道中
ドゥヴァの村への二人の道中はなんとも穏やかな旅となった。
地平線の見える見渡す限りの平原で天気も穏やかな中を馬車がひたすら歩く姿はとてものんびりとしたものだった。
途中途中ですれ違う行商人に先の様子を聞き情報を得ながら二人を乗せた荷馬車は進んでいった。
リブレは商人だけあってとても口が回るたちでマコトは退屈することは無かった。
そのまま時間を忘れてしまうほどだった。
リブレは色々な話をしてくれた。
自分がコンジュラーに見てもらった時の話。
初めて商売が上手くいった時の話。
最近覚えた商売の裏技など話は尽きなかった。
そして話をしているうちに日が西に傾き東の空が暗くなり始めた。
「なあ、そろそろ暗くなってきたけどどうするんだ?」
「んー?そりゃドゥヴァまではまだかかるから今日は野宿だよ。」
リブレは野宿に慣れているのだろうあっさりと答えた。
「…………やっぱりそうなるか。」
マコトは覚悟はしていたがやはり野宿となると色々と不安だった。
「何びびってんだよー。野宿なんて慣れれば大丈夫だって。あたしがいるんだし。何回もやってるよ。」
やっぱりリブレは物凄く自信満々だった。
任せろと言わんばかりに胸を一つ拳で叩いた。
場慣れって大事なんだなとマコトは再認識した。
「何処かいい場所があるのか?」
「まーね。来た時にもこの道は通ってるからね。」
「そりゃ頼もしい。」
今のマコトには土地勘があるというのはこの上なく力強く感じた。
やはり知らない土地というのは何かと不安が多いものだった。
「この先に小さな森があるんだ。何も無いところで野宿するよりは遥かに安全だからそこまで頑張ろ。」
リブレはずっと先の方を指差しながら言った。
確かに遥か遠くにそれらしき物が見えるような気がした。
「…………なあ、安全て言うけど因みにここら辺て何かいるのか?」
マコトはリブレの話の中のどうしても気になる一言があり聞かざるを得なかった。
するとリブレはちょっとだけ考えた様子を見せて
「……んー。色々?」
首をかしげニコニコしながら答えた。
それを見たマコトは自分は大変なミスを犯したのかもしれないとこの時初めて思った。
「大丈夫!大丈夫だよ。問題ないって。」
マコトの心配を知ってか知らずか軽口を叩きながらリブレは軽快に荷馬車を進めていった。
それからどれ程経っただろう。
辺りがすっかり暗くなった頃やっとリブレの言う森に着いた。
しかしそこは森というには思いの外木々の間隔が広かったりしていて森というよりは林に近いような印象を受けた。
リブレは荷馬車を森の少し中に入った所に停めた。
「ここなのか?リブレの言っていた場所って。」
マコトは荷馬車を降りて辺りを見回すと確認を取るようにリブレに聞いた。
「うん。そうだよ。ここなら森の外からは見えにくいからここの外で野宿するのとじゃ天と地ほどの差があるくらい違うんだよ。後はこれ!」
マコトの後に荷馬車から降りたリブレはそのまま荷台の方に回ると麻布の下にあった袋から何かを取り出した。
それはいびつな形をした石のようだった。
「何だそれ?」
「ふふーん。これはあたしの野宿の秘密兵器!獣避けの石だよ。
取引先で高位のアデプトから買ったんだ。これを使うと使ってる間は魔物とか猛獣とかがこっちに気が付かなくなるんだよ。」
そう言うとリブレはその石を地面に敷いた草の上に置くとぶつぶつと何かを唱えた。
するとその石は真ん中辺りが緑色に鈍く光だした。
「すげーな。それで大丈夫なのか?てか、魔法?リブレ使えるのか?」
「違うよ。これはこの石の中に入ってる魔力さ。それをあたしが引き出しただけ。だから実際はあたしが魔法使えた訳じゃないんだよ。でも、これで今夜は大丈夫!」
「ふーん。蚊取り線香に火を着けたみたいなもんか。兎に角それで安心して眠れるならありがたい。」
マコトは少し安心してその場に横になった。
そして、腰に着けていた銅貨の入った袋を上手い具合に成形し枕にした。
今日1日は身体的疲労はそうでもなかったが、メンタル的な疲労感が結構あり出来れば早めに休みたかった。
「おい。お兄さんもう寝るのかよ。」
しかしそうはさせじとリブレが横になったマコトの背中をツンツンと木の枝でってこと突っついた。
「何だよ?安心して大丈夫なんだろ?俺は今日飯を携帯してないからもう寝ることにしたんだよ。」
マコトは着の身着のまま出てきたせいで食事やら何やらを用意するのをすっかり忘れていてのだ。
そのため今日はご飯は諦めて明日の村にかけることにしていた。
「なんだよ。お兄さん飯無しかい?まあまあ、金はあるのに…………仕方がない。ここはあたしが一肌脱ごうじゃないか。」
リブレはそう言うとさっき獣避けの石を入れていた袋から黒いパンを一つ持ってきた。
そしてそれを半分に千切るとその内の一つをマコトに差し出した。
「ほい。半分やるよ。お代は朝の銀貨二枚に入ってることにしてやるよ。」
「…………ありがと。そういうことにしとくよ。」
マコトは元々が高いんだからとは思ったが素直にリブレの好意としてお礼を言い受けとるとその黒いパンを食べた。
そのパンはお世辞にも美味しいパンではなかったが空腹を十分に満たしてくれた。
「ふー。食った。じゃあ、寝るわ。」
「おいって!」
腹にパンを入れ余計に眠くなったマコトは今度こそ寝ようとしたが、またしてもリブレが立ちはだかった。
「今度は何だよ?」
「もー。野宿の常識ってもんがあるだろ?片方が見張りして片方が寝るっていうやつ確認してから寝てよね。」
リブレはそう言うとマコトの側に座った。
マコトはしょうがないと一旦体を起こした。
「あたしが先に見張りするからいい頃に起こすから交代してね。」
「獣避けの石があるのにやるのか?必要無くないか?」
マコトは側で光っている石を見ながら言った。
「お兄さんは分かってない!そんなんじゃ行商人は出来ないよ。
夜襲ってくるのは獣だけじゃないんだよ。盗賊や人拐い、人間の方がよっぽど危ないんだから。」
リブレは腕を組みうんうんと頷きながら説明した。
マコトは行商人になる予定なんてあったかなと思いながら大人しく聞いていた。
「そのためにこんな森に入って火も焚かないでいるんだよ。気付いてた?」
「…………全然です。」
「じゃあ、寝てよし。後で交代ね。」
「はい。ありがとうございます。」
マコトは一通り叱られた後に優しい言葉をかけるというアメとムチのような説教を受けありがたく先に眠らせて貰うことの赦しを得た。
マコトは横になって程なくして今日の疲労感と胃に物が入った安心感から眠りに落ちた。




