森の中1
薄暗い森の中に入るとマコトは極力自分自身の気配を消して歩くことに努めた。
元の世界で培った特技でなるべく厄介事に巻き込まれないようにするために自然に習得したものであったがまさかこの特技で誰かを助けに行く事になるなんて正に人生とは分からないもんだと改めて思ってしまった。
「しかし…………こんな時に何だが案外イリスも運は無いのかもしれないな。これは不運の先輩としてアドバイスしてやんないといけないな。」
こんな事を呟きながら森の中を進んでいくと遠くで火の灯りが一つ二つと見えた。
「あれは?」
マコトがより一層気配を殺して近づいて行くとそこにはテントの様なもので覆われた荷馬車が4、5台あり近くに馬が草を食んでいた。
そしてその近くには無骨な男が何人かいて談笑をしたりしていた。
「あれがさっき言ってた雇われ師団ってやつか…………」
マコトから見える範囲では聞いていたより人数は大分少ないようだがもしかしたら他の所にいるのかもしれないし拐われた子供たちも探さないといけなかった。
「まずは周辺を見つからないように調査しないと…………」
マコトはイリスの事も気にはなっていたが今はそれどころではない。
姿勢を出来るだけ低くして木々の間を縫うようにして移動した。
相手が警戒して木々に隠れやすい森の中を拠点にしてくれた事が更にマコトへの援護となった。
昨日から歩きづめの上にこんな事をやっていて疲労は大分溜まってきていて次第に息と荒くなったがその度に息を落ち着かせた。
目の前に敵がいる以上は兎に角気が付かれないことを最優先に動いた。
これはマコト自身の教訓だ。
面倒ごとには関わらない。隠れて見ないでやり過ごす。
一歩踏み入れれば不運に見舞われて自分に災難が降り注ぐ。
全部経験談だ。
端から見ると大分格好の悪い教訓ではあったが長年不運の中に生きてきたマコトにとっては一種の処世術に近いものがあった。
「本当に……はあ、…………何が役に立つか分かんねーな。」
だいたい20分か30分程だろうかじっくり時間をかけて調べ分かったことは今はほとんどの人間がいないということだ。
もしかしたら買い出しや食料の調達に出ているのかもしれない。
そしてもう一つ。
経験則でしかなかったが恐らく現在この場にはこの師団のリーダーはいない。
あまりにも今残っているメンバーがリラックスし過ぎている。
そういう集団だと言えば終わりだが仮にも誘拐までするような集団だ。
リーダーは相当ヤバい奴に違いない。
きっと鬼の居ぬ間の洗濯に違いないだろう。
後者はかなり希望的観測だったがそこはフォルトゥナに願うしかなかった。
「よし。今のうちなら気がつかれずに子供たちを助け出せるかも。」
子供たちの居場所の目星はついていた。
恐らく一番大きな荷馬車だろうと。
「…………死角から行けばきっと大丈夫。」
何度も外にいる男たちを確認してマコトはいよいよ意を決して潜入することにした。
「よし。今だ!…………うぐっ!」
立ち上がろうとした瞬間マコトは何かに後ろに引っ張られた。
一瞬の内に羽交い締めにされ口を塞がれてしまった。
ヤバいと思ったマコトは力いっぱい暴れた。
しかしマコトに絡み付いた腕はびくともしなかった。
その間もマコトはずるずると引っ張られていた。
(ヤバい!どうする?)
しかし、こういう状況は多少の慣れがあるこういう時は相手の脇を責めるのだ。
どんな相手も脇を突かれると多少は効く。
(届け!)
マコトは絡み付いた腕を少し下げさせ手をクロスするようにして相手の脇を突くように狙った。
「きゃっ!」
その瞬間相手の腕が緩むのが分かった。
マコトは一気に肘で絡み付いた腕を外し相手から離れた。
そして側にあった木の枝をパッと拾い上げた。
「どうだ!ただではやられ…………イリス?」
そこには脇を押さえているイリスがいた。
…………物凄いジト目でこちらを睨んでいた。
マコトの勘が叫んだ。
コレハマズイ!と。
「…………何か言うことは?」
「…………すみません。」
「…………どこ触った?」
「…………脇を少々。」
「…………後は?」
「いや…………それだけだと思う。」
マコトは無我夢中でやったためほとんど手に何かに触った感触はなかった。
しかし、何故かイリスは少し落ち込んだ様子でいた。
「そんな事よりイリス無事だったのか?」
「…………そんな事?」
…………何故かイリスは物凄く怒っていたがはあと一つため息をついた。
「それはこっちのセリフ。マコト何でこんな危ない所にいるの?」
「…………それは。」
「今だって私が助けなかったら相手の仕掛けたトラップに引っ掛かってたんだよ。」
「…………マジ?」
「マジ。ここまでもそれなりの数があったと思うけど大丈夫だったみたいね。」
「え?全然見なかったけど…………そんなにあったの?」
「はあ……たぶん私が全部外したんだよ。結構あったよ。本当に運がいいねえ。私が外した後を歩くなんて。」
イリスにラッキーを嫌味のように言われたことより自分が完璧にそういったものは掻い潜ってきていたという自信が砕けた方がマコトはショックだった。
「とりあえず見つかるとまずいからこっち来て。」
「ああ。」
マコトはイリスに促されるままに着いていった。
そこは岩がいくつか重なってあり隠れてるには丁度良かった。
そこにマコトは何故かイリスに正座させられイリスはそれを見下ろす立ち位置で立っていて何だか説教中のようだった。
「で?何故?どうやってここに?」
「…………決めたから。」
「…………何を?」
「自分のこれからしたいことを。だから自分で調べて来た。」
マコトは端的だがはっきり伝えた。
それを聞いてイリスの最初のちょっと怒りと呆れを含んだ雰囲気が変わった。
「…………何がしたいの?」
「まずは君の事を知りたい。君がこのフォルトゥナの力に嫌悪感を抱く理由をそしてそれでも俺が力に慣れるならなりたい。」
「嫌……と言ったら?」
「…………こそこそ着いて行って調べる。俺って運がいいから意外と上手くいくんだよね。」
「…………ふふ。何その顔?」
マコトはイリスの顔を見て出来る限り精一杯のどや顔で答えた。
イリスはその顔を無表情で数秒見た後、思わず笑ってしまった。
しかしそれはどや顔が面白かったからという理由ではなかった。




