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紫の中の人  作者: 春猫
2/12

麺の人

二話分、ほぼ同時投稿です^^

本当は虫系=お菓子素材とかにして、クモ=チョコレート、白い幼虫=生クリームとか、グロいものをハンティングして女性を魅了するお菓子を作るパティシエとかも考えたんですが、あまりにも・・・なんで^^;

 戦うラーメン屋ガイ・ノックスこと海道修の朝は早い。

 いまや彼の生活はポルポルが中心であった。

 そのため、早朝から午後早目の時間帯勤務の現在の職場に転職し、夕方から深夜までの時間帯すべてをポルポルに費やす程である。


 もともとゲームは好きだった。

 家庭用もゲームセンターのものも幼い頃から遊び尽くした彼が、VRMMOそしてポルポルに出会うのはある意味必然とも言えた。

 モンスターを狩り、肉は料理店に、骨や皮や牙は職人や店に売却。

 稼いだ金は武装とアイテムと食い物に。


 そうしてプレイを続ける内、骨を知り合いの職人系プレイヤーに売ろうとして彼はふと思った。

 「これで出汁とったら、どんなラーメンになるんだろう?」


 学生時代からゲーム費用捻出の為、ガテン系のバイトに明け暮れていた彼のソウルフードとも呼べるものがラーメンであった。

 きつい肉体労働の後の一杯のラーメンの美味さ。

 なかば条件反射的にまでなったその習慣が、ポルポル内での彼のライフスタイルに物足りなさを与えていた。

 


 ポルポル内部の食べ物は肉系メイン、その後、女性利用者の増加に伴いスイーツ系が充実。

 「いや、違うだろ、ここはラーメンだろ!」と叫び、その賛同者も集めて運営サイドに交渉。

 

 「うーん、ラーメンは下手に扱うと中で論争とか起きかねないしなぁ。」

 実際に話を聞いてくれた社員いわく、社内で論争どころか戦争が起きかねない話題として、運営としてはアンタッチャブルな領域になっているのだそうだ。


 メインに何の骨を使うのか、味のベースは、麺の太さは、具は何を、確かにラーメンは好きな者にしてみれば好みに妥協は許されず、運営サイドの返答は理解出来た。  


 「誰かやってくれないかなぁ」肩を落とし散っていく賛同者を見ながら、それでも彼は呟くことしかできなかった。

 なかば諦め、リアルでラーメンをすすって我慢する日々。


 そんな中のいつものゲーム生活の中で、改めて彼は思ってしまったのだ。

 「やっぱ、ここでもラーメン食いてぇ」と。


 とは言うものの彼はラーメン好きではあるものの作る側では素人。

 いきなり骨を煮てみたところでラーメンが作れる訳もない。


 現実で習得するにしても、今からラーメン屋に弟子入りする訳にもいかない。


 しかしながら、彼にとってラッキーな事にいかに現実そっくりであるとは言え、ここはゲームの世界。

 「料理」というスキルが存在していたのだ。


 現実では包丁で指を切る腕だとしても、飯マズどころか産廃しか作れない様な調理能力だとしても、ゲームのルールに従いスキルを上昇させれば誰でも美味しい料理が作れるようになる世界なのだ。


 狩りで手に入れた肉の販売を半分に抑え、残った肉を使ってひたすら料理スキルを上昇させる日々。

 敢えて武器や装備に資金を投じず、貯め込んで手にした大金を投じて入手した屋台設備の整ったリアカー。

 幸い、「食」で人を惹きつけるだけあって、この世界の水は旨い。

 特に場所を選ばなくても上質の水は手に入る。


 

