表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫の中の人  作者: 春猫
1/12

中の人

当初は「デスゲームじゃなくて、デスマーチかよっ!!」という話を書こうとしていたのですが、タイトルを思いついたせいで話の方向がねじくれてしまいました。

三人称リハビリ作品でもあります。

 「村ちゃん乙~、これから中の虫取りかい?」

 

 「この時間に出勤してきてんの見りゃわかんでしょ? ったく、フィードバック系のバッチ導入の前のチェックですよ。なにが『攻撃ぬるいよねぇ、子供のグーパンレベルwww』だよ。例え一万人に一人だろうが、一億人に一人だろうが、それでRLに問題起きる可能性のあるレベルには出来ないでしょーが! もう『精○孔』突いたろかと・・・。」


 通勤に使ってるタブレットコンピュータ入りのショルダーバッグを机に乗せながら答える男。

 

 ネット界隈のごく一部においては有名な存在である。


 ここは日本のみならず世界的に多くの人間が利用するVRMMO「ポルンガ ポルンゴ(略称ポルポル)」の開発メーカーDEYUXIの開発四課。


 現在、開発はほとんど手が離れており、バグフィックスもかなり終わってる状態である事もあり、こうしてバッチ関連の作業がある彼を除けばトラブル対応という名の内部丁稚に借り出されたバイト君を除くとパーテーションで区切られたデスクは空席が目立つ。

 

 中には数ヶ月単位の休暇を取っている人間も居て、皆勤に近いのはボスでもある「食欲魔人」こと道本課長くらいなものである。


 その彼とて、このオフィスの所在地が神保町に程近いこの場所で無ければこうまで毎日会社には来ないだろう。

 神保町は本の町、カレーの聖地としても知られているが、比較的安くて旨い店が多いのだ。

 ここにオフィスがある理由は社長の食い意地が張っているから、と社内外でまことしやかに語られている。

 ちなみに社長はどう見ても20代後半にしか見えない(実年齢人間五十年手前)、社内七不思議の筆頭に数えられる外見を持ったスマートな長身の美女である。

 

 

 さて、ここで開発された「ポルポル」の最大の特徴はプレイヤーに若い女性が多い事である。

 

 リリースに先立って流されたテレビCMは「食い尽くせ世界を!」とのコピーと共に筋肉モリモリの上半身裸の男性が目の前に山ほど詰まれた食材を食いまくるという非常に暑苦しいものであり、この段階で現在の状況を想像出来た者は社内においても皆無に近かったであろう。


 実際、初動で購入に走った人間の9割以上が男性であった。

 初期出荷100万本(国内60万本、海外40万本)。

 既存のVRウェア「VSヴァーチャル ソリッド」のサードパーティソフトとして発売されたこのVRMMO、対モンスターのハンティングをメインとしたRPG形式で、登場するモンスターの実に8割が「食べられる」という事が売りになっていた。


 ハンティング系のアクション性を要求されるゲーム内容はライトな女性ユーザーを考慮していないもの。


 これで女性ユーザーが食いつくのは本来あり得ない話であった。



 この状況が変わるのはネット掲示板が影響している。


 当初は開発に関する愚痴と、情報をたかりに来るゲーム愛好者で成立していたスレッド「VRMMO会社の中の人だけど何か聞きたい事ある?」において、開発サイドが食いに行かされたもの、それがゲーム内でどの様に再現されているかという話題で盛り上がり、実際にプレイ出来る様になるとその美味さの話で爆発、他所のスレッドに布教に出る者や「もっと美味い物の話教えて!」と乗り込んでくる者で広がり、更には主婦が多く出入りする料理板や、美味い食い物の話をする雑談板へと波及。気がつけばVRMMOに忌避感の無い若い女性を中心に多くの女性が「美味しいレストラン」に出かける感覚でプレイをする様になっていったのである。


