにゃならん。銭がなければ飯が食えない。飯を食わなきゃ勇者でも聖人でも生きていけないんだから」
「くぅ……理屈はわかり申すが、難儀なご時勢でござるなぁ」
まあ正直一生遊んで暮らせる蓄えはあるのだが、稼ぐ手段があるのに遊んでいるのは性に合わないので、こうして元店舗があったファビオラ市を中心に街道を馬車で移動しながら行く先々でお菓子の販売やドサ回りやらをしている毎日なのであった。あ?魔王?知らん。そのうちどこぞ知らない勇者が倒してくれるだろう。
「それにしても、さすがはマサト様ですわ。常人には及びも付かない方法で稼ぎを叩き出すその類まれなる商才! アウァールス商会のボンクラどもに爪の垢でも煎じて飲ませたいものですわ」
俺の差し向かいに座って舞台衣装のまま売り上げを記帳していたクラグィアも、相変わらず好感度MAX状態で絶賛してくる。好感度が高すぎてなんとかへし折りたくなるほどだ。
「・・・まあ爪の垢でも臍のゴマでも尻子玉でもなんでもいいですけど、クラグィアさんなんでここへ居るんですか? 『えんじぇる☆はいろぅ』のFC展開の件でアウァールス商会へ戻ると言って別れてからまだ10日しか経ってませんけど?」
他の皆と一緒に舞台の片づけをしていたアンリが(ナレーション役なので普段着姿である)不思議そうに尋ねた。
本来クラグィアがやったマジマジ教団の女幹部の役は一人二役でアンリが担当する予定だったので(その場合は『悪の堕天使アイーダ』になっていた)、なおさら疑問なんだろう。
「もちろんマサト様にお会い――あ、いいえ、FCについて父の了解を得ましたので最終的な契約の確認に伺いましたの。ところが用件を切り出す前にマサト様から、台本と衣装を渡されて『ユーレカ! 考えてみれば適役じゃないか!』と言われて気が付いてみれば舞台の上に……」
うむ。我ながら絶妙の配役だったと言わざるを得ない。
「その割にはノリノリだったし、鞭の扱いも上手でしたねー」
「まあ商売人なんて度胸と駆け引きがなければできませんから適当にアドリブを入れて演じてみましたの。あと鞭の扱いにかけてはなぜか昔から天下一品と言われておりますわ」
さもありなん。と、その場に居た全員が心から同意した。
「そんなわけで善は急げと申しますので、この様な場所ですけれど父も大変に乗り気ですので、マサト様にはこちらの書類に問題がないようでしたらサインをお願いしたいのですの」
そう言って一抱えほどもある書類と資料を机の上に重ねてきた。
「……随分とあるんだなぁ。とりあえずこの場で確認してサインできるものだけはしてみるけど」
「申し訳ございません。父も『これは今後の商売が変わる!そのためにも一刻も早く他社に先駆けて行いアウァールス商会の名をパイオニアとして知らしめなければならん!』と大変な剣幕で…」
「ふーん」
書類を確認し、サインしながらなので我ながら生返事になる。
「とにかくマサト様のことは父も高く買っておりますし、最近は『そろそろ孫の顔が見たいな』などと、あからさまに言う始末で……うふふっ」
「ほうほう」うん、問題ないな。サインサイン。
「わたくしもなるべく早くその希望を適えたいのですけれど、いくら恋しくお慕い申し上げていても、魔族と違ってさすがに一人では子供は作れませんし」
「ちょっ…ちょっと待った! 魔族だって一人じゃ子供作れないよっ」
気色ばむリリアーナを不思議そうに見るクラグィア。
「あら、そうなんですの? 世間では、魔族は魔王が一人で『ポコペンポコペンダーレガツツイタ、ポコペンポコペンダーレガツツイタ…』という呪文を唱えながら口から卵で産み落とすと言われておりますけれど?」
「デ、デマが拡散しているよぉ。普通にボクだって両親から生まれたんだし! だよねマサト兄様?」
「うんうん」ここのところは検討の余地があるなぁ。こっちはOK。サイン。サイン。サイン。サイン。
「マサト様の返事がお座なりなんですけど……本当かしら?」
「本当だってば! そうだよね、アンリ姉様!?」
「ええ、本当ですよ。そんな…一人で上半身だけで子供を作るなんて悪辣な嘘と噂に過ぎません。ちゃんと男女二人共同してで下半身で作ります!」
「アンリ姉様、否定してくれるのはありがたいんだけど、もうちょいオブラートに……」