 串焼きや挟むもの中心の軽食の屋台は既に存在しており、そうした店がプレイヤーのものを含めて集まる場所は既にあった。


 そうして十分にスキルを上げ、自分でも納得のいくラーメンが完成した。

 食わせた知り合いには絶賛された。

 「リアルでも作ってくれよ!」

 そう言った相手に「馬鹿言ってんじゃねぇよ」と返しながらも手応えを感じて口の端に笑みが浮かぶのを隠せなかった。


 屋台を引き椅子を並べ客を待つ。

 いつの間に座ったんだと不思議に思う暇も無く、気がつけば目の前に客が座っていた。

 

 緑尽くめの魔導師。

 まあ、この世界なら珍しくもない格好だが、改めてラーメン屋の屋台と合わさるとちょっとシュールである。


 「この匂いはグルノックスの骨ベースかな?」


 グルノックスとは最大で全長15メートル程に達する巨大な猪型モンスターだ。

 肉は最高級黒豚の味がして、料理店でも肉屋でも人気の素材。

 毛皮も中級者が愛用するそれなりの防御力を備えた装備になる。

 牙も解体用ナイフの素材としてかなり使用されている。


 「そうです。良く分かりますねぇ、お客さん。」

 「ふふふふ、伊達に中で食いまくってはいませんよ。」


 ローブのフードを後ろに跳ね除けると現れたのはこれまた草原の草の様な緑の髪。

 臨戦態勢に入ったようだ。


 手早く麺を茹で、下準備を終えて持ってきて加熱を続けていたスープを軽くかき混ぜる。

 具を使う分だけその場で切り、タレを入れた器にスープを注ぎ麺を入れ、具を盛り付ける。


 目の前では客が割り箸を割りしごいている。


 「お待たせしました、ラーメンです!」


 麺をすする音、スープを飲む音。

 自分の客だということを除いても清清しく感じる食べっぷり。


 「ごちそうさん、おいしかった。また来たいけど次はいつ店出すの?」

 「仕込みも有りますんで毎日とは言えませんが、出来るだけしょっちゅう出したいと思ってます。基本的に同じ曜日には出てるもんだと思ってもらえれば。」

 「にしても、採算合わないっしょ、これ。」

 「自分で狩ってますからねぇ。まあ、単純に素材売った方が金にはなりますけど、それじゃラーメン食えないし。」

 「そっか、応援してる。なんかあったら言ってよ。これでも一応中の人だからさ。」


 そっか、あれが「緑の中の人」か。

 客が立ち去った後、次々と訪れる客の応対をしながら彼は思う。

 「やっぱラーメンだよな」と。

 プレイヤーだけでない、中の人もラーメンがやっぱり食いたかったのだ。

 

 最近では常連や採取系プレイヤーのサポートも付いた。

 初心者から脱却しかけのその採取プレイヤーは、押しかけ「看板娘」となって屋台を出す時には常に手伝っている。

 香草や木の実など、彼女が持ち込む物もラーメンに使用している。

 正直有り難いが、素直に口に出すのも何か癪なので、顔を合わせるとついつっけんどんに当たってしまう。

 それでも笑顔でまとわりついてくる。

 「結婚すんだったらあんな子がいいなぁ。」

 ログアウトしてから寝るまでのしばらくの間にそんな事を思ったりして、一人赤面して悶えたりする事もある。


 狩りをしてラーメンを作って、また狩って・・・。

 そんな充実したVRMMO内生活が、彼の人生に充足感を与えている。


 「さて、今日も頑張りますか!」

 勢いをつけて撥ね退けた布団をそれなりに整えると洗面台に向かい、顔を洗って歯を磨く。

 「今日は違う骨を使ったスープにも挑戦してみるかな?」などと考えつつ・・・。

  



ポルポルのライバルゲームとして、ポ○モン風のモフフワ癒し系VRMMO「ホワイト ホール ワールド(略称:ホワホワ)」とかも思いつきましたが、そっちまで書くと何の話か分からなくなるんで没に^^;

パートナーモフフワモンスターとモフモフしてるだけで楽しめるVRMMOとかもいいと思いません?

コピーは「昼寝するだけでも楽しめるVRワールド」とか?

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