24.璃桜救出1.
オリヴィエは騎士のひとりにユーイング公爵がレナード・ギャラガーに組していることを父に伝えるように命じると、
「璃桜を助けましょう。ジドック、案内して頂戴」
「構いませぬが……ご一緒するので?」
「ええ、わたくしが安全な場所に戻ってからでは時間がもったいないわ。それに嫌な予感がするのよ」
その予感が璃桜に対するものか、ジャレッドに対するものなのかはっきりした確信はない。だが、胸騒ぎがするためオリヴィエを焦らせる。
「俺は正直反対です。屋敷の中には意識を奪っていても敵ばかりです。せめてどうか、この場にいてください」
「家族を想う気持ちは痛いほどわかりますが、あなたになにかあったらジャレッドに顔向けできません」
「……わかったわ。無理なことを言ってごめんなさい。わたくしはここで待っているから、璃桜を――わたくしの家族を助けて、お願い」
オリヴィエの願いを受け、ルザーとラウレンツは力強く頷くと、ジドックを引き連れ屋敷に中へ戻っていく。
未だ目を覚ましていない王立魔術師員と生徒たちを踏み越えて、璃桜が囚われているという部屋に案内された。
「こちらですぞ。この部屋に、竜の少女が囚われております」
「ありがとう。君はもう外に戻ってくれ。なにかあったら申し訳がない」
「ふひひっ、拙者のことならお構いなく。危険を感じたら逃げますゆえ。それに、興味もありました。幼き少女とはいえ竜は竜なのですから」
ジドックの疑問はルザーたちの疑問でもあった。
聞けば、ジャレッドは璃桜と戦ったことがある。それも一方的な力量差で敗北したという。ジャレッドの強さを知る者として璃桜の強さはまさに人間を凌駕した竜である。
そんな少女がなぜ囚われてしまったのか――答えは扉の先にある。
「敵はいないようだな。いくぞ」
静かに扉を開けると、なにもない殺風景な部屋の真ん中で光の球体に包み込まれて眠っている少女がいた。――璃桜だ。
「結界か」
「おそらく竜用なのでしょうな。いったいどこから竜を封じ込めることが可能な結界を用意したのか、拙者は気になってなりませぬ」
「ジドック殿の疑問もそうだが、僕としてはなぜ、アルウェイ公爵家に璃桜という竜族の少女がいることを知っていたのかが気になる」
「きっと監視していたんだろうね。ジャレッドが、いいやプファイルやローザを含め敵にとっては厄介な障害になると前々から考えていたんだろうさ」
ラウレンツの疑問に応えたのはルザーだった。
アルウェイ公爵家ならいざ知らず、オリヴィエやジャレッドたちが住まう別宅には使用人はいない。トレーネ・グラスラーというメイドがいるものの、彼女は家人ではなく家族だ。
裏切る人間など一人もいないのだ。
ならば遠目から監視するしかない。もしくはアルウェイ公爵家のほうで情報を拾い集めるくらいだろう。
どのくらい前からジャレッドたちを警戒していたのかわからないが、相応の準備期間はあったはずだ。
「竜用の結界も、手に入れようと思えば珍しくない。ここウェザード王国は竜王国と友好関係があるから必要がないけど、竜による被害が多い国では当たり前のように手に入るものだよ」
いたずらに捕縛はできず、人里を襲う竜王国所属の竜は討伐対象となるため、璃桜に使用されたような結界はいらない。必要なのは、竜に通じる攻撃手段を持つ人材のほうだ。
「レナードもこの子を殺すつもりはなかったようだね。この結界は対象を封じ込めると同時に、守ってもいるみたいだね」
「ふん。仮にも竜王国の王族だ。万が一、国取りに成功しても竜を敵にすれば滅びることは必至だ。だからこそ、捕縛を選んだのだろうな」
竜の逆鱗には触れたくない。それは人間なら誰しも思うことだった。
「璃桜たんが無事なことは喜ばしいのですが、問題はどうやって開放するのですかな? 結界ごと運びますか?」
「うーん。きっと触れたら死ぬほど痛い目に遭うかもしれないよ。っておい、ジドック・ロッコ! 息荒らげて触ろうとするなっ!」
「も、申し訳ありません。つい……」
「つい、じゃないからさ。まったく。この変態が馬鹿なことをしない内に――結界を破壊しよう」
性癖に素直すぎるジドックに呆れつつ、ルザーは軽く雷撃を結界に向けて放った。
紫電が光の膜にぶつかると、耳が痛くなるような音を立て反応する。
「おいっ、いきなり攻撃するなっ。耳がおかしくなる!」
「悪い悪い。でも、はっきりした。このくらいの結界なら外から壊せるよ」
「なに? 僕のは無理そうなんだが……ルザー、お前ならできるというのか?」
「相性の問題さ。それに結界破壊は初めてじゃない。幸いと言うべきか、璃桜は結界そのものに守られているから被害はないと思う。それに、この場でできることは限られているから、少し無茶をしてでもやるしかない」
返事を聞かずに魔力を高めるルザーに、兄弟そろって無茶苦茶だ、とラウレンツは苦笑した。
「少し魔力をためる必要がある。その間に、屋敷の中にいる人間を外へ出してほしい。多分、巻き込んでしまうと思うから、君たちも外へ避難してほしいかな」
「……あの、この小さな結界を壊すのにルザー殿はどれだけの雷撃をぶっ放すおつもりで?」
「いい質問だ。答えは――俺にできる全力をもって」
「さっ、逃げますぞ。拙者、痛いのはむしろウェルカムですが、死んでしまうのはごめんです。快感の前に死が訪れてしまったらなにも楽しめないではないですか!」
「そんなこと僕が知るか! くそっ、こんな変態と一緒に人命救助とは……これは大きな貸しになるぞ、ルザー・フィッシャー」
「ああ、必ず返すよ」
「ふひひっ、拙者さりげなく変態と言われたでござる」
「黙れ変態っ。悶えている暇があったら早く動け!」
体をくねらせている変態の腕を掴んだラウレンツは、敵とはいえ救える命を救おうと駆けだしていく。
残されたルザーは、結界を破壊すべく魔力を高め雷へと変換し続けた。
魔力がすべて雷へと変わる。青白い雷がルザーを中心に舞う。
たった一撃、されど一撃、魔力をすべてつぎ込んで結界を破壊するのだ。
「強がってみたけど……結界を壊すことができるか五分五分かもしれないな」
それほど竜を封じ込める結界は強固なのだ。
「ルザー! 屋敷の中にはもう誰もいない。僕たちも避難するからいつでもいいぞ!」
「さすが仕事が早い」
たった二人だけにも関わらず、倍以上の人間のために奔走したラウレンツとジドックに感謝の念を贈る。
そして――部屋の中に渦巻く蒼雷をいっきに解放した。