「へー」サイン。サイン。サイン。サイン。サイン。サイ…。「おい、ここ巧妙に婚姻届が混じってるぞ?!」
「(――ちっ)あら、どうして紛れ込んだのかしら……?」
危うくサインしそうになったそれを受け取って、何事もなかったかのようにしまい込むクラグィア。
「まあそれはそれとしまして、そういえば貴女――リリアーナさんだったかしら? 以前はマサト様のことを『若様』と読んでらしたかと思うのですけど、いつから『マサト兄様』なんて呼ぶようになられたの? なにか親しくなった理由でもあるのかしら?!」
ちなみに普段俺らが使っているウルガータ語は同じ意味であっても、日本語同様に発音と表現によって意味合いが変わってくる。
例えば英語であれば、
『お兄ちゃま大好き♪』
『兄貴っ、好きじゃあああーーっっっ!!』
どちらも、
『I love my elder brother』
で区別がつかないが、日本語だと一目瞭然なのと同様であった。
でもってリリアーナの「マサト兄様」は「にいさま」ではなく「にぃさまぁ」という若干くすぐったくも甘い表現になっているのだった。
「え…?! いいや、その若様だとなんか堅苦しいって言われたから、じゃあ『マサト兄様』ってことで、べ、別に言い方を変えただけで親しくなったとか、そ、そんなことないよ」
「私の知ってる例ではあだ名を変えただけで、好感度に直結する全てのステータスが573になる裏技があるので、呼び方を変えるだけでも例えるなら幼馴染が1人と義妹が12人くらい違いは大きいと思いますけど」
アンリのどーでもいい豆知識に、
「……女神様、面白がって焚きつけるのは悪趣味でござるよ」
チハヤが苦言を呈するも、立ち上がったクラグィアが荒ぶる鷲のようなポーズでリリアーナを威嚇した。
「きぃーーーっ! やっぱりっ! なんてあざとい女なんでしょう!!」
『お前が言うな!!』
その瞬間、書類から顔を上げた俺を含めて一同から総ツッコミが入った。
◆◇◆◇
その夜、ファビオラ市中心部にある高級宿屋の一室(と言っても20畳くらいの広さはある)に勇者とその仲間たちが集まって今後のことについて相談をしていた。
「えー、そういうことで俺の方は無事に契約も済み、あとはアーラ市へ戻ったクラグィアによりアウァールス商会の了解が得られれば、今後は定期的にロイヤリティと株式配当が入ってくることになりましたので、うちのパーティの活動資金はほぼ永続的に確保できる予定です」
その言葉に、ある意味このパーティの唯一の良心回路とでも言うべきチハヤがぱっと顔をほころばせた。
「ということは、今後はドサ回りの旅は終わりでござるか? 勇者パーティらしく魔王軍と戦い拙者の兄の仇を討つということで…」
「――はン」
「な、なんかいきなり鼻で笑われた?!」
「FC展開を甘く見てはいけません。今後は各地に作られる『えんじぇる☆はいろぅ』の加盟店のサポートや監視を定期的に行う義務があります。また、現在『魔法少女 マジ狩るレミりゅん♪』は草の根で話題も広まっていることもありますので、当然その旅の途中でも広報活動は行う予定です。あと、今後は魔法少女の仲間を含めて最低でも3人~5人体制にする予定ですので、スタッフの充実と場合によってはパーティメンバーの増員も予定しています」
全員にわかるよう噛んで含めるように説明を追加する。
「……あの、魔王を倒す勇者の本分の方はどうなるのでござるか?」
「そういうことはやりたい奴が定期的に行っているので基本ノータッチですが、今後店舗が世界各地に広がることで我々の世界戦略の邪魔になる可能性もあります。その際には障害になる魔王や魔王軍を排除する方針です」
「な、なんかそれ手段と目的が入れ替わっているような……それでいいのでござるか女神様?」
冷や汗を流すチハヤに話を振られて、
「――え?」
『おまえは何を言っているんだ』という顔で目を瞬きし、首を捻るアンリ。
「こ、これって、いきなり疑問系で聞き返される質問でござるか……?」
「ん~~~っ……………。別に結果が伴えばどーでもいいんじゃないの? 何だのかんだの言って結果は出してるし。――実際、今回の“カリブルヌ市の悪徳業者摘発事件”はマスターが主導した形になったし、“ファビオラ市魔窟発生”でも陰で市民を守っていた英雄扱いされてるし。なので、こまけぇこたぁいいですよ」