 当初は「中の人」こと彼のみが趣味で書き込んでいたが、途中からはその効果を見て社内の広報を中心にスタッフが女性を中心に集められ、ここから内部の仕様にフィードバックされたり、料理関係者が絡んだり、中には「ほんとは俺は脱サラして食い物屋やりたかったんだよー!」という料理好きが内部でレストランを開業したりと社内での悪乗りも加速していった。

 中の人も12人まで増え、それぞれに色が割り振られて彼の色は「紫」であった(村前だから紫、なんの捻りも無い選択である)。

 このカラーリングは現在も内部での彼に反映され、髪の色はラベンダー、瞳はスミレ色、グレイに近い紫のフード付ローブに赤紫と青紫の素材が絡み合った杖といった紫尽くめの胡散臭い美形魔導師姿が会社から支給されている。


 「まさかJAまで絡んで全国の特産品を内部に持ち込むとかなるとまでは思わなかったよなぁ・・・。」

 当時を振り返り、後に彼は語ったものである。


 食べ物と並ぶ女性の欲求である着飾り。

 こちらもこれまでの社内デザイナーや、アニメ、漫画等の関係者ではなく、社長個人の人脈を通じて実際に店舗を構えるデザイナーや、デザイン学校は出たものの店舗を構えるまでいかない若者などを中心に女性が「着てみたい」と思う服が多く揃えられ、化粧品会社の協賛や宝飾品関連との提携で化粧やアクセサリなどまで組み込まれて、むさい野郎の鎧姿で溢れていた町並みも、着飾った多くの女性で賑わい、中には女性に完全に占有される都市まで出現する事になっていた(ちなみにこのゲームの舞台となる王国の現在の統治者は女王という事になっており、王城に居る女王のその外見は髪や瞳の色を除けばDEYUXI社社長そのままであると言われている)。


 

 更にはVRならではの特性も好材料となった。

 それは「いくら食べても太らない」ことである。


 もちろん自由に外見をいじる事が出来るVRMMOのプレイヤーキャラの体型は当然ながら、VR内部でおいしいものをいくら食べようが現実にはフィードバックされない。


 「おいしいものは食べたい、でも太るのは嫌!」という女性にとってみれば、これは理想的な食べ歩き環境と言える。

 

 グルメ系雑誌に「ポルポル」内の店舗の紹介記事や割引クーポンが現実のお店と並んで紹介され、女性誌のダイエット特集に「ポルポルでおいしいものを食べて楽々ダイエット」なる記事が登場するようになるまでさして時間はかからなかった。


 まあ、あまりの影響に外食系の企業の株価が下がるなどの事態も発生したが、味より安さと手軽さと栄養バランスに気を配ったファストフード関連では業績がアップするところも登場するなど功罪相半ばするとあって、大っぴらには非難の声も上がらなかった(ポルポル食べ歩きの支持の中心が敵に回すと厄介な層であった事も影響している)。


 中には「ポルポル内部でもあの味が楽しめます!」と進出を決め、それなりの業績を上げる企業やお店も存在する。

 日本ではなじみの無い食材を「紹介できないか」と持ち込んできた大使館員もいた。


 

 こうなると本来のプレイヤー層であるハンター的プレイヤーが追いやられる危険性もあったが、そこはゲームのシステムが生きてきた。

 狩りをして、食材を店に持ち込むと複数回分の食事が無料になり、物によっては更に報酬が得られる。

 この事により、積極的に狩りをするプレイヤー=女性に食事を奢っても懐が全く痛まないとなり、VRによる外見改変もあって現実では考えられないほどの女性のアタックを受けて、見栄と声援による舞い上がりで更に狩りに精を出す男性プレイヤーと、冷静になると少し悲しくなる光景も見受けられるようになった。


