可能性
「で?マコトはどう思った?」
マコトとイリスはコルツに準備して貰いたいものを頼み自分達も荷物を準備したいと言って一旦クルス商会を離れた。
離れる際にはコルツは余り良い顔をしなかったが昼までには戻るといって半ば無理やり出てきた。
そして二人は現在裏通りを歩いていた。
「ん?コルツさんの事?」
マコトの反応にイリスは少し考えるようなポーズをとった。
マコトは違っていたのかと思った。
「んー。まあ、そうかな。」
イリスの答えは曖昧だった。
何かが府に落ちていないようだった。
「少なくとも俺はあの人の話は信じられると思ったけど…………クルス商会の力は相当ありそうだし。」
先ほど話した中でもクルス商会の情報網は凄まじいものだった。
電話なんがが無いこの世界であれだけの情報を瞬時に集めコントロールさえしてしまうこれは容易に出来るようなことではない。
「確かにあれは凄い力だわ。あの力はもしかすると…………国すらも動かし兼ねないわ。」
「それって…………もしかして。」
マコトはイリスの口から予想外の言葉を聞いた。
「そう。…………コルツ自身が『緋色の観察者』であるという可能性も私はあると思ってる。」
「はは、まさか…………そんな。」
それはマコトには一切出てこない考えだった。
もし仮にそうだとした場合、敵は自分達の懐に二人を案内した事になる。
そんな大胆な事があるのだろうか?
「でも、それで全部説明がつくのよ。いい?まず大前提として私達がさっき聞いた話は全てコルツさんが言った聞いた話ばかりなの。」
「確かに……俺達は集会所の受付のお姉さんの話とコルツさんの話しか聞いてなくて。盗賊団には直接話は聞けてない。」
しかも集会所の受付の女性は又聞きの話でしかなく信憑性はさだかではない。
「そう。そして自分の商会が狙われたと嘘をつき私達に近づいた。恐らく私達の話を聞いたというのは本当。騒動の後にナチューロ中に部下を放って情報を集めさせた。集会所なんてあんなに人がいたんだから一人くらい紛れるのはそんなに難しい話ではないはずよ。」
「と言うことはもしかしたら今も何処かで聞かれている可能性があるんじゃ…………」
マコトは周りを見回した。
それを考慮しての裏通りなのだろう。
一応辺りに人影は無かった。
「恐らく大丈夫よ。商会から出て来てからずっと神経尖らせているから。誰かがつけてきている様子はないわ。」
「…………あっそ。」
イリスはさらっと言ったが普通の人が出来ることではない。
イリスはイリスでもはや随分超人の域に達しているのかもしれない。
「…………でも、それも人的な場合だった時だけの話。」
「ん?どういうこと?」
イリスは少し険しい表情で言った。
マコトはその意味を理解出来なかった。
「もし、奴が『緋色の観察者』だった場合。魔法の類いが使える可能性が高いの。でも私は魔法能力はないから魔法を使われていたらお手上げよ。勿論、『無適正』のマコトもね。」
「…………そっか。」
確かにマコトもフォルトゥナの力はあっても所詮『無適正』に過ぎない。
魔法は勿論使えないし、武芸もからっきしだった。
「もし、そうだとすると戦況は芳しくないな。」
マコトは思わず弱音を吐いてしまう。
敵を倒すにはマコトは余りにも弱すぎる
不安になるのは当然だった。
「そうだね。…………私もマコトも欠陥だらけだよ。だけど、一人じゃない。今は二人いるわ。二人でやれば何とかなるわ。」
「イリス。」
「…………たぶんね。」
そう言ってイリスは誤魔化すようにはにかんだ。
その笑顔はとても先ほどまでの険しい顔からは想像できない優しい笑顔だった。
それを見ていたマコトの方が何故か照れ臭くなっていまった。
「そ、……そうだね。」
思わず目を逸らすとイリスは少し不機嫌な顔をした。
「ちょっとー何よ?何で目を逸らすの?」
「い、いや何でもない。と、ところでコルツさんが『緋色の観察者』だとして何で俺達を?」
マコトは一生懸命話を逸らした。
一方でこれは真剣な質問ではあった。
マコト達を何とかしたいならここまで大掛かりな事をする必要が無いからだ。
