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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
七章

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0.Prologue.




 ウェザード王国のとある街に、正統魔術師軍の幹部が集結していた。

 彼らは魔術師こそ至上とする思想を掲げ、魔力を持たない非魔術師を排除しようと目論む過激な面々である。

 魔術師至上主義は少なからず存在するが、彼らほど過度な思想を持つ人間はそういない。

 事実、正統魔術師軍の幹部はとにかく、末端の一員になると魔術に対する想いの強さも違ってくるのだ。


「盟主、準備が整いました」

「ご苦労だったな、レナード。弟を――ジリルを失ったことは我々にも痛手ではあるが、ジャレッド・マーフィーを殺せずともあと一歩まで追い込むことができた事実は変わらぬ。ならば、お前なら殺すことは容易い、そうであろう?」


 白いローブを頭からかぶる盟主の声に、王立魔術師団団長を務めるレナード・ギャラガーが恭しく頭を垂れる。


「弟の不始末、兄の私が必ず」

「期待している。宮廷魔術師同等の力を持つお前なら、あの忌々しい少年の首を獲ると信じている」

「盟主殿、心配せずとも。レナード殿のお力は弟ジリル殿はもちろん、宮廷魔術師を超える実力を持つと聞いておりますゆえ」


 ひとりの幹部が媚びるように身を低くして言葉を発すると、盟主は満足気味に頷いた。


「心配などしていない。レナードは人員を集めるため、王立魔術師団に入団し、地位を得た。彼のおかげで我々の計画が早まったとも言える。無論、君たちの働きにも感謝している」

「もったいないお言葉です」

「さて、レナード。あの少年を殺すことは決定事項であるが、その前にするべきことがある」

「若き魔術師たちを集めること――承知しています」


 正統魔術師軍にはすべきことが多い。

 ジャレッド・マーフィーの殺害はもちろん、公爵家、宮廷魔術師、そして魔術師協会と王宮と倒さなければならないのだ。

 そのためには兵がいる。いくらレナードが王立魔術師団団長であったとしても、宮廷魔術師同等の実力を持っていたとしても、兵は必要だった。それも、魔術師の兵が。


 だが、魔術師として使える人材は決して多いわけではない。魔術師の多くは、不幸にも現在の暮らしを甘んじている者たちばかりだ。そこで正統魔術師軍が目をつけたのは――学生だった。

 まだ子供であるが、自分たちが選ばれた存在であることは承知しているはずだ。若く活気があり、なによりも現状に不満を抱いている生徒が多いことは正統魔術師軍の情報網に引っかかっている。

 彼らの不満の原因となっているのは、魔術師協会とジャレッドの存在だった。


 王立学園だけではない。国中の学園に通う魔術師たちが、なんらかの形で不満を抱いている。若さゆえか、それともまた違う理由からか、すべてを把握することはできないが、引き込むことは容易い。

