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次の村へ

次の村に向かうにはナチューロから南に向かわなければならないためマコトとリブレは村の南門まで来た。

南門は最初にマコトがイリスと村に入った門とは正反対の位置にあった。

要は裏門のような場所である。

しかし、南門も思いの外立派に作られており二人が通過する時にも他の荷馬車が盛んに行き来していた。


「………………」


門をくぐり外に向かう間、マコトの気持ちは複雑だった。

自分の力で緋色の観察者なる人物を探して全てを解決する。

そう自分で決め宿屋を後にした。

それなのにイリスに対して本当に良かったのだろうかと思ってしまう。

自分の選んだこれが本当に正解なのかと。


「ねえ、お兄さん。お兄さんってば!」

「ん?」

「ねえ。お兄さん!聞いてるの?せっかくあたしが話しかけてるのに…………難しい顔して。」


余程難しい顔になっていたのだろう。

心配そうにリブレがマコトの顔を覗き込んできた。


「…………いや、別に。」


マコトは思わず目を逸らして否定した。

たがリブレは何かを勘づいたようだった。


「ふーん。お兄さん…………フラれた?」

「…………え?」

「だってー。村を離れるときに想いを馳せる。これってフラれた男の定番だよ。」

「…………はずれ。」


リブレは当たりでしょというような顔をしながらマコトを見ていた。

マコトは同じようなもんかと思いながらもイリスの名誉のためにもと否定しておいた。

リブレはおかしいなと首をかしげながら綱を引っ張っていた。


「…………ところで次の村はどれくらいで着くんだ?」


マコトにはとりあえず話を変えるために一番気になっていた事を聞いた。


「うーん。このペースで天気が良ければ1日半てとこかな?」


マコトにはその距離感が全く分からなかったのだが馬車が主な移動のこの世界では普通なのだろうと思った。


「ふーん。なんて村なんだ?」

「ドゥヴァって村だよ。ナチューロより全然小さい村でちょっと寄る程度かな。」

「そうなんだ。そういえばリブレ、行商人なのに荷物がほとんどないのは何でなんだ?」


マコトは後ろを振り向いて荷台を見た。

そこにはほとんど荷物はなく太めの縄が数本と麻布だろうか大きめの布が綺麗に折り畳まれて置いてあるだけでとてもこれから行商をするようには見えなかった。


「ふふーん。お兄さんいい所に目をつけたね。実は…………」


そういうとリブレはごそごそと胸元を漁ると小さな袋を取り出した。

その袋は紐で首から吊り下げられていた。


「…………凄いところから出てくるな。」

「ん?なんか言った?」

「いや、で、それは何が入ってるの?」


テレビでしか見たことない袋の出し方に感心しながらもリブレくらいないと出来ないんだろうなとマコトは思った。


「じゃじゃーん。これだよ。」


リブレが袋の中身を自慢気にマコトの手のひらに出した。

それは見たことない粒々の木の実だった。


「?木の実?何これ?」

「これはね、香辛料の元さ。」

「香辛料?あの辛い奴か?」


マコトの第一印象は正直言ってそれがどうしただったが恐らく意味があるのだろうと読んだ。


「そうさ。これはここら辺じゃ栽培が出来なくてもっと南の方から来たのさ。でも最近これを使うと食べ物が長持ちするし旨くなるって金持ちがこぞって探すから今は一粒で銀貨一枚に匹敵するくらいの価値があるんだよ。」

「なるほど。そりゃ凄いな。じゃあそれで商売するのか?」

「ちっち。甘いよ。確かにこれで商売は出来るでもね。使い方が違うんだよ。分かる?お兄さん。」


リブレは人差し指を立てマコトの言葉を否定しながら得意気に答えた。

マコトは腕を組み考えてはみたがさっぱり見当がつかなかった。


「ダメだ。全然、分かんない。降参。」


マコトが降参と両手をあげるとリブレはふふーんと更に得意気な顔をして、


「しっかたないなー教えてあげよう!これはね。謂わばお金の代わりなのさ。」

「お金の代わり?」


どういう意味かいまいちマコトは理解できなかった。

一方のリブレは解説により勢いが出てきたようで、


「そう。金貨や銀貨はたくさん持つとかさばるだろ。」

「まあ、確かに。」


マコトは自分の腰に下げた銅貨の入った袋をパンパンと叩きながら言った。

確かに量が増えれば増えるほどかさばるし重くなる。


「だから賢いあたしはそのお金を一旦香辛料に代えたのさ。香辛料は一粒が銀貨一枚に匹敵するけど銀貨ち比べると圧倒的に軽いから持ち運びに便利なのさ。」

「なるほどな。確かに身銭は少ない方がいいもんな。考えたな。」


マコトは目から鱗が出るかと思った。

イリスもそうだったが賢い奴はいるもんだと。


「へへーん。だろ。しかも持ち銭が少ないから盗賊に遇っても被害が少ないってのも利点なんだよ。」


確かに盗賊に遇っても持ってる最低限の銭さえ渡せばいいので香辛料を取られることは少なそうだ。

マコトは次から次へと出るリブレの知恵袋に感心しっぱなしだった、


「じゃあ、最後にお兄さん。交渉のコツを教えてあげるよ。」

「そんなのあるのか?」


そう言うとリブレは馬の綱を上手く扱い少し足場の悪い所を通り始めた。

すると当然ながら荷馬車は揺れた。


「何だ?突然?」

「実はね…………人間は揺れる物に注意がいっちゃうんだよ。それで集中力が散漫になったところを攻めるんだ。」

「揺れる物に?」


マコトは素早く察知し目を逸らした。

リブレの揺れる物は一つしか思い浮かばなかったからだ。


「へ、へえーそうなのか?そんな事ないだろ。」


マコトは必死に取り繕い自分は見てないアピールをした。


「へっ、お兄さん無駄だよ。これもあたしの武器なんだ。しっかり目がいってただろ…………ポニーテールに。」

「あっ…………ああ。」

「これに皆目がいくんだよ。はははは。」


マコトは心の中でそっちかーと叫び、リブレがどこまで本気かどこまで天然なのか全く区別することの出来ない自分の経験不足を情けなく思った。

その間リブレは自慢のポニーテールを正に馬の尻尾のように上下に揺らしていた。


リブレいかがですか?


僕は大好きです。

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