 外見だけは誰でも一定レベル以上に出来るので、内面の良さや誠実さなど現実には近づかないと分かってもらえない部分をお互いに理解して、現実での結婚に至ったという例もあるし、逆に現実では外見でそれなりにうまくやっていたのに、ポルポル内ではうまくいかずにストーカー的な行動やテロ的な行動を取ったりしてアカウント停止に至る例もあった(しつこいナンパ常習者や迷惑行為者ははコミュニケーション機能剥奪や町への侵入禁止、アカウント停止などの処置を段階に応じて適応される)。


 女性の方も自分で狩りに出てストレスを解消し、更にそれで食べ歩きや着飾りの軍資金を得る等の積極的プレイヤーも登場。

 「課長のバッカ野郎~!」といった罵声を上げながら、長大な剣を担いでモンスターに突っ込む女性に、思わず身をすくめるパーティメンバーの男性といった姿も珍しくない。

 現在のトッププレイヤーの中にはこうした女性だけで構成されたギルドも居り、中でも有名な者は主婦や会社員、自営業等の女子校の同窓生で作られたという「CBHチェリーブラッサムヒル」であろう。

 

 話が前後するが、このゲームではRMを投じて土地や建物などの権利を獲得する事が可能であり、そこを拠点としてプレイヤー同士の集団であるギルドを設立する事が出来る。

 前述のCBHの場合、彼女らの母校を模して作られたギルド会館は「桜の園」と有り勝ちな名前で呼ばれ、レストランやブティックとはまた別の形でのポルポル内部での観光名所ともなっている。

 副次的な効果として彼女らが有名になった結果、彼女らの母校である某女子校の入試競争倍率が一気に三倍に跳ね上がった事は、少子化による学校過当競争時代において珍しい例として新聞取材すら受けた。



 そんなこんなで現在ではかなり安定した状況にあるポルポル。

 彼はいつもの様に荷物を軽くまとめ、社内LAN経由の内部メールをチェックすると、シャワー室へと向かう。

 

 一般的なプレイヤーの場合、最長でも12時間連続でログインすると強制的にログアウトされ(とは言っても中と外では時間の流れが異なり、リアルの1時間=内部の4時間である為、12時間連続は丸2日間に当たる)、そうした不健全な状態が一定以上続くと一時的にアカウントを停止させられる。

 しかしながら運営サイドでは、そうした事は言ってられず、場合によっては長時間連続でのログインを強いられる事もあって(記録では38時間連続という初期のトラブル対応のデータが残されている)社内業務ログイン環境はタンクベッドの使用が義務付けられている。

 そのため、ログイン前、ログイン後のシャワーは必須であり、こうして社内にシャワールームが存在するのだ。


 「あ、村前さん! ちーっす、今から中ですか?」。

 「おう、バッチ関連だよ、めんどくせー、そっちは上がりか?」

 「そっす、まあ、半分は警察の中の人の愚痴聞きだったっすけどね。」

 「また浦さんの『娘に顔を忘られちゃうんだよお!』か?」

 「そっす、あれが無きゃ話も通じるいい人なんすけどねぇ。」


 ポルポル内部には交番もある。

 本物の警察官がつめており、一部同僚から羨ましがられながら勤務している。

 本庁のサイバー課に出勤後ログインするという事で、勤務時間は一般的な警察官より長い。

 一部管理者コード権限とステータスチート、現実での格闘その他の経験から彼らのVRMMMO内での戦闘力は一般的プレイヤーから隔絶している。

 片手で大型モンスターをぶっ飛ばしながら、片手で悪質プレイヤーの襟首を掴んで引きずり倒すなんて事もたまにあるのだ。


 「まあ、警察の中の人のおかげで、こっちのトラブル対応はかなり楽になってるからなぁ。」

 「そっすね、最初はきつかったっすもんねぇ~。」

 「ボット衛兵だけじゃ対応しきれんもんなぁ。」

 