「そう。そこが分からない所なの。何かと嗅ぎ回っている私達を何とかしたいだけならここまでする必要はないの。商会でもどこでも殺してしまえばいいから。だから、この話には確信が持てないの。だからあくまで可能性止まり。」
「…………そうなってくるのか。」
「だから確信を得るために私はこのままコルツさんの言う事に従って動いてみようと思う。もしかしたら私の考えは正しいかもしれないし、間違ってるかもしれない。いずれにしろこの話に乗らないと結果は見えてこないわ。だから…………マコトも着いてきてくれる?私を助けて。」
イリスからのお願いに思わずマコトは背筋が伸びた。
そして、答えは勿論決まっていた。
「勿論だよ。 今度は俺が君を助ける番だ。…………で?これから具体的には何を?」
マコトは本当は格好良く決めたかったが恥ずかしさが増し、話を先にに進めてしまっていた。
イリスはイリスでそれには全く気付いていない様子であった。
「うん。これからは何が起きてもおかしくない。もしかしたら戦闘で私がマコトを守ることも出来ないかもしれない。だから…………使う機会は無いに越したことはないんだけど、最低限の武器は持あった方がいい。」
「俺が?まあ、確かに。でも、俺、剣とか振り回したことないし…………」
「違う違う。マコトには戦闘は頼りにしてないから。ただ
短剣ぐらいは持っていれば威嚇くらいにはなるし…………ね?」
「え?」
なんかグサッとくる言い方をマコトはされてしまい思わず気の抜けた返事をしてしまった。
しかし、どうあがいても今からでは上達出来ないので当然の話だった。
だがここまで戦力と見られていないとはとへこんでいた。
因みに軍資金はしっかりとコルツから貰っておりある程度の買い物は可能であった。
食料などの重たい物は既にコルツに頼んでいたので二人の装備等に自由に使えた。
「イリス…………そういう風に見てたんだね…………」
「あっ、いや、そういう訳じゃなくて…………ね。そう!見た目の問題!短剣装備も格好いいよ。」
「そうだね。…………はいはい。」
イリスの無理やりなフォローに余計に傷つくマコトだった。
がしかし、イリスの言うことは最もであったので大人しく腰に引っ掛ける事ができる短剣を買うことにしてそのあとは燃やしてしまった服の代わりなどを揃えた。
イリスの方は装備面は現時点の物が十分使えるので道具等を中心に買っていた。
マコトはイリスが買う道具を眺めてはいちいち使い方を聞いていて必死に覚えようと努力した。
すると、あっという間にコルツと約束していた時間になった。
二人はぎりぎりまで買い物をしていたので到着もぎりぎりになった。
「はい。ぎりぎり間に合った。時間ぴったり!」
「はあ、はあ、イリス早すぎ。こっちにも荷物ってもんが…………」
最後は走っての到着になり見栄をはって荷物を多く持ったマコトは後悔する結果となっていた。
クルス商会の裏手には二人の目的地のヴィヴィ山までの移動手段である馬車が準備されていて先にコルツが来ていた。
「やあ、お二人。戻られましたか。こちらは準備万端ですよ。」
「あ、コ、コルツさん。」
マコトは敵の可能性があるコルツに目の前にいやがおうにも緊張感が出てしまったがイリスは全くそんな姿を見せなかった。
「あ、コルツさんありがとうございます。大丈夫?マコト。」
「お、おう。」
イリスのカバーで何とか誤魔化し、馬車の荷台の荷物を確認した。
ちゃんと頼んだ食料類や道具類などは全てあった。
「よし。これで大丈夫。じゃあ行こうか?」
「うん。」
「ちょっと待ってください。」
イリスがある程度馬には慣れていたので馬車を操縦しようとした。
するとコルツが間に入った。
「な、何か?」
思わず二人に緊張感が走ったがコルツは予想外の言葉を口にした。
「今回は優秀な案内人を用意しました。その御者が馬車を操縦します。この者です。」
「え?」
突然の提案に驚いて指された方を見るとそこには見覚えのある顔がいた。
「よお、お兄さん!また会ったね。あたしも雇われちゃった。」
「…………リブレ?」
胸とポニーテールを揺らしながら笑うリブレがそこにいた。




