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仕組まれた再会

「ねえ、そういえばさ…………」

「ん?何?」


詰所へ行く途中、ふと思い付いたかのようにイリスが話しかけてきた。

マコトが何事かと聞き返した。


「…………上着どうしたの?あの、裏通りのお店で買ったやつ。」

「ああ、あれね…………」


マコトは自分の格好を改めて見た。

今マコトは上着を着ておらず元の世界から着てきたワイシャツ姿だった。


「まあ、無理に着てとは言わないけど…………それだと…………ね?」


イリスの言わんとしていることはマコトにも分かった。

目立つという事だろう。

恐らくこの世界でワイシャツを着ているのはマコトだけだから当然のことだ。

しかし実はもう上着は無かったのだ。


「うん。あの……金欠の今に言うのもなんなんだけどさ、あれ、燃やしちゃったんだ。」

「え!?燃やしちゃったの?何で?」


イリスはマコトの突拍子もない返答に驚いた。

マコトは申し訳なさそうな顔をしていた。


「ごめん。盗賊団を迎え撃つ時にさ……俺は実はアデプトなんだって騙すために使ったんだ。」

「使ったって何に?」

「イリスから貰った火布あったろ。岩に上着を置いてそこに火布で火を着けたんだ。それで火の魔法を使えるぞってびびらせようとしたんだけど………」

「失敗したの?」

「いや、まあまあ成功したよ。相手びっくりしてたし、火が上がるタイミングなんてバッチリだったんだぜ…………でもなんか逆に怒らせちゃって。丁度その後イリス達に助けられたんだ。」

「はあ…………何て事を思い付くのかしら。」


マコトのとんでもない作戦にイリスは唖然として呆れていた。

時間稼ぎの作戦とはいえやはり無謀だったようだ。


「しょうがないだろ。…………それしか思い付かなかったんだから。」


その時の所持品を考えると頑張った方だろう。

まあ、結果は伴わなかったのだが…………


「…………全くそんな奴が隣にいると思うと恐ろしいわ。」


イリスは口ではそう言ったがそこに本意は無かった。

がしかしマコトにはその真意を読み取ることは出来なかった。


「まあ、次回はもっと良いのを考えるよ。」

「…………本当にね。」

「?」


イリスはちょっと拗ねたように見せたがマコトには何故ならばそうなったのか分からなかった。

マコトには女心は難解過ぎたようだった。

そうこうしているうちに目的の詰所に到着した。

先ほど多くの盗賊が突然連れてこられた為か詰所はわたわたしていた。

外には衛兵が何人かいて話をしていたり、せわしなく動き回ったりしていた。


「…………何か忙しそうだね。」

「確かにどうやったら盗賊団と話が出来るかな?」

「行ってみる?すみません!すみません!」


イリスは側にいる何人かの衛兵に声をかけてはみたもののよほど忙しいのだろう。

反応すらしてくれなかった。

マコトもやってはみたものの結果は同じだった。


「うーん。止まってすらくれないな。」

「本当ね。こうなったら中に入る?」

「いや、それはまずいよ。今入って盗賊団と間違われでもしたらどうするんだよ。」


イリスの大胆な発案を制止しながらもマコトはどうにか方法は無いものかと考えた。

するとマコトは不意に声をかけられた。


「あの…………どうかしましたかな?」

「え?えっえーとですね。」


マコトはあまりにも急に声をかけられた為か口から思うような言葉が出なかった。

そこには恰幅の良い中年男性が立っていた。

すると代わりにイリスが助け船を出してくれた。


「私達はあの詰所に入りたいんです。今日の盗賊団の事件の事で大事な事を聞きたくて。でも中々難しくて。」

「そうでしたか…………」


男性は少し考えた様子を見せると、


「おい。ちょっと。」

「はい。何でしょう?」


と誰かを呼び寄せた。

するとその声を聞いてもう一人男が現れた。


「あっ!!」

「?え?あっ、あー。」


その男を見てイリスは驚きの声をマコトは一瞬分からなかったがその直後に気付きやってしまったというような諦めにも似た声をあげた。

そう。その男に見覚えがあったのだ。

その男は二人が資金調達のために3000円をヴェスタ金貨と交換して貰った商会の男だった。

しかし、その男は特に何をする出なく側の恰幅の良い男性の側に着くだけだった。

すると恰幅の良い中年男性が、


「おや、この者を見たことがありますか?……やはりそうでしたか。」

「…………知ってたわね。」

「まあ、そうですね。世の中は情報勝負なので。」

「…………貴方は何者ですか?」

「私は…………クルス商会の長をやっています。コルツと申します。こちらはナチューロのクルス商会で管理を任せているペイトです。」

「お久しぶりです。」


コルツと名乗る男に紹介されペイトと名乗る男は二人に挨拶をした。

その口調はとても丁寧で腰は低かった。


「イリス…………まさか、この人って。」

「そう。クルス商会のコルツ。この国一番の商会のリーダーよ。」

「えっ!!」

「おや?私の事をご存知でしたか?」

「…………世の中情報勝負ですから。」


コルツと名乗る男は二人が最初に入ったクルス商会のリーダーの男だった。

そして、クルス商会と言えば知らない者はいないというヴェスタ公国最大の商会であった。


「…………そんな偉い人が何故ここに?」


イリスが先に動いた。

先ずは率直な疑問を投げ掛けてみたのだ。


「そんなに警戒しないでください。私達はちゃんと理由があってここに来たのです。」

「理由?」


コルツはイリスの警戒を解くように諭しながら喋った。

しかし、イリスの警戒モードはそれで解かれる事は無かった。


「私達の事?」

「いえいえ、私達もそこの詰所の盗賊団に用事がありまして。何も嘘の証言で物を買わされた事を訴えに来たわけではありませんよ。」

「…………気付いてたのね。」

「あっ、あー。そういうことか。…………まずくない?」


コルツは二人の事が貿易に来たと嘘をついてる事に気が付いていた。

しかし特に咎めようとはしなかった。

それに対してイリスは何か意図を感じた。

一方、マコトはやっと全部の流れが把握出来てきたようで今更ながらの声をあげていた。


「ちょっとお話をしませんか?あなた方の必要な情報もあるかもしれませんよ?」

「…………どうかしら?でも聞いてみる価値はありそうね。」

「イリス大丈夫?」

「さあ?」


コルツの誘いにイリスは乗ることにした。

一方でマコトは事態の収集が追い付かずイリスだよりになっていた。

結局二人はコルツについていく事にした。

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