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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
六章

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37.リュディガー公爵領 襲撃者2.




 魔術師は声音からして男だった。

 痛む体を動かし、地面に自らの足で立つジャレッドの視界の中で、さらに数が増えていく。

 声をかけてきた男の背後に二人、ジャレッドたちの後方に二人。五人に魔術師に挟まれる形となってしまった。


「俺の兵をどうした?」


 街道から外れた食人鬼を捜し、倒すように命じたが、すべての兵をいかせたわけではない。

 にも関わらずこの場に公爵家の兵がひとりも見えないのはありえなかった。


「ここには簡単な結界を張っていますので、非魔術師がこちらを見つけることはできません。きっと魔力を持たない哀れな彼らには、あなたたちが消えたように見えているでしょう」

「その嫌味な口の利き方……さてはお前ら、魔術至上主義者だな?」

「魔術師至上主義者ですが、その呼び方は好きではありません。我々は、この国の魔術師が魔術師であるために組織された結社――正統魔術師軍です」

「はっ、笑わせる。軍を名乗るか――この愚か者どもがっ!」


 なにをもってして正統を名にするのか理解の範疇の外だが、名乗りたいなら好きに名乗ればいい。

 どう名乗ろうとも、奴らはリュディガー公爵領に痛手を負わせようとした敵対者に変わりないのだ。


「さて、ジャレッド・マーフィー宮廷魔術師殿。時間稼ぎにつきあってやったのだ、そろそろこちらにつきあってもらおう。もう、動けるのだろう?」


 嫌味な奴だ。そう内心思いながら、ジャレッドは公爵の前に立つ。


「ジャレッド殿、無理をするなよ」

「ありがとうございます。ですが、少しだけ魔力も回復したので、戦おうと思えば戦えます」

「ほう、我々と戦うつもりか? 大きく魔力を消費し、手傷を追っている君が?」

「余裕だし。俺を殺したかったら、あと百人は魔術師連れてこい」


 強がりを込めて、親指で自らの首を掻き切るように撫でる。

 挑発行為なのだが、相手は乗ってはくれなかった。


「我々が君を殺すと?」

「じゃなかったら食人鬼を相手にしている俺に襲撃しないだろ」

「違いない。もっとも、君を殺すと決めたのは、計画を邪魔したからだよ」

「食人鬼をどうやって集めたのか知らないけど、リュディガー公爵領に向かわせたのはお前らの仕業か?」

「正解だ」


 男の返答に、フーゴが懐からナイフを投擲した。だが、彼の障壁によって容易く弾かれてしまう。


「貴様たちのせいで俺の領民が傷つき死んだっ、なにが目的だ! それ相応の理由があるんだろうなっ?」


 憤るフーゴの怒りが痛いほど伝わってくる。

 まるで火のような男だった。怒りによって発火した彼は、いつ魔術師たちに剣一本で飛びかかるかわかったものではない。

 好感を抱くには十分な相手なだけに、こんなところで傷ついてもらいたくなかった。


「いいでしょう――フーゴ・リュディガー、あなたも我々の対象だ。気が変わりました。今、あなたも殺してしまおう。ですが、死ぬ前に知る権利くらいはあるのでお教えしましょう。我らの計画、それは――ウェザード王国から非魔術師を排除すること」

「――なっ」


 淡々と、平然に言い放った言葉に、ジャレッドは声をあげ、公爵は言葉を失った。


「排除って、まさか……魔術師以外を全員殺すつもりなのか?」


 食人鬼の群れを放ったことを考慮すれば、答えはひとつしかない。

 震える声で問うジャレッドに対し、魔術師はわずかに見える口元を吊り上げた。


「貴様ぁああああああああっ!」

「待ってくださいっ、公爵っ! ――くそっ!」


 怒りに身を任せて突進したフーゴにジャレッドも続く。

 前衛となった公爵を守るため、黒曜石の槍を無数に生みだし、彼を囲んでいく。


「その程度では無駄です。公爵、あなたがいくら武人として優れていようと、我々魔術師には敵わない」


 彼が手を振るった刹那、一筋の光が黒曜石の槍の合間を縫ってフーゴに鞭のごとく襲いかかった。


「左です!」

「ふんっ!」


 攻撃を視認していたジャレッドの声に従い、公爵が左手からの攻撃に応じるも、


「剣一本でどうこうできるほど私の魔術は優しくありません」


 バチンッ――、と公爵の重い体躯が弾き飛ばされる。

 音を立てて、街道を囲う樹木に叩きつけられたフーゴは、背を打ち、呼吸を止めた。


「くそっ! ――リュディガー公爵!」


 狙いを定めることなくすべて投擲した槍が障壁によって阻まれる音を聞きながら、ジャレッドは公爵に駆け寄る。


「大丈夫ですか?」

「あ、ああ、俺は構わん、あいつらを――罪のない領民を殺した奴らを、頼む」

「お任せください」

「す、まん」


 ジャレッドの言葉を聞き、意識を失った公爵の呼吸を確認する。

 気絶しただけだとわかり安堵するも、まだ窮地を脱出したわけではない。

 このままでは揃って魔術師たちに殺されるだろう。

 数は圧倒的に不利。魔術師としての力量は、感じ取れるだけならば会話をしているリーダー格だけが群を抜いているが、他の四人は王立魔術師団員の平均よりも下回る魔力しか感じない。

 数に押されたらそれまでだが、ひとりずつ対応できればまだ勝機はある。


「……二度も石化魔術を使ったのが仇になったな」

「戦うつもりですか?」

「当たり前だ。俺は死ぬわけにはいかないし、リュディガー公爵を殺させるはずもない。なら――死ぬのはお前らだ」

「いいでしょう。苦しんで死にたいのなら、ご自由に。――やれ」


 男の命令と同時に、四人の魔術師が地面を蹴る。

 ひとりひとりが風、炎、水、土属性の魔術師だ。ご丁寧に部下を全員違う属性で揃えていることが忌々しい。


「死んで我らの栄光の礎となれ!」


 風刃、炎の弾丸、水の槍、石の飛礫がジャレッドをいっせいに襲った。




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