第40話この世界に、ただひとつの歌を
これが物語の最後の一歩になる――
第40話(if):この世界に、ただひとつの歌を
風が吹いていた。
優しく、穏やかに。まるで、命そのものを撫でるように。
雪原だった世界は、色を取り戻していた。
白銀の中に、草の芽が顔を出し、空には春の陽が差し込む。
セレスは小高い丘の上で、ひとり風に揺れていた。
けれど、その瞳はもう、寂しげではなかった。
「……ここに、いられる。それだけで、嬉しいって思えるんだ」
後ろから、足音が聞こえる。
「やっぱりここにいたか、セレス」
振り返れば、そこには主人公の姿。
少しだけ疲れたような、それでも安心したような表情を浮かべて。
「ルカとクロウたちは?」
「村でご飯作ってる。エリスが張り切っててな、全員エプロン姿だったぞ」
くすっとセレスが笑う。
その笑顔には、あの日までの悲しみや恐れはもうなかった。
「私……生きてていいんだね」
「当たり前だ。誰がなんと言おうと、君がここにいるってことは、そういうことなんだ」
彼はそう言って、彼女の隣に腰を下ろす。
空を仰ぎ、深く息を吸い込む。
「世界は、まだ完全には元通りじゃない。けど……俺たちには“時間”がある」
「歌っていい?」
セレスが問う。
彼は頷いた。
「君の歌は、俺たちの希望だから」
セレスは目を閉じて、静かに歌い始める。
それは昔のように震えるものではなく、誰かに届かせたいという――ただ真っ直ぐな想いから紡がれる旋律だった。
風が、歌に寄り添う。
鳥たちが空を舞い、陽が微笑むように差し込む。
その歌は、彼女の心と、彼らの絆と、そして未来を繋ぐ――命そのものの響きだった。
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村では、笑い声が響いていた。
クロウが焦げた鍋を片手に絶望し、エリスが呆れ顔で魔法を吹きかける。
ルカは空を見上げて、ふと呟いた。
「……生きてるって、こういうことなんだね」
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世界は、もうかつての姿ではない。
けれど、それでも確かに――そこには、彼らの物語が残った。
何もかもが終わったわけじゃない。
けれど、ひとつの「戦い」は、ここで終わる。
そして、また始まるのだ。
彼ら自身が選び取る、希望と歌に満ちた未来が――。
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【完】
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この物語を、最後まで読んでくれたあなたへ――
ありがとう。
誰かにとって「居場所」となる物語を目指して、ここまで書き続けてきました。
“拒絶される才能”と“受け入れられたい願い”、
“滅び”と“救い”、
それはこの世界のどこかにも、誰かの中にもあるテーマだと思っています。
セレスたちは、あなたの心の中でも歌い続けてくれたら嬉しいです。
また、どこかで――次の物語で、お会いしましょう。多分ね




