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デリーブ

デリーブはナチューロから西に1時間ほど歩いた場所にある小さな村である。

ナチューロ程の貿易拠点となりうる村があるとたくさんの人が移り住んでくる。

しかし大きくなった村はその財政を支えていくために税金を課さなくてはならない。

しかし移り住んだ者の中には税金を払うのが難しい者が出てくる。

そういった人々がナチューロを出て少し離れた場所に暮らすのだ。

そういった人々が次第に集まりだし小さなコミュニティとなる。

それがデリーブの様な村の始まりだった。


そんなことは露知らずマコトはデリーブへと向かっていた。

そして出発時の本人の心配とは裏腹に一切迷うことも何かに襲われることもなくデリーブへと到着したのである。


「ふう。着いた。何にも出くわさなかったな。これもラッキーなのか?折角運があるならこういうのじゃなくて何処かでばったりとイリスに会えるとかの方がラッキーなんだけど…………」


決して他人とは分かち合えないであろう贅沢な悩みを吐露しながらマコトはデリーブの村へ入った。


「ナチューロと比べると大分村っぽいな…………」


デリーブの村は100人程度の人が暮らしている小さな村で家々もナチューロで見たものと比較しても大分簡素なものだったものがほとんどだった。


「しかし…………だいぶ違うな。裏通りの店よりボロいぞ。」


あの裏通りの店が意外と立派だったという事実に感心しつつも無駄口ばかり叩いていてもしょうがないのでイリスを探しながら依頼主に会うことにした。


「依頼主って聞いてないけど、こういうのはだいたい村長的な人がって言うのがセオリーだろ。」


マコトは村長の家を目指しつつイリスを探した。

そして、イリスは見つけるとこは出来なかったが村長の家は直ぐに見つけることが出来た…………というより村長を見つけることが出来た。

外で村の皆と集まっていたのだ。

近くに行くと直ぐに余所者だと分かったのだろうか多少の警戒が感じ取れた。


「突然すみません。依頼の件で来ました。」


マコトは出来るだけ低姿勢で話を切り出した。

すると中心にいた恐らく村長であろう老人がこちらに反応した。


「私はこの村の村長です。あなたは?」

「コウノマコトと言います。」

「依頼で来たのは一人だったのでは?」


恐らくイリスが最初に来たとき一人だと言ったのだろう。

ここにイリスが来ていたということは間違いなさそうだ。


「最初はその予定だったんですけど念のため人を増やしたんです。」

「そうでしたか、他にもいらっしゃるんですか?」

「えー。そうですね。相手に気がつかれるのもまずいので外に隠れているのが何人か…………」


突発的に嘘を重ねてしまったが、村人たちは余計に安心したようだった。

やはり援軍は少ないよりは多い方がいい。

まあ、本当は何も出来ない一人だけなんだけど。


「そうですか。それはありがたい。最初に来た女性の騎士様は無口で最低限しか話をしてくれなかったから少し不安での。話をするといつの間にか行ってしまった。しかしあの鬼気迫る雰囲気は凄まじいものじゃった。」

「…………そうですか。……たぶん緊張してたんですよ。」


マコトは平静を装って誤魔化したが心の中は自分が知っているイリスとのあまりにもかけ離れた姿に驚いていた。

しかし、今は驚いている暇はない。


「それでその女騎士にはどのように話したんですか?合流地点が恐らくお話になった場所になるので。話が合うように聞いておきたいです。」


一刻も早くイリスを探さないといけない。

イリスが賢く強いのは間違いないがそれはいつも通りの中での話だ。

冷静さを欠けは判断ミスも出るしそれが命の危機に繋がる可能性も十分に考えられる。

マコトは急ぎたい気持ちを抑え情報を集めることにした。


「ええ。分かりました。最初は行方不明の者が出た頃から話しました。行方不明の者が出たのは一昨日で3人です。みんな子供でした。」

「なるほど。その子供たちに共通点とかは?」

「いえ。この村で生まれた子供というくらいで後は何も。」

「分かりました。次は?」

「それで村では悪魔の仕業やシャーマンの呪術のために連れさらわれたではないかとなり裏の森を探したんです。結局子供はいませんでしたが変わりに足跡は見つけるとこは出来たのです。」

「…………そうでしたか。」


マコトはこの話が情報屋に伝わりナチューロに流れてきたのだろうと思った。


「で、どうにもいかず集会所に依頼したんです。」

「そうですか。では分かりました。では恐らく女騎士は裏の森ですね?」

「ええ、私たちからはそれしか話をしていないので恐らくは…………」


最低限の状況と場所も曖昧であることにマコトは驚いた。

金を払ってまで情報を得ようとするイリスからは考えられなかった。


「それほどあいつを駆り立てるものって…………」

「何か?」

「いえ、こっちの話です。それより伺いたいんですがこの辺て昔からこういうことがあったんですか?」

「いえ、最近になって突然です。」

「そうですか。では最近変わったことはないですか?」

「いえ…………特には。」


するとそこで側にいた別の男が話しかけてきた。


「そう言えば4~5日前に大きな一個師団が西の方から来るのを見ました。」

「一個師団?というとヴェスタ公国軍ですか?」

「いや、正規軍というよりは野良の雇われ兵隊って感じで『ナチューロはここからどれくらいか』と『ナチューロまで村はあるか』とも聞かれました。」

「それは珍しいのですか?」

「まあ、俺はここよりもっと西の出身なんだけどああいうのは見たことがないので覚えてたんです。」

「じゃあ、その師団はもう着いているかもしれないですね。ちなみに規模はどれくらいですか?」

「20~30人位かな。」

「そうですか。ありがとうございます。」


とは言いつつもマコトは嫌な予感しかしなかった。

もしかしたらその師団が子供を拐ったのではないかと。

そういう雇われの師団は子供を拐って鍛えて仲間を増やしていくというのをなんかで見たことがある気がした。

もしこれが情報屋言うシャーマンの仕業でなく雇われ師団の仕業となると話が変わってくる。

相手は戦闘のプロだ。

いくらイリスが強いとはいえ正面から一人で戦って無傷とは考えにくい。

なんとか接触前に引き留めないといけなかった。


「分かりました。後は私たちに任せてください。」


マコトは村人たちに精一杯の空元気の笑顔を振り撒く合流すると言って別れイリスが向かったであろう村の裏手の森へ向かった。

裏手の森はマコトがこの世界で初めて目を覚ました森とは異なり木々の高さが低く空を葉っぱが覆い隠しているように広がっていてかなり暗く下も苔が多く生えていて足場が悪かった。


「へえ。最初にいた森よりこっちの方が全然富士の樹海じゃん。」


マコトは口ではわざとらしく余裕ぶっていたが心の中ではフォルトゥナへのお願いをひたすら唱えていた。

勿論内容はあの厄介な女騎士に無事で合流することとナチューロまで二人で一緒に帰ることだった。


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