33.介入.
始祖がジャレッドへ足を振り下ろそうとした刹那、動きが硬直した。
「……なぜ、だ」
「……これはこれは、みんな勢ぞろいだね」
倒れているジャレッドからは、始祖が誰に向かって声を発したのかわからない。
だが、彼女に向かい、幾重にも魔術の鎖が巻かれているのが見えた。
「私はジャレッドだけに用があったんだ。君たちはお呼びじゃないんだよね」
ジャレッドにかけるときよりも声音が固く感じた。
なにが起きているのかと思い、軋む躰を起こすと、
「……お前ら、どうして」
――視界の中には仲間たちがいた。
「僕が呼んだんだよ。みんな優秀だね、ちょっと教えただけですぐに拘束魔術を使いこなしているよ」
そう言ったのはラスムス・ローウッド。
始祖の子孫であり、彼女に安らかな眠りを与えようとしている、滅びた魔導大国の元王子である。
彼だけではない。
「貴様を打ち倒すのは私だ。始祖などに譲るつもりなど毛頭ない」
かつて殺し合った暗殺者の少年プファイルもいる。
「ジャレッド、お前が苦戦することは誰もが予期していた。オリヴィエの体を使われたと言うのであれば仕方がないだろうな」
二人目の殺し屋として戦ったローザも。
「単純な力だけならもう誰にも負けないと思ったんだけど、やっぱり優しいって言うか、甘いっていうか、困った弟分だぜ」
かつての恩人であり、一度は敵とした戦った兄貴分のルザー・フィッシャーもいた。
「ジャレッド! なぜ僕たちに頼らなかった! 僕たちは親友だろう!」
「友よ、いつだろうとどこだろうとそなたの危機なら私は駆けつけよう」
学友のラウレンツ・へリングと、本来ここにはいてはいけない王子ラーズもいる。
「ジャレッドくん! ごめんね! ちゃんと謝るまで、償うまで、死なせないから!」
ラスムスの妹であり大切な友達であるクリスタ・オーケン。
「成り行きだ。俺も手伝ってやる」
ぶっきらぼうに言い放ったのは、過去にもめたことのあるドリュー・ジンメルだった。
「師匠としてはかわいい弟子の面倒をみないとね!」
命の恩人であり、戦う術を授けてくれた師匠、アルメイダ・ムウラウフも。
「一度は無様な姿を晒すことになったが、二度と失態をするつもりはない」
最近まで顔さえ知らなかった母の父であり、暗殺組織の元長ワハシュもいた。
「オリヴィエは妾の家族じゃ! 竜とか人とかしったものか!」
種族の壁など関係なく家族になった竜の姫璃桜が大きな声を出す。
「国の、いや、大陸の危機に君だけを戦わせたりしないさ」
「あんたには借りがあるから、ここで返させてもらうわ」
宮廷魔術師のトレス・ブラウエルとアデリナ・ビショフまでもがここにいた。
「お兄様! 僕だってお力になります!」
オリヴィエの弟、コンラート・アルウェイも、
「秘書官としてお手伝いにきました」
かつて復讐者として戦ったバルナバス・カイフの妹であり、今では秘書官として家族として一緒にいるエルネスタ・カイフもいた。
そして、
「……ジャレッド・マーフィー。始祖を復活させたことに謝罪はしないわ。でも、あなたからオリヴィエを奪ったことを、オリヴィエを生贄にしたことだけは……後悔しているわ」
「微力ながら私もお手伝いさせていただきます」
ジャレッドと敵対し、オリヴィエを始祖に捧げた張本人であるカサンドラ・ハーゲンドルまでもが、元婚約者であり宮廷魔術師第一席のデニス・ベックマンを連れて参戦していた。
ジャレッドとオリヴィエが繋いだ縁を持つみんなが、この場に集っていたのだ。
「はぁ。みんな大集合じゃない。そんなに私のことを敵視するのね」
「違いますよ、始祖よ。みんな、ジャレッドくんが心配なんです。オリヴィエくんを取り戻したいのです。それだけです」
「つまり私はどうでもいいと。それはそれで腹が立つけど……で、結局、私を拘束してどうするの? さすがにこの人数で拘束魔術をかけられたらいくら私でも動けないわ」
ラスムスはにこり、と笑った。
「僕はずっとずっと待っていました。死しても利用されるあなたに安らぎを与えるために」
「大きなお世話と言ってあげるわ」
「その自覚はあります。何度も迷ったことさえありました。ですが、今は僕がこの時代に、この場に居合わせることができたことに感謝します」
集まった面々の中で唯一、拘束魔術を使っていないラスムスが動けない始祖へ近づいていく。
「なにを企んで」
「始祖様を僕の中に移っていただきます」
始祖を目の前にして足を止めたラスムスの足元で魔方陣が現れ、眩く発光する。
「始祖の器は女性。しかし、例外もあります。僕はあなたの直系ですから、一時的な器になるくらいなら問題ありませんよ」
「……なるほど、オリヴィエを解放させるつもりか」
「いいえ、違います」
「だったらなにが目的かな?」
「無論、僕の目的はあなたの安らぎです。始祖様、僕と一緒に死んでもらいます」