 すでにレナードによって地方領地の学生魔術師は一部取り込むことに成功している。


「お前が声をかければ学生など誰もが賛同し、共感するはずだ。引き込むことなど実に容易い」

「雲の上の存在である宮廷魔術師よりも、距離の近い憧れでもある王立魔術師団団長ならば、子供たちに声も届きやすいでしょうな。さすが盟主殿、レナード殿だ」

「子供たちは兵として扱うが、思想と実力がふさわしいものはお前の直属として育てるといい。わかったな、レナード」

「――はっ」


 事の成り行きを見守っていた幹部たちも、順調に進んでいる計画に満足して頷いていく。

 そんな時だった――、


「君たちは魔術師であることが最大の自信のようだけど、過信し過ぎているじゃないかな?」


 亜麻色の髪を揺らし現れた十代半ばほどの幼さが残る少年の声に、高揚していた感情に水を差されることとなる。


「……ラスムス殿、それにドリュー殿でしたか」


 盟主がわずかに潜めた声を発するが、隻腕の少年を従えた彼――ラスムスには明確な怒りを感じ取って微笑んだ。


「亡霊め――我々との契約は終わっているはずだ。余計な口出しをしないでもらおうか!」


 幹部のひとりが声を張りあげるも、二人の少年は気にした素振りさえ見せない。それがより幹部たちを苛つかせた。


「おや、その亡霊に助けを求めたのは君たちだろう?」

「お前たちが古代魔術を使えなければ用などなかったわ!」


 笑みを絶やさぬラスムスに、幹部たちが唾を飛ばす。

 すると、レナードが静かに手を上げ彼らを制す。二人の少年の前に移動すると、鋭い眼光で睨みつけた。


「人を食らう怪物に私たちの大義が理解できるはずもない。黙っていてもらおう」

「貴様――っ」


 明確な嫌悪を浮かべ言葉を発したレナードに、控えていたドリューが掴みかからんと隻腕を伸ばすも、


「ドリューくん、控えて。僕はここに戦うためにきたんじゃない」

「……申し訳ございません」

「ありがとう。君が怒ってくれて嬉しかったよ」


 他ならぬラスムスによって止められ、再び彼の背後に控えるしかなかった。

 刹那、室内に魔力の高まりが発せられ、ドリューが身構える。主を守らんと前に出た。


「パパぁ――こいつら殺しちゃおうよぉ」


 部屋の影から黒髪を左右にまとめた年若い少女が現れ、嗜虐的な瞳をラスムスたちに向ける。

 ドリューはもちろん、正統魔術師軍の幹部たちでさえ少女の登場に驚きどよめく。


「……実に珍しい、闇属性魔術師か」

「黙れ――」


 少女の属性に気づき目を見開いた瞬間、彼女の指がドリューに向けられて魔力が放たれた。


「アヴリルっ!」


 レナードが少女の名を責めるように呼ぶも、どこ吹く風とばかりに知らん顔する。対し、魔力を受けたドリューは自身になにが起きたのか確かめるも、なにごともなかったことに安堵し――ようとして、膝から崩れ落ちた。


「……彼になにをした!」


 慌てドリューを支えるラスムスが、温和な表情を消す。


「もう一度聞く――彼に、なにを、した!」


 殺気が放たれ室内を蹂躙する。幹部たちはそろって呼吸が止まり、床に倒れもがき苦しむ。盟主とレナードさえ汗を浮かべている中、元凶である少女だけが平然としている。


「呪いを解け、アヴリル」

「えぇぇ……適当にしちゃったから無理だよぅ」


 少女――アヴリルは困った顔をするが、瞳は苦しむドリューや倒れている幹部たちを見て笑っていた。

 本当か嘘か判断できないが、間違いなく呪いを受けてしまったドリューに対し、レナードは謝罪した。


「娘に代わって私が謝罪する。彼はアヴリルの呪いにかかってしまった。娘の呪いは、負の感情を増幅させ暴走させるもの――時間が経てば経つほど危険になってくる」

「やってくれたね……よりにもよって負の呪術をかけるなんて。この代償は大きいよ」

「古代魔術を知るそちらなら解呪することも可能なはずだ」


 罪悪感を抱いているのか、彼の言葉は心なしか化け物と罵ったときとは違う。だからといってラスムスの怒りが消えるはずもなく、沸き立つ黒い感情に従いたくなった。


「申し訳ございません。ラスムスさま……」


 しかし、彼は腕の中で苦しみドリューの声で冷静さを取り戻す。今は少しでも早く、彼の治療をするべきだった。


「静かに、呪術なら解ける人間を知っているから、すぐに連れていくね」


 力なく苦しんでいる少年を抱え立ち上がり、部屋から出ていこうとするも、ラスムスは一度足を止めて盟主たちを睨んだ。


「君たち正統魔術師軍に今後協力することはない、と言っておくよ。君たちがこの国に勝利した暁には――この僕が相手になろう」


 そう言い残して去っていく。

 扉が閉められると、充満していた殺気が消えた。

 盟主は流れる汗を拭い、未だ扉を見つめるレナードに声をかけた。


「お前の娘のおかげでいらぬ敵を増やしてしまった。しっかりと教育をしておけ」

「申し訳ございません」

「だが、遅いか早いかの問題ではあった。あの亡霊どもを殺すことは、私たちの義務でもあるのだからな」


 盟主の言葉にレナードは静かに頷く。


「正統な後継者である私たちの国を求めるのなら、あの少年たちは間違いなく邪魔となるでしょう。彼らの秘密は――決して外部に知られてはならないのですから」

「わかっているならそれでいい。彼の使う古代魔術に対策が取れるのなら今はまだ手をだすな。向こうがこの国に勝利するまで待ってくれると言うのなら、お言葉に甘えよう」

「はい。ならば、私はジャレッド・マーフィーと戦い真正面から古代魔術を破ることで亡霊どもを倒せると証明してみましょう」

「期待しているぞ――レナード。信頼する我が息子よ」




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