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告白

確かにそれは彼女だった。

緋色の髪に銀色の鎧。

遠くから見ても間違うことはないだろうその美しい姿だ。

しかし一つだけマコトが見たことないイリスの姿があった。

それは彼女の表情だ。

それはマコトが知っている明るい太陽のような表情ではなく猛々しく威圧感があった。

つい先日見た朝の稽古の風景とはまた違うプレッシャーのようなものを感じた。


「イリ…………くそ!」


マコトは声をかけようと声を上げたが辺りは魔法攻撃による爆発があちこちで起きていて土煙とは爆音で視界は悪く音を聞き取ることが出来ない。

しかしその後衛の術士たちの魔法で盗賊団は退路を絶たれ完全に混乱していた。

そして、方や盗賊団は最低限の装備で方や『ナイト』や『フェンサー』たちのフル装備で外から見れば力の差は火を見るより明らかであった。


「いけー!」

「あっ!」


マコトは一瞬その土煙の中にイリスを見た。

目の前を先頭に立つ彼女が通過したのを見たのだ。

しかしイリスの方はまるで気がついていないようだった。

その直後のことだった。


「押し込めー!」

「させるか!迎え撃ちだ!」


辺りであちこちから怒号が響き渡った。

戦闘が始まったようだ。

武器もなく、辺りの様子もまともに見えていないマコトはしどろもどろするしかなかった。

しかし不思議な事にマコトはもはや標的では無くなっていた。


「お前が目標者(ターゲット)だな?」

「え?」


するとマコトは後ろから声をかけられた。

マコトが振り向くとそこには大きな斧を持った筋肉隆々の勇ましいいかにもという大男が立っていた。


「お前が依頼の目標者(ターゲット)だろ?」

「は?だから何だよターゲットって?」


マコトは突然の話に目を白黒させた。

依頼?ターゲット?全然分からなかった。

そもそもマコトは依頼などしていない。

だがしかし依頼がなければ彼らは動かないのは知っていた。


「それに依頼って誰のだよ?俺は知らないぞ。」

「それがついさっき急に入ったんだ。緊急依頼がな。」

「緊急依頼?」


それもマコトの知らない話だった。

それはマコトの知らない所で事態が動いていることを意味していた。


「そうさ。しかも金貨8枚の依頼だ。流石に集会所も村中に呼び掛けたんだ。戦える奴は参加しろってな。内容は盗賊団の撃退又は捕獲と目標者(ターゲット)の保護。久々の金貨の大仕事で燃えたぜ。」

「一体誰がそんな依頼を?」


一瞬リブレかと思ったがそれは違う。

彼女には頼んでいない。

彼女にはナチューロの衛兵に盗賊団が来ている話して助けを呼んでくれと頼んだだけだ。

それに彼女に金貨8枚なんて払える訳がなかった。


「それはな…………あいつだよ。」


筋肉隆々の大男に指摘された方向を見た。

マコトが振り向いた時、既に戦いは終わっていた。

結果は言うまでもなく盗賊団は全員捕まっていた。

土煙は治まり丁度日の出を迎えた太陽の中に銀色の鎧を輝かせ圧倒的な存在感の中にその依頼者は立っていた。


「…………イリス。」


彼女はじっとこちらを見据えていた。

逆光のせいで彼女の表情を見ることは出来ない。

全身は戦いの後のせいか薄汚れていた。

特徴的な緋色の髪も汗と汚れでぐしゃぐしゃになっていた。

マコトは彼女にかける言葉が見つからなかった。

周りでは盗賊団を拘束してナチューロへ連行していっていた。

その間二人の間には沈黙の時間が流れた。

マコトはイリスの顔を直視することが出来ずにいた。


「…………無事で良かったわ。」


先に話しかけたのはイリスだった。

マコトは体がびくっとなった。

イリスはそのまま話を続けた。


「女の子がいたの…………黒い髪の女の子よ。その女の子は衛兵の詰所にいたわ。泣きながら必死に訴えていたの。仲間を友達を助けてくれってね…………」

「…………」


間違いないリブレのことだとマコトは思った。

しかしマコトには彼女の泣く姿は想像出来なかった。


「…………私はたまたま近くを通った。彼女に聞いたの。どうしたの?って。そしたら彼女はこう言ったわ。友達が、マコトがこのままじゃ死んじゃうって。衛兵はマコトを助けてくれないって…………あたしは一流の行商人だから依頼は守らなくちゃいけないのにこのままじゃ依頼を果たせないって…………」

「…………」

「だから私言ったの私がマコトを救うわって。そしたら彼女更に泣いちゃって、あいつは罪悪感で行くって言ってた。一人で盗賊と立ち向かうような奴だけど本当は弱い奴なんだ。だから誰かが守ってやらないとダメなんだって。」

「…………」


それはそもそもマコトのミスだった。

衛兵が外に出てこないのを知らなかったことを。

しかし、リブレの思いを思うと心臓がつぶれそうだった。


「だから私はその女の子に言ったの。“知ってる”って。そいつは私が救うって…………」

「…………何で?」


マコトは声をを絞り出そうとした。

しかし思ったように声が出なかった。


「…………何で君はそこに?」


マコトはその答えは知っていた。

夜中にイリスが村の中を歩いていた理由、たまたま詰所の近くにいた理由。

しかし、帰って来た答えは少し違った。


「…………理由が知りたかった。」

「理由?」

「そう。私が変な態度を取っても、不運な体質の家系に育って今では家柄すら失ってしまった私と一緒に…………一緒に戦ってくれるってまで言ってくれた人が突然お金だけを置いて消えちゃった理由。」

