紫の中の人
完結です。
色々と混乱はあったものの、早いもので異変から三ヶ月という時間が過ぎようとしていた。
女神と運命神との話し合いの末、新たに増えたスキルは32。
そのほとんどが生産系のものであり、使用する事でこのポルポルがコピー&ペーストされた世界に大き過ぎる影響を与えない様に考慮されたものであった。
VR時代では、ただ市場等で購入していた農産物も、プレイヤーの中に土地を購入して自分で栽培を始める人間が出たり、逆にそれまではモンスター狩りの領域には入り込んでこなかった街や村の人が、プレイヤーと共に狩りを行ったりする等という動きも起こっている。
特にモンスターの解体は、ハンターとしての腕が高い人間でも苦手とする者が多く、村や街のそれまで小さなモンスターを狩っていた人間を助手として、狩りの補助と解体を受け持ってもらう例が増えている。
かと思えばVR時代はゲームとして狩りを行っていた人間でも、本来のリアルの性格に引きずられて、インドア系に転換した者も居る。
街で必要とされるモノのバリエーションが急速に増えた為、これまでの生産系や街や村からの購入ではフォローし切れない部分がかなり発生し、それに伴いこれまでに無い部分での仕事も発生したという事もその動きを後押ししている。
そんな中、ムラサキたち中の人は、VR時代以上の労働量というかなりブラックな状況にあった。
それなりに誘導した商工会や、ギルド協会、自警団などは機能し始めていたが、逆にそれが仕事を増やし、またこの世界の管理者である女神や運命神からも神託という形で仕事を押し付けられる等、手を二三本増やしても追いつかない程の忙しさに追われている。
「きっと明日になれば少しはマシになるはず」そう思って迎えた次の日には、また別の新たな問題が発生し、解決策が別の仕事を増やしていくという、何時止むか分からない土砂降りの中を多量の綿を背負って走っているかの様な状況なのだ。
吸い込んだ水の重さに潰されるのが先か、雨が止むのが先か。
雨が止んでくれる事を願って、走り続けるしかない。
「で、カー君は、何の用事だ?」
自分と同等かそれ以上に疲れて見える運命神にソファをすすめながら、自分も仕事を中断するムラサキ。
「カー君と言うな、用事が無ければ来てはいけないのか?」
「カスバッカ神にご光臨頂き恐悦至極。」
「だから、その名前は止せ! この間も狩りに出る前の連中に手を合わせて拝まれたんだぞ!」
「信仰を集めるのは神にとっていいことじゃ?」
神と人でありながらも、その会話はごく普通の友人同士のノリに近い。
「なんで、お前らは手を打って拝むんだ?」
「あー、元の世界の風習だね。いっその事『粕麦香神社』とか作ってみる? お賽銭結構入ると思うよ?」
「お前ら俺の事馬鹿にしてるだろ?」
「いえいえ、尊敬してると同時に心配してますよ? 過労で倒れないかなぁ? と。」
「メリーがなぁ・・・。」
「メリーさん、また、私のツケでラーメン食ってたみたいです・・・。」
「すまんな。」
「いえいえ、まあ、お布施とでも思うしか・・・。」
大抵の場合、顔を合わせると共通の頭痛の種である女神の話になる。
メリアヌスに限らず、メリアヌスを通じて他の神々の仕事まで押し付けられているカールスバックにとって、こうして愚痴をはけるムラサキの存在は大きいのだ。
ムラサキにしてみても、どことなくシンパシーを感じる存在であるカールスバックは、お互いの苦労が理解し易いという点では話しやすい相手である。
カールスバックが複数世界を股にかける神であるという事もあって、街中で偶然顔を合わすというパターンより、こうしてムラサキの仕事場に顔を出す事の方が多い。
ムラサキ手ずから入れた玉露(JAが中に導入)を二人して老人の様にすすりながら、お土産として貰った羊羹を食べる。
疲れた体に甘いものが染み込む様に美味い。
「あー、そういやさぁ、紙系の素材になる様なモンスターとか作ってもらえないかなぁ。今は木とか使ってるけど、自然破壊とか怖いしねぇ・・・。」
「まあ、その程度ならメリーでなくても俺が作れるが、どんな感じのがいいんだ? お前らのセンスは良く分からないからな。」
「うーん、そうだなぁ。いっその事デザインコンテストでもやるかな?」
「忙しい、忙しい言いながら更に忙しくなる様な事を考えるんだな。」
「あー、そっか、忙しくなるよね。まあ、いいや緑に押し付けりゃ。」
噂をすれば状態で、その時ドアが開き、緑の中の人が慌てた表情で駆け込んでくる。
「ムラサキさん、マジやばいっす。マタンガが大量発生しました!」
「ゲロゲロ・・・。マタンガかよ。」
マタンガと言うのはキノコ型のモンスターで、しかも毒持ちである。
元々はレアドロップ狙いの虐殺プレイへの警鐘として、運営サイドによって導入されたモンスターで、「放置された屍骸から発生した」という設定がある。
見て気持ち悪い、毒が有って食べられない、というだけでなく、非常に厭らしい状態異常を引き起こすという事もあって、ポルポル内で最も嫌われていたモンスターであった。
「あんなのまで持って来なくて良かったのになぁ・・・。」
「一時期、解体出来ないプレイヤーが多かったっすからねぇ。」
「発生要因が満たされちゃったって訳か・・・。」
「忙しそうだな、じゃ、