第24話名を持たぬ存在
第24話:名を持たぬ存在
セレスの歌が消えた。
あれほどまでに響き渡っていた美しい旋律が、風の音にかき消されたかのように静まり返る。
「セレス……?」
ルカの声が震える。だが、セレスは何も言わなかった。空を見つめたまま、ただ立ち尽くしていた。
その時だった。空が、裂けた。
黒い縫い目のように現れた“穴”の中から、何かが現れる。
形を持たず、概念だけで構成されたような“それ”は、見る者の理解を拒絶し、ただ世界の秩序を歪ませる。
「来た……」
クロウが剣を構える。だが、その手はかすかに震えていた。
“それ”は言葉を持たない。
ただ、存在そのものが拒絶の意志を示していた。
この世界において、「セレス」という存在が“在ってはならない”ということを――まるで宣告するかのように。
「私……もうダメなのかな」
セレスの瞳が、遠く霞んでいた。
「バカを言うな」
主人公が一歩前に出た。恐怖があっても、それを超えて。
「お前は、ここにいる。誰よりも、美しく、強く――この世界に必要な存在だ」
“それ”は、応えるように動いた。
空間が歪み、重力が逆転し、音が凍りつく。
ありとあらゆる法則が崩れるその中で、主人公は剣を構えた。
「セレスを……俺たちの未来を、否定するな!!」
“それ”が放つ黒き奔流が、大地を裂くように襲いかかる。
クロウが叫ぶ。「防御を――!」
だがその時だった。
セレスが一歩、前に出た。
「お願い、聴いて」
その声は、確かに届いた。
どんな混沌の中でも、彼女の歌だけは消えなかった。
そして、彼女が口を開いた瞬間――
世界が、震えた。