「俺は…………俺は!」


マコトはここで初めて顔を上げてイリスの顔をはっきりと見た。

彼女の頬には涙がつたっていた。


「私は嬉しかった!初めて一緒に戦ってくれる人がいて!今では誰も…………誰も近寄ってこなかった。近寄らせなかった。私の側にいると不運になるから。私はそんな目に遭う人がいるのも見るのも嫌だった!でも、……でも、とうとう見つけたのよ。私の側にいても不運にならない人を。フォルトゥナの力を使ってでもなんでも良かった。ずっと一人だった。でも、これからは一人じゃないって初めて思った。だから…………だから……マコトがいなくなった時怖かった。私の不運は神の力すら越えるんじゃないかって。神の力を越えたら私はもう一生このままで一人なんじゃないかって…………怖かったの…………」

「イリス…………」


そこにはあの明るい彼女も戦闘での猛々しい彼女もいなかった。

マコトは今まで誤解していたことに気がついた。

イリスは…………彼女はただの女の子なんだと。

恐怖や孤独に怯え、仲間を助けを求める普通の女の子なんだと気づいた。

マコトは決めた。

イリスに隠し事は止めようと真実を知られて恨まれるなら恨まれようと。

殺されるなら殺されようと。


「ごめん。イリス。俺実は君に隠していたことがあるんだ。」

「…………」


マコトは今度こそイリスがの目を真っ直ぐ逸らさずに見た。

自分の全てを彼女に伝えるために。


「実は…………俺はこの世界の人間じゃない。別の世界から来たんだ。」

「…………別の世界?」

「ああ、そうだ。今俺達がいる世界とは全然違う世界だ。俺はそこから来た。」


マコトの頬には汗が滴った。

手もあせでびっしょりだった。


「その世界で俺は…………俺は不運の塊だった。何をやっても上手くいかない。むしろあっちから不運がやってくるんだ。」

「…………それって…………」

「だけどある日、俺は一人の老人と出会った。その人は俺の願いを叶えてくれるていった。だから俺は願った。この不運を無くしたいと。そしたら俺はこの世界にいた。そしてフォルトゥナの力を得た。」


マコトの口の中がカラカラだった。

唾すら飲み込めなかった。

でも、喋ることを止めなかった。

イリスはマコトに対して驚いていた。

自分と同じ体質の人間が他の世界から来たなんてと。


「でも、俺はこの世界でも同じ老人に会った。この村で。そこで言われたんだ。俺があっちの世界で不運が無くなることを望んだからその不運をほしがった奴に与えたと。そしてその不運を貰った奴が呪いをかけたんだ“この世界を”」

「この世界…………まさか!?」

「そう。イリスの先祖様。ヴェスタ国王達。俺の呪いを利用してこの国を握ろうとしている。…………だから俺がこの世界を呪ったのと一緒なんだ。俺が…………俺があんなこと望まなければこの世界は…………イリス。…………君はもっと幸せに暮らせたんだ。そう思ったら君に合わせる顔が無くなって…………一人で何とかしようと思った。君にこれ以上迷惑はかけたくなかった。」

「…………」


マコトは全てを言い切るとその場に膝立ちになった。

そして目を瞑った。


「これが真相だ。君を苦しめたのは俺だ。君になら殺されても構わないと思ってる。」

「…………本当にそう思ってるの?」



イリスが確かめるように聞いた。

マコトは微動だにせずにイリスが近づいてくる気配だけが感じられた。

こんな事実突きつけられては殺したくなるのは当然だろうとマコトは思っていた。

だから体をイリスの前に差し出したのだ。

しかし怒りの刃は振り下ろされなかった。

代わりにマコトは優しさに包まれていた。


「…………バカじやないの?誰だってあんな目に会ったら誰かに不運を擦り付けたくなるに決まってるよ。きっと私も…………」

「イリス。」


マコトは自然と涙が出た。

その涙はイリスの銀色の鎧の胸元をつたった。


「君は悪くないよ。君を責める奴がいるとしたらその人はたぶん苦労を知らない人だ。たまには逃げたって良いじゃない。…………辛いんだから。」

「くっ…………ひっひ…………ぐっ」


マコトは声を押し殺して泣いた。

イリスはその間無言で優しく抱きしめ続け頭を撫で続けた。


「落ち着いた?」

「…………うん。」


イリスは立ち上がると自分服をポンポンと払った。

マコトは顔を見られるのが恥ずかしくて顔を両手で思いっきり擦って赤く見せようとした。

イリスはそれを見て少し笑うと手を差し出した。


「…………ナチューロに戻ろう?」


マコトはその手を取った。

二人はナチューロへと歩いていった。


「おう!」

「依頼料の支払いもしないとね。」

「なあ、ところで依頼料って…………」

「うん。マコトのヴェスタ金貨。」

「やっぱりか!イリス。他に金は?」

「無いよ。昨日は誰かさんを探してて依頼やってないし……」

「うぐっ。」

「でもマコトはまだあるでしょ?」

「…………新品の銅貨が少し。」

「えー。何でそれしかないの?」

「いや、色々と…………」

「宿屋変えないとダメじゃん!このバカ!」

「だいたいイリスが金貨全部依頼に使うから…………」


二人のケンカの声だけが朝の村に響いた。

なんだかんだですね。

しかしまだ最初の村で文無し。

これからどーなる?

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