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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
九章

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22.先手を打っていた者1.



 ジャレッドが連行された翌日。

 ハーラルト・アルウェイ公爵が王宮、魔術師協会、ハーゲンドルフ公爵家に正式に抗議した。

 王宮からの回答は、石化魔術の禁術指定、ジャレッド・マーフィーの逮捕、アルウェイ公爵家別邸への侵入、すべてに関わっていないとのことだ。

 魔術師協会側は、禁術指定を決める会議を行ったことは認めているが、正式な禁術認定と逮捕の許可をした覚えがないという。


 これにハーラルトは憤慨した。

 つまり、ハーゲンドルフ公爵家の独断で、ジャレッドは逮捕されたのだ。

 そもそも、宮廷魔術師であり、公爵家令嬢の婚約者という立場がある人間を、一切の前置きもなく逮捕することは前代未聞である。


 仮に、ジャレッドが他国の諜報員であったり、国家反逆罪にかけられていたりするのであれば話は別だが、そうではない。

 ハーゲンドルフ公爵家からの返答はなく、沈黙を保っている。カサンドラ・ハーゲンドルフに直接抗議しようと、ハーラルトが屋敷まで出向くも、執事に丁寧に追い返されてしまう始末だった。

 現在、王宮に魔術師協会幹部とアルウェイ公爵、ダウム男爵などが集められて、今回の件に関する話し合いがされている。


 プファイルが、王宮を覗きにいくも、そこにカサンドラの姿はなかった。元暗殺者の少年は、ひどく残念がっていた。おそらく、彼女を見つけたら直接手を出していただろう。

 そして現在、オリヴィエたちは食堂に集まっていた。


「そもそも、なぜカサンドラ・ハーゲンドルフは手際よく動いたのだ?」


 それぞれが苦々しい表情を浮かべている中、ローザが赤髪を手でいじりながら疑問を口にした。


「手際がよかったと言えるだろうか?」


 首を傾げたのはプファイルだ。

 カサンドラの行動は勢いこそあったが、手際がよかったとは到底思えない。現に、彼女の行いが進行形で問題視されているのだから。


「相手はジャレッドを捕縛することを目的としたのだから、無事に果たしているではないか。あとは問題になろうと構わないのだろう」

「ジャレッドの身動きを封じることしか考えていなかったのか?」

「私はそう考えている。だが、なぜわざわざ公爵家の力を使ってまでする必要があったのか、が疑問だ」


 すでにオリヴィエの口から、ハーゲンドルフ公爵家が魔術師協会と関わりが深いことを聞いていた。

 アルウェイ公爵家に王都守護という役目があるように、ハーゲンドルフ公爵家には魔術師協会の監視という責務がある。


 かつて王宮と魔術師協会の関係が密でなかった時代に作られた務めではあるが、現在は監視だけではなく、協会内で役職を持ち、運営にも関わっている。その中で、禁術指定、宮廷魔術師候補の選出にも意見を求められることが多い。


 それゆえに魔術師協会に圧力をかけることはできたのかもしれないが、そこまでする必要があったのかと思えてならない。もっと時間をかけているならさておき、どう考えても急ごしらえの作戦では、カサンドラ側に非があることを隠せていない。


「それって、カサンドラさまがジャレッドに何か思うことでもあったということなのかしら?」


 今まで口を閉じていたオリヴィエが問う。


「先の、ルーカス・ギャラガーの一件のように、あとあとになって介入を避けるため……いや、違うな。奴は藪をつついて蛇を出すこととなった。それを知らないはずがないだろう」

「ローザの言う通りだ。いくらジャレッドが今まで多くの事件に巻き込まれていたとはいえ、自ら手を出すのは愚行だ」

「ラスムスがジャレッドに助力を求めることを察知していたのかしら?」

「あの男はいささか身内に甘い傾向があるように思える。父ワハシュが襲撃に失敗している以上、ここに来ると読んでいたのだろうな」


 ローザの言う通り、実際、ラスムスはジャレッドたちに助けを求めてきた。

 ワハシュほどではないが、宮廷魔術師としても抜きん出た力を持つジャレッドに、同党の実力者であるプファイルとローザもいる。

 実に助けを求めやすい人員が揃っていた。


 公爵家であり、魔術師協会に関わりを持つのなら、アルウェイ公爵家別邸に三人が揃っていることは知っているはずだ。

 ならば、ラスムスの動きさえ把握していれば、簡単に先手を取ることも可能だったはずだ。

 たとえ強引だとしても、魔術師協会を動かせば、後のことは知ったことではないと目的だけ優先することもできる。実際、そうなっている。


 しかし、ローザたちに疑問通り、そこまでしてジャレッドをなぜ捕縛したのかがわからない。

 ラスムスの手助けを阻止したかったのならば、他にもプファイルとローザも捉えるべきだ。二人の場合、ヴァールトイフェルの後継者だった過去を持つのだから、簡単にことを運べたはずだ。しかし、しなかった。


「……王宮はどのような動きをするのでしょうね?」

「お前の父親が動いているのだからそう心配することもあるまい」

「そう、なのだけどね」


 現時点でハーゲンドルフ公爵家の独断はわかっている。

 禁術指定を決定するのは王宮だ。あくまでも魔術師協会は選定するだけでしかない。

 国へ報告義務があり、ひとつの機関だけですべてを決定することはできない。にも関わらず、今回は、公爵家が介入したとはいえ独断で行ってしまったことになる。


 魔術師協会はあくまでもハーゲンドルフ公爵家の独断であり、関わっていないと公言しているが、実際はどうなのか怪しくもあるのだ。

 そもそも、石化魔術を禁術指定にする前に、古の魔術が復活したことにもっと注目するべきだ。失って久しい魔術を使えるジャレッドの現代魔術に対する貢献は大きい。


 仮に、禁術相応の魔術であると判断されたとしても、被害を出しておらず、使ったのも国が関わる戦いの最中なのだから問題にする方が無理がある。

 つまり、ジャレッドの逮捕はやりすぎだということだ。


「カサンドラさまは、なぜジャレッドを?」


 ここにはいない婚約者がどこでどうしているのか、心配になるオリヴィエだった。




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