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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
九章

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27.これからの相談2.




「そろそろハーゲンドルフ公爵領に入ります。はっきり言って、カサンドラ殿がどのような手段に訴えるかわからない以上、警戒はしていてください」

「……単純に襲撃されるくらいなら、そっちのほうが面倒がなくていいんですけどね」

「正直、私も同じ考えです。相手が短慮な行動してくれるほど、こちらが追い詰める理由をもらえますので」

「王宮はハーゲンドルフ公爵をどうするつもりですか?」


 一応、聞いておかなければならないと思っていた。

 始祖復活を目論んでいるのを知っているのはジャレッドたちだが、王宮はそれを知らぬ上でどう彼女を処理するのか気になる。

 まだ公爵と相対するかどうか不明だが、お互いに魔術を使い戦いとなるのなら、命を奪う可能性だってあるのだ。


「現状ですと、よくてカサンドラ殿を当主から降ろすくらいでしょうか」

「意外と、軽いですね。こっちは屋敷に乗り込まれて、客人に暴力を振るわれたんですが」

「それについては私のせいです。申し訳ないと思っています。しかし、それだけではカサンドラ殿を裁くことは簡単ではありません」


 意外と軽い処罰の可能性に、つい嫌みを言ってしまった。

 口にこそ出していないが、今回の件で思うことは多々あるのだ。デニスにだって感謝しているが、家族を巻き込んだことを無条件で許しているわけではない。


 巻き込まざるをえない事情があり、国が動いている。尚且つ、ジャレッド自身がこうして助けられているのだ。腹がたっても、飲み込むのが当たり前だ。過剰に反応して、これからに支障が出ても困る。

 まだ未成年ではあるジャレッドだが、そのくらいの分別と我慢はできるのだ。


「国王は、カサンドラ殿から直接弁明を聞きたいとおっしゃっています。もちろん、アルウェイ公爵家にしたことが許されることはありません。正式に謝罪、その上で処罰も受けるでしょう」


 そして当主の座から引き摺り下ろされることになるだろう。

 本音を言ってしまえば、カサンドラ・ハーゲンドルフの行動次第では完膚なきまで叩き潰したい。現状では無理だが、始祖復活の証拠を握れたら可能だろう。

 公爵という立場ゆえ、なあなあで終わらせてしまうことは避けたかった。


「このようなことをあまり言うのは気が進まないのですが」


 そう前置きをして、デニスが言葉を続けた。


「カサンドラ殿のご兄弟たちは評判が悪かったのです。そのお母上たちも、少々問題があるかたたちでした」


 ラスムスから聞かされたカサンドラが受けた仕打ちを思えば、そんな気はしていた。


「ですので、ご兄弟を排してまで当主となったカサンドラ様を支持する人間は多いのです」

「まあ、そうでしょうね」

「王宮としても、それゆえにカサンドラ殿を処罰することで敵を作りたくないと考えています。甘い考えであると言われればそれまでなのですが、バランスも重要なのです」


 決して気持ちのいい話ではないが、貴族間ではよくあることだ。

 民に大きな被害が出ていたのならさておき、今回は同じ公爵家が被害者だ。さらに言えば、貴族同士の争いも珍しくない。


 今回捕まったのが、宮廷魔術師任命寸前のジャレッドであり、王宮を無視しての行動だったため大事になってしまっている。だが、不仲な一族の力をそごうと、褒められない手段を取る貴族がいないわけではない。


 時には王族関係者でも似たような手を使うことがある。それが、権力争いというものだ。

 もっとも、今回は権力争いではなく、始祖復活を目的としたカサンドラ・ハーゲンドルフ公爵が邪魔者を排除しようと先手を打ったということ。


 しかし、事情を知らぬ者からすれば、権力争いに見える可能性は大きい。

 ゆえに、現状では王宮はカサンドラを裁ききれない。無論、そうしないためにデニスがここにいるのだが。


 仮に、ラスムスの言葉通り、カサンドラが始祖復活を企み、その証拠を手に入れることができたとする。だが、始祖復活に関する情報を明るみには出せない。そんなことをすれば、始祖を狙う者が生まれるかもしれないし、数百年前に死んだ人間が復活できる技術を欲する者も現れるだろう。ゆえに、やはり処罰しきれない。


 一年に満たない間に、ジャレッドは幾人の貴族の末路を見てきた。

 例えば、婚約者とその母の命を狙い続けた、コルネリア・アルウェイ。彼女ははっきりした証拠があるにも関わらず、領地で軟禁されている。


 これはアルウェイ公爵が内々で処理したからだ。

 カサンドラの行動は一族内を飛び出てしまっているが、王宮側にしてみれば、貴族内という枠組みの中で処理したい事案なのだろう。


 始祖を復活させれば彼女の勝ち。しかし、敗北しても爵位を奪われるだけ。

 そんな敵の現状に、ジャレッドは悔しく思う。だが、それらの感情を飲み込み、今は自分のすべきことに集中する。


 ――あーあ、早くオリヴィエさまのところへ戻りたい。


 内心そうぼやく少年は、婚約者に思いを馳せながら、デニスと会話を続けるのだった。





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