 バイト君と会話しながらシャワーを浴び終えた彼は、「じゃ、これで。お疲れさん、RLでもちゃんとうまいもん食えよ!」と声をかけシャワールームを後にする。


 社員証のカードをくぐらせ、網膜認証を覗き込むとドアが開く。

 薄暗い中にはタンクベッドが複数並んでいる。

 隣接したロッカールームの扉を開け、ベッドルームに光が入らない様ドアを閉めてから電灯をつける。

 別段開けっ放しで灯りをつけてもタンクベッド内には何の影響も無いが、彼の気分的な問題だ。

 自分の持ち物と着ていた服をロッカーに放り込み、中から水着を取り出して着替える。

 

 ベッドルームに戻り、タンク脇の利用状況を知らせるディスプレイを見ながら空いたベッドに入る。

 自分の他は社員が2人にバイトが6人、全床数が15なのでまだ余裕のある状況だ。

 

 

 『スロットにカードを差し込んで下さい』との表示に応じ、メット脇のスリットにカードを差込む。

 手首に備え付けの健康状態モニター用の腕輪を嵌め、ログイン指示を半ばルーチンで進める。

 いちいち考えなくても、既に数百回に及ぶログインでこのあたりはすっかり慣れたものである。


 導入状態に引き込まれる。

 人によってはこのプロセスに時間がかかり、中には睡眠導入剤に似た薬物のお世話になる人も居るが、特技が瞬時の居眠りである彼にとっては何の問題も無い。



 

 気持ちのいい朝の起床の様な感覚で彼が目を開けると、そこは石造りの部屋の中であった。

 元のベッドルームの半分ほどの広さ。

 しかしながら彼の現実での住まいよりは広い。


 現実とは異なり発汗や代謝による汚れは無い為、着の身着のままでも問題は無い。

 いつもの服装のまま、彼は廊下に出ると慣れた足取りで階段を下りていく。


 「おはようございます。」

 同僚とサポートボットに声をかけながら、食堂と言ってよい雰囲気のかなりの広さのスペースにいくつものテーブルと椅子が並んだ部屋へと入っていく。

 「おはようざいやーす!」

 元気に声をかけてきた緑尽くめ、言わば彼のキャラクターの色違い的な男。

 プレイヤー→バイト→社員と引きずり込まれた経歴を持つまだ二十代前半の男は、彼の同僚であり、彼と同様「中の人」をこなした経験も持つ。


 現在の主業務は内部サポート兼広報。

 リアルでは180センチ、120キロオーバーの巨漢であるが、ポルポル内では彼と変わらない程度の外見に収まっている。

 社に導入されたタンクベッドが欧米サイズなのは、彼の存在も影響している。

 

 ここに入るまでの社会人経験が皆無という事で言葉遣いはまるでなってはいないが、ゲーム及びその周辺に関する知識は社内でも上から数えた方が早いくらいであり、ポルポル内部の面白いものへの嗅覚も発達している。


 「そうそう、屋台を引き始めた奴が居て、結構美味いんすよ。後で食いにいきません?」

 「なにそれプレイヤーで?」

 「武器関連に加工する奴が多い骨を出汁に使うんすからねぇ。ある意味凄いwww。」

 「出汁って、もしかしてラーメンかよ!」

 「リアルでラーメン食い漁って、自分でも作りたくなったけど無理だからここで、って事みたいっすよ。」

 「採算ぜってぇあわねぇだろwwwwww。」

 「骨は高いっすからねぇ。」

 「武器職人が泣くなぁ。」

 「でも美味いっす。」

 「そっか、じゃ、こっちの仕事ひと段落したら食いにいくか?」

 「今日は街なんで、仕事しつつ居場所当たってみるっすね。」

 「ああ、じゃ、またな。」

 「はい、また。」



 村前享ことアメジスト・デュクシズ(デュクシズは菅理キャラ専用苗字)。

 彼は街へと続く城の通用門を開け、街へと足を運んだ。


タイトル思いついて勢いで書いちゃったんで、異変前がかなり長くなる予定(一応、あと2話ストック有り)です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