選んだ道は
「おい。これ道なりが大分違うけどちゃんと着くよな?」
「なーにお兄さん任せとけって金貨分の走りを見せてやるよ。なあ、相棒!」
威勢良く答えたリブレはもう二度三度と手綱を強く打ち付けた。
それに答えるように馬は悪路の中を更に加速していった。
盗賊団に追い付くためにリブレが選んだ道はひどく荒れていた。
本人いはく普通の道は沢山の人が歩くので踏み固められ歩き安くなる。
しかし、抜け道、近道は誰も通らないから道は自然のままででこぼこなのだと。
そこを知ってるのが出来る行商人なのだと。
後半はマコトには理解出来ない彼女の理論があったが兎に角リブレに任せるよりここは他なかった。
「それよりお兄さん。準備は大丈夫なのかい?」
「勿論。」
マコトはそれより悪路のためガタガタと激しく揺れる上でマコトは舌を噛まないように喋るので精一杯だった。
慣れるまでは言葉を最低限にしてもう一度自分の手札を確認した。
手札といっても最初から持っているスマホと以前イリスと師団を追い払った時に渡された火布の余りが4枚あるだけだ。
正直これで戦うのは自殺行為である。
「そう言うリブレこそ、大丈夫か?」
「なあに、請け負った仕事はちゃんとやるのが一流の商人さ。任しといて。」
こんな状況でもそう言えるリブレがこの瞬間マコトはとても羨ましく思えた。
余程自分の仕事にプライドを持っているのだろう。
「冗談だよ。ちゃんと信用してるさ。」
「へへっ。」
マコトは自分が思い浮かぶ商人に対する最大の賛辞をリブレに対してかけた。
リブレは真っ直ぐ前を見据えながら照れくさそうに笑った。
「なあ、お兄さん聞いてもいいか?」
荒れ道をどれくらい進んだだろうか。
やっとマコトが揺れにもなれて普通に喋れるくらいになった頃リブレが急に問いかけてきた。
「ん?どうした?突然。」
「…………何でお兄さんはナチューロに戻るんだ?話を聞いた限りじゃお兄さんはここの生まれじゃない。ナチューロにも最近来たばっかりだ。それなのに何で…………」
リブレにとってそれはごくごく自然な疑問だった。
自分はコンジュラーに『商人』という職業を与えられた。
しかし、その時のリブレには店を持ったりする為の助けは一切なく悩んだ末に旅をしながら物を売り買いする『行商人』になることにした。
周りがほとんど男という商人の世界の中での彼女の立場は明るいものでは無かった。
身体的危険に晒されたこともあった。
でも、リブレはこの職業がコンジュラーから与えられた彼女の天職でありこの職業を極める事で幸せになれるのだと信じて毎日歯を食い縛って働き、仕事を覚えた。
そしてようやく一人で行商人として仕事が出来るようになったのだ。
自分が生きていくためには他人にかまけている暇はない。
それが絶対的教えなのだ。
ところが目の前にいる男はたかが数日しかいなかったしかも、自分の国ですらない所を必死になんとかしようとしている。
それはどう考えても自分の利益にはならない。
儲からないのだ。
そこがどうしても理解出来ないところだったのだ。
「恐らくただの罪悪感じゃないかな?」
「罪悪感?」
リブレの辞書には全くない言葉だった。
商人は時にギリギリのところで勝負しないといけない時がある。
その時相手に対して決していい結果にならないこともある。
しかしリブレは罪悪感なんて持ったことはなかった。
なぜなら、勝負に負けた方が悪いから。
自分は自分の利益を追及しただけだから。
「そう。俺はやってはいけないことをしたんだ。まあ、俺にはそのつもりは無かったんだけどね。でも結果として沢山の人に迷惑をかけることになったんだ。だから思ったんだ。もうなるべくそういう思いをする人を減らせないかってね。」
「お兄さんもしかすると犯罪者?そうは見えないけど…………」
「…………かもしれない。でも、その代わり俺は別の力をもらったんだ。俺はそれで見えるところだけでもなんとか出来ないかなって思ったんだ。このフォルトゥナの力で。」
「フォルトゥナの力?」
リブレは勿論フォルトゥナについての知識は無かった。
でも、リブレには何となく分かった。
マコトはどえらいものを抱えているのが。
「そ。それが理由かな?」
そう言うとマコトはリブレに向かって笑った。
その笑顔にリブレは覚悟の一端を見たような気がした。
決心を決めた人間の顔を。
だから…………
「ふーん。なら尚更重要な仕事になっちゃったね。」
いつも通りに接することにした。
でもそれは、
「いつも真剣勝負なんだろ?行商人は。」
「…………まあね。」
マコトには既に重々承知だった。
リブレは何か見透かされたようで悔しかった。
すると、そうこうしている間にナチューロが見えてきた。
「見えた!ナチューロだ!」
それと同時に気になるのは盗賊団の動向だ。
二人がナチューロに到着しても先に入られていては意味がない。
「盗賊団は?何処だ?」
マコトは辺りを注意深く見回した。
もしかすると村の近くまで来たから灯りを全て落として潜んでいる可能性も十分考えられたからだ。
「あっあそこ。あの隊列。」
先に見つけたのはリブレだった。
また距離はあったが集団の灯りが列を成してこちらに向かって来ていた。
「何であんな分かりやすく?」
遠くからでも火の灯りで集団が来るのが分かった。
しかしそれではナチューロの見張りに早めに見つかる可能性がある。
「たぶん。軍兵とか商人の団体に偽装しているのかも…………」
「何で?盗みなら隠れた方がいいのに…………」
リブレは一呼吸おいてから考えを話した。
「うん。確かにバレないに越したことはないけどあの数でこそこそ動くのはちょっと厳しいから逆に堂々と来て奇襲をかける作戦かも。だとすると相当暴れる可能性もあるよ。」
「…………そんな。」
いよいよ一刻の猶予も無くなってきたなとマコトは思った。
そして自分が何とかしないとと。
ナチューロの南門まであと少しの所でマコトはリブレに声をかけた。
「よし。リブレ!ここで降ろしてくれ。」
そこは辺りにはいくつかの岩があるだけの平原だった。
マコトは荷馬車が留まると直ぐ様降りてリブレに声をかけた。
「ありがとう。リブレ。後は頼むよ。」
「うん。任しといて。お兄さんも頑張ってね。死んじゃダメだよ。」
「善処するよ。またリブレには仕事頼みたいしな。」
「うん。次もがっぽり稼がせてね。」
「ははは。考えとく。」
リブレは最後までリブレだなとマコトは思った。
でも、その一言で緊張がとけていくのが分かった。
「じゃあ、行くよ。」
「おう!」
リブレは手綱を思い切り叩きマコトの元を離れていった。
マコトはその姿を少しだけ見送った。
すると、ふとリブレがこっちを向くのが見えた。
「絶対あたしともう一回取引!約束だぞマコト!」
彼女の叫びはマコトにはっきり届いた。
マコトは一瞬呆気に取られたが思わす笑みが溢れた。
「…………何だよ。お兄さんて言われるの意外と気に入ってたんだぞ。」
マコトはリブレに背を向け南側の道の遠くに連なる火の灯りを見た。
そのまで列はだんだん大きくなってきていた。
「さ。準備準備。頼むぞフォルトゥナ。ここで実力出さないでどこで出すだよ。」
マコトはそそくさと準備を始めた、
今、自分が出来る事を最大限に見せるための100%の準備を。




