表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
九章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

437/499

23.先手を打っていた者2.



 夜になると、情報を持ってラスムスが戻ってきた。


「今回のことに関しては、僕が助けを求めたせいだ。こんなことになってしまって申し訳ないと思っている」


 オリヴィエたちに頭を下げた少年を、誰一人として責めることはなかった。

 婚約者が強引すぎる逮捕をされたことに憤りを覚えていないわけではないが、彼を責めて問題が解決するわけでもない。ならば、感情的にならずに、冷静でいるべきだ。


 ラスムスを応接室に通し、オリヴィエ、プファイル、ローザが同席する。

 ここに、ジャレッドの秘書官二人も加わりたいという申し出があったのだが、手を借りたせいで彼女たちまでになにかあるのは望んでいない。


「いろいろツテを頼ってみたところ、ジャレッドくんはハーゲンドルフ公爵領にある別宅で軟禁状態にあるみたいだ」

「無事なの?」

「安心していい。無事だ」


 一同はジャレッドの無事に安堵する。ただし、問題が解決したわけではないので、それもわずかな間だけだ。


「ふん。無事と言うが、禁術の罪で囚われながら、行き先が魔術師協会や牢獄ではなく、公爵家の領地というのもおかしな話だ」

「プファイルの言う通り、カサンドラ・ハーゲンドルフの目的が読めない。いささか暴走していると見るべきか」


 ローザたちは、ただジャレッドを捕らえてそれ以上の行動を見せないカサンドラに疑問を覚えていた。


「ジャレッドくんのことも心配だが、僕はカサンドラのことも心配なんだ。頭のいい彼女が、こんな愚かな真似をしたのなら、後先このことなんてきっと考えていないはずだ」

「と、いうと?」

「始祖を復活させた以降になにをしたいのか不明だけど、依代はカサンドラ自身になる可能性が大きい」

「ええ、そう言っていたわね」

「僕の不安は、どうせ依代になるのだから、やり過ぎようが構わないとカサンドラが自棄になっていないかと不安なんだ」


 ラスムスの心配はオリヴィエもしていた。

 カサンドラの行動は常軌を逸している。王宮から帰ってきた父と、短い時間だが顔を合わせて話を聞いている。

 いくら公爵家当主であろうと、他公爵家の婚約者をほとんど冤罪で捕らえ、公爵家別宅に押し入ったのだ。これは越権行為でしかない。


 すでにカサンドラを捕らえ、公爵家当主から引きずりおろせという声もあるそうだ。

 実際、それだけのことをしている。カサンドラ・ハーゲンドルフはそれだけのことをしたのだ。

 しかし、不思議なことにハーラルト・アルウェイと王宮の反応がおとなしすぎるのだ。

 王宮側も、父も、カサンドラの越権行為に憤り、それこそ即拘束するために兵を差し向けるくらいするかと思われていた。実際に、そういう声が多く挙がっているのだ。だが、それをしていない。


 ――もしかすると、わたくしたちの知らないところでなにかが動いている?


 オリヴィエがそんなことを考えるも、答えはでない。考え過ぎかもしれないと思いながらも、どこかで父と王宮の反応がおかしいと思わずにはいられないのだ。


「わたくしも同感よ。まさかとは思うけど、カサンドラさまは後のことなどなにも考えていないのかもしれないわね」


 自分のことはもちろん、ハーゲンドルフ公爵家がどうなろうとしても、始祖復活さえ遂げてしまえばそれでいいと思っている可能性が高い。


「だとすれば、我々にとっては相当厄介な敵になるのだろうな」


 苦い表情を浮かべたプファイルに、一同は反論することができない。

 カサンドラが、始祖を復活させるだけを第一に考えているのは理解できる。それ以上はあくまで予想でしかないが、その後のことは始祖まかせにしようとしているのではないかと思えなくもない。


 もともとハーゲンドルフ公爵家でよい思いをしていない彼女なら、自分の行動のせいで家が取り潰されてしまっても構わないと思っている可能性だってある。そもそも、始祖の依代になってしまえば、そんなことを考えることさえできないはずだ。


 ルーカス・ギャラガーのように、王になるという目的なら、自分をないがしろにすることはないだろう。死んでしまっては、目的を果たせないのだから。

 だが、始祖さえ復活してしまえばそれでいいのであれば、カサンドラは始祖復活だけに集中すればいい。他のことなど全く気にせず。

 プファイルの言う通り、厄介な敵になることは間違いなかった。



 ※



 時間は一日ほど遡る。

 拘束されたジャレッド・マーフィーは、屋敷の外に準備されていた馬車に乗せられていた。

 同乗者は自分を逮捕した騎士がひとりだけ。あとは御者だけだ。


 その気になれば、二人を倒して逃亡することも可能だが、それをしたところでどこに逃げるあてもなく、今度こそ正式な逮捕理由を与えてしまう可能性だってあるため動けずにいた。

 そんなジャレッドに、騎士が不意に声をかけてきた。


「なにやら大変な目に遭ってしまいましたね、マーフィー様」

「……その声、嘘だろ?」

「おや、すぐにバレてしまいましたね。あの場で声を出さずに正解でした」


 聞き覚えのある声に驚くジャレッドに、兜の中で苦笑した騎士は、おもむろに装備を解除してその姿を露わにした。


「……デニスさん」

「このようなことをしてしまい、申し訳ございません。今、拘束を解きますね」


 鎧兜の中からは、知己である男性――宮廷魔術師第一席『陰影』デニス・ベックマンが柔和な笑みを浮かべて現れた。


「どうして」

「ハーゲンドルフ公爵領への道中に、私がここにいる理由をすべてご説明させていただきます」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