言いつつ高級宿屋のボーイに頼んで買ってきてもらった各種ゴシップ新聞を広げる。
そこには――、
『勇者マサト、カリブルヌ市に巣食う悪漢を退治! 現場に居合わせた鍛冶師M氏が証言「問われて名乗るもおこがましいが…」と大見得を切る勇者! ぽろりもあるよ』(肉感スポーツ)
『本紙スクープ!ファビオラ市に発見された魔窟から夜な夜な徘徊していた魔物を「お前たちに名乗る名前はない!」と言って人知れず倒していた正義の味方は実は勇者マサトであった!!』(呆痴新聞)
という扇情的なタイトルが踊っていた。
「……なんでござるか、これは?」
こっちみんな。
「こんな感じで、ただでさえマスターは……実体はともかく名声が先行してるんだから、魔王軍のマークもきついと思うの。だから地道にこそこそと雑草のように活動して、あまり表立って騒がずに動いたほうが良いと思うのよ。ロープレじゃないんだから、勇者がいるってわかったら魔王軍だって当然最初から凄腕とか、四天王クラスを送り込んで来て、成長する前に叩くでしょうし」
「なんか神に祝福を受けた勇者と女神のお言葉とは思えないでござるが・・・」
なおも不満そうなチハヤの様子に、やれやれと肩をすくめて、アンリはこちらに視線を移した。
「マスターにひとつお尋ねしますが、この世界に来て『勇者』という定義をどう捉えてますか?」
「国家公認のテロリスト。ただし失敗した際には簡単に無関係を装える」
間髪入れない俺の答えに、チハヤは「なっ…?!」と絶句し、レミとリリアーナは言われるまで考えたこともなったという風に顔を見合わせた。
「極論すればそうですよね。実際のところ魔王軍のしても各国に対して宣戦布告してるわけじゃないですし、ただ魔王の存在が神々にとって邪魔なので排除したい、でも明確に敵対行動は取れない“だったら『勇者』に魔王を退治させればいいじゃないか。勇者には特典や名声も与えるよ、でも失敗したらあくまで個人のやったことで当方は知りませんでした。当方としては遺憾の意に存じます”程度の扱いですよね~」
「それこそ極論ではござらぬか? そんな簡単に物事は割り切れるものではござらぬ。――と、なんでござるか主殿、拙者の意見がそれほどおかしいのですか?」
眉根を寄せるチハヤの態度に微笑を浮かべていた俺は、静かにかぶりを振った。
「いや、逆だよ。確かに極論だし、実際にはさまざまな歴史や感情、しがらみ、利権なんかが絡まって、なにが正しくて間違ってるなんて言えないと思うんだ。だけど極論というのはそれひとつで全ての問題を両断できるラミアスの剣のようにも見えるんだ。だけど千早、君は自分の考えを曲げないできちんと自分の意見を告げられた。それは本当に素晴らしい美点だと思ってさ」
「な、な、な、な、なにを…あう、あう……」
俺の言葉にチハヤはなぜか真っ赤になり、あうあう言う頭から湯気どころか全身から火が出た。
「か、火事ーーっ! 水、お水ーっ!」
「水、水じゃ足りない、レミ氷弾を! リリは水か氷結系統の魔法を使えるか!?」
「は、はいっ。――『極氷』! ああ、消えないっ」
「あきらめるなっ、あきらめたらそこで終了だ。続けるんだ!」
「あきらめたら?」
「やかましい!」
その後、高級宿屋の人間も巻き込んで、バケツリレーなどを経てどうにか小火騒ぎは消し止めたのだった。
◆◇◆◇
そして翌日の『魔法少女 マジ狩るレミりゅん♪』の公演にて――
腰を抜かしたまま驚愕に後ずさる高校生らしき少年の前に姿を現したエプロンドレスの赤髪の精霊は、手にした刀の切っ先を少年の眼前に突き出したまま、静かに問いかけた。
「問おう、貴方が私のマスターか」
『魔法少女 マジ狩るチハぽん♪』が誕生した瞬間であった。
形としては今回が第2部終了というところでしょうか。
さて、次回から第3部ですが、なーーんも考えていません(マテ
いいかげん魔王もださないといけないと思いますが(コンセプトとしては、よくある情けない魔王とか、話の通じる魔王ではなく『絶対悪』に近い形での魔王の予定です。勇者たちとは会話が合いそうにないし、どーしたもんでしょうね)
ということで、次回は『勇者はじめて物語』(仮)の予定です。
ネタどーしよう・・・。




