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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
七章

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12.帰還3. ただいま.




 屋敷に戻ったジャレッドを、家族たちは総出で出迎えてくれた。

 改めて王都に帰ってきたのだと実感することができた。


「お帰りなさい、ジャレッドさん。お勤めご苦労さまでした」


 家族を代表しハンネローネがねぎらいの言葉をくれた。

 ジャレッドは礼をして、無事の帰還と心配をかけたことを謝罪するも、彼女は信じていましたと微笑む。


「ご無事でよかったですっ、お兄さま!」


 続いて駆け寄ってきたのは従姉妹のイェニーだった。年下の妹分を受け止め抱き上げると、涙で潤んだ瞳を向けて、何度も心配していた、無事でよかったと言ってくれた。


「心配かけてごめん。でもちゃんと帰ってきたよ」

「信じていました……でも、やっぱり心配でした」


 珍しく年相応の態度を見せてくれたイェニーは、彼女自身が言うように心配してくれていたらしく、ジャレッドに怪我がないか確かめようと手を伸ばしてくる。

 屋敷の外で、しかも家族の前で服を脱がされてはならないとなんとか言い聞かせると、頭をなでることで落ち着かせることに成功した。


「ふん。イェニーが心配するのはお前自身のせいだぞ。後れをとるなどだらしない」


 赤髪をなびかせ鼻を鳴らすのはローザ・ローエンだ。母リズ・マーフィーの妹になる、ジャレッドの叔母。最近まで存在すら知らず、敵対してもいた。気づけば一緒に暮らすようになり、魔術の手ほどきをしている公爵家の末息子に想いを寄せられてもいる。


「プファイルにも叱られたよ。修行のやり直しだ。アルメイダ、またお願いします」

「いいわよ。私も随分と心配させられたから、今後このようなことが起きないように鍛えてあげるわ」


 恩人であり魔術と戦闘の師アルメイダもジャレッドを出迎えてくれていた。

 桃色の髪と、フリルを大量にあしらったドレスを好み、一見すると戦闘とは縁のないように見える美少女だが、戦わせればジャレッドなど手も足もでないほど実力を誇る。

 アルメイダがいてくれたからこそ、屋敷を開けることができた。ジャレッドにとって、無条件に信頼できる人物だ。


「お帰りなさいじゃ、兄上」

「璃桜も留守をありがとう」


 竜王国の姫である璃桜とは出会いこそ襲撃であったが、今ではすっかり懐いてくれた。人間を超越する存在である竜が本性の彼女は、気づけばこの屋敷の家族としてかわいがられている。璃桜もまたみんなを家族と思い、ジャレッドが不在となる間屋敷を守ると約束してくれていた。

 いつの間にか兄と呼ぶようになっていた竜の妹分の頭をなでてやると、気持ちよさそうに目を細める。竜というよりも猫のように思えて、つい口もとが緩んでしまう。


「ジャレッド様、ご無事でなによりでした。オリヴィエ様はもちろんですが、わたしも心配していました」

「心配かけてごめん――ありがとうトレーネ」


 屋敷の家事を担うメイドのトレーネもまたジャレッドのことを案じてくれていたとわかる。色素の薄い青髪から覗く、無表情にも見える整った顔の中に、言葉通り案じてくれていることを感じ取ることができた。

 当初はわからなかったが、彼女なりに感情がわずかとはいえ表情に出ていることを知ると、以前と変わり無表情とは思えなくなった。

 オリヴィエたちと同じくらい付き合いが長い、トレーネにも心配をかけてしまったことを謝罪した。

 そして――、


「ご無沙汰していますわ、ジャレッドさま。ご無事なお姿を見ることができて、本当によかったですわ。不在中にこちらにきてしまったことお詫びします」

「お久しぶりです、エミーリアさま」


 最後となったが丁寧に礼をしてくれたのは、オリヴィエの妹にあたるエミーリア・アルウェイだった。彼女が屋敷にくることは知っていたが、色々なことがあってそれがいつになるのか不明であった。まさかこのタイミングだったとは思わず、驚かされてしまった。

 最後に会ったときとは違い、憑き物が落ち、心なしか晴れやかな表情をしているのはきっと気のせいではずだ。


「急なことに驚かれたかと思いますが、今日からよろしくお願いしますわ」

「いいえ、そんなことありません。こちらこそ。よろしくお願いします」


 銀縁の眼鏡をかけた少女が一緒に暮らすことを、オリヴィエはもちろんハンネローネが強く望んでいたことを知っているので、ようやく叶ったのだと安心した。

 聞けば、彼女は公爵家の中で肩身の狭い思いをしていると聞いている。実母であるコルネリアがハンネローネの命を長きにわたり狙い続け、失敗した。すべての悪行が暴かれたきっかけは他ならぬエミーリアの協力があった。


 だが、彼女もまた一度は母に加担したのも事実。母親のように厳しい罪に問われることはなかったが、学園に通う以外は事実上の軟禁生活。家族はもちろん家人からも冷たい態度を取られ、少ない味方は父親と、兄、そして末の弟とその母だけだった。

 コルネリアが見捨て、不遇な境遇となったエミーリアを憂いたハンネローネが我が子として育てると決意し、その通りとなる。

 これでオリヴィエとエミーリアの中も、話でしかしらない子供時代のように仲がよくなればいいとジャレッドは祈った。


「さあ、いつまでも外にいてもなんですから、屋敷の中でお茶にしましょう。ジャレッドさんには食事も用意してあるから、お腹いっぱい食べてね」

「ありがとうございます、ハンネローネさま」

「お礼なら、オリヴィエちゃんとトレーネちゃんに言ってね。あなたが帰ってくるからって、二人して一生懸命作っていたんですもの」

「そうだったのですか?」


 思わずオリヴィエに視線を向けると、頬を赤らめた彼女はそっぽを向いてしまう。


「こ、婚約者として、なにかしてあげたかったのよ」

「嬉しいです、オリヴィエさま。ありがとうございます。トレーネもいつもありがとう。また君の食事が食べられることが嬉しいよ」

「わたしもジャレッド様をお世話できること嬉しく思います」


 トレーネにも感謝の気持ちを伝えると、彼女ははっきりとわかるほど笑みを浮かべてくれた。


「まだプファイルちゃんが帰ってこないから、お祝いは夜にしましょうね」


 プファイルの機動力なら夜には屋敷に戻っているだろう。

 変わらぬ家族たちを目にし、ほっとしたジャレッドは、体から疲れが抜けていくような気がした。

 そろって屋敷に戻ろうとすると、


「待ちなさいジャレッド。なにか言うことがあるでしょう」

「えっと――ああ、そうでした」


 大事なことを言い忘れたことを思い出し、みんなに向くと、ジャレッドははっきりと声に出した。


「――ただいま」




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