38.リュディガー公爵領 襲撃者3.
障壁を張り、魔術をすべて受けると、公爵を巻き込まないように彼から離れ応戦する。
魔力は五分の一しか残っておらず、ジャレッドにとって最大の攻撃である石化魔術を使うには厳しい。
ならば――、魔力を体内に取り込み身体能力を強化することにより、魔術で対応するのではなく戦闘技術で倒そうと決めた。
魔術師の多くが、魔術こそすべてと考える節があり、ジャレッドのように体術や、剣術を実戦で使えるレベルまで学ぶものは少ない。
魔術師至上主義者となれば、なおさらだ。
自分の得意とするもので制してしまえばいい――単純ではあるが、より効果的な作戦だった。
地面を蹴り疾走する。渾身の力を込めて、風属性魔術師に肉薄すると拳を繰りだす。障壁に阻まれるが、気にせずそのまま押し切った。大きく後方に飛ばされた魔術師の障壁が消える、そのわずかな間に――ジャレッドは拳銃を抜き、一切の躊躇いなく引き金を引いた。
乾いた発砲音が木霊し、胸から血を吹きだし魔術師が倒れた。
「まずはひとり――次」
あまりにもあっけなく絶命した仲間に、襲撃者たちの動きが止まった。その隙を見逃すはずがなく、続けて引き金を引く。
六発の銃弾を打ち尽くすと、さらに皮ベルトから新たな銃を抜き連射する。
すべての弾丸は、唖然としていた魔術師三人の体を次々と捉えていった。
二人が倒れ、ひとりが膝をつく。ナイフを抜き、倒れなかったひとりに肉薄すると、
「や、やめ――」
助けを請おうとした魔術師の首を容赦なく掻き切った。
鮮血が吹きだし、ジャレッドの戦闘衣を赤く染めていく。
男の体を蹴り、血だまりの中に倒れ絶命したことを確認すると、銃弾によってこと切れている二人を目にすると、視線をリーダー格に向けた。
「これでお前だけだ」
「ふ――ふざけるなぁあああああああっ!」
男は体を震わせて怒号を放った。
「貴様っ、宮廷魔術師の地位に昇り詰めることができる魔術師でありながら、拳銃とナイフを使うだと? 魔術師としての誇りはないのかっ、恥を知れ!」
「恥もくそもあるかよ。襲撃者の分際で、俺の戦いに口をだすじゃねえ」
「……魔術ならいざしらず、魔力を持たない劣った人間のために作られた野蛮な武器で殺された我が同胞がどれだけ惨めな思いをしたか」
好き勝手に言う男を眺めながら、かつて戦ったバルナバス・カイフを思いだす。
彼もまた魔術師を辱めるために、剣を使って殺傷している。彼の言動は魔術師至上主義者ではなかったが、魔術師とは誰もが魔術に拘るのだろうか。
「魔術師じゃない人たちを蔑む言動はやめろ。聞いていて不愉快だ」
「なぜだ、なぜ貴様はそう魔術師として正しくあろうとしない! 非魔術師の人間と婚約し、魔力を持たない地位だけの公爵家にいいように扱われている現状で満足だというのか?」
「少なくとも不満はない」
「貴様は理解するべきだ。我々魔術師こそが人間が進化した存在であることを。魔力を持たない人間は、進化できなかった敗者であることをっ!」
唾を飛ばし、自らが進化を遂げた存在だと豪語する男に、ジャレッドは呆れてしまう。
こうも選民思想を抱いているとは思っていなかった。
魔術師も、そうではない人々も、ずっと昔からともに歩んできたのだ。それを魔術師だけが進化した存在などといって誰が信じるというのだ。
「暴論だ。王族だって魔力を持つ方々ばかりじゃない。なら、王族さえも敗者だと言うつもりか?」
「無論! この国には力を持たぬ王はいらない、魔術師の王が必要だ!」
「馬鹿みたいに過激思想だな」
トレスの言葉通り、放置するには危険すぎる存在だった。
正統魔術師軍を名乗ろうと、魔術師至上主義者だろうと、一国の国の王を王と思わず、新たな王を欲するものなど――単に危険人物でしかない。
「アンタを捕らえさせてもらう。お前らの組織、仲間、背後にいる人間の情報をすべて吐きださせてやる。その上で、多くの罪なき人を犠牲にした罪を償え!」
「やはり貴様は危険だ、マーフィー! 貴様のような奴が、宮廷魔術師になれば――この国は間違いなく、弱き国となる! 魔術師たちの立場が弱くなり、貴族に支配される、弱者の国となる!」
「勝手に言ってろ。弱者か強者かなんて、お前が決めることじゃない」
「――ゆえに殺す。貴様を殺し、フーゴ・リュディガーを見せしめにすることで、我らの存在を大々的に知らしめよう!」
男から高密度の魔力が立ち昇る。
消費しているジャレッドよりも魔力量は多い。
「ゆくぞ、マーフィー!」
「名乗れよ、恥ずかしがり屋!」
魔術で勝負するつもりはなかった。魔術師同士の決闘ではなく、命を奪いあう真剣勝負に卑怯もなにもない。
身を引くし、ナイフを構え、獣のごとく疾走するジャレッドに対し、襲撃者は短い詠唱と唱えると魔術を解き放った。
愚直に敵に突っ込む危険を避けるため、足にこめる力を強くし、速度を上げて左右に揺れる。
瞬間――今、自分が蹴ったばかりの地面から氷の槍が生まれた。
「――っ、おいおい、お前は水属性魔術師じゃないのか?」
少しでも反応がズレていれば串刺しになっていた可能性に冷や汗が流れるも、足を止めることはない。目と鼻の先の距離まで肉薄したと同時に、横薙ぎにナイフを振るう。
――が、硬い氷の盾によって阻まれてしまった。
「複数の魔術属性を持っているのは、なにも貴様だけではない!」
受け止められたナイフが凍り、音を立てて砕けた。
「くそっ――面倒な属性を使いやがって!」
「お互い様だ!」
ナイフの柄を捨てて、舌打ちをする。
先ほど、フーゴを守る黒曜石の槍の合間を縫って攻撃したことから水属性魔術師であると推測していた。だが、外れてはいなかったものの、想定外である複数属性を持つ魔術師だった。
厄介なことに、水属性の亜種である氷属性だ。雷属性ほど珍しくはなく、水属性も極めれば氷まで操ることができるのだが、単に属性として持つ者も少なくない。
ジャレッドは接近戦を諦め、地面を力強く踏みつけた。
「――穿て、石蛇」
精霊たちに捧げた魔力が力となり、地が隆起し、石の蛇と化す。
「――打ち砕け、氷獅子」
魔方陣から放たれた一体の氷の獅子が、耳障りな咆哮をあげて襲いかかる。
石蛇と氷獅子が両者の間で激突し、砕けた。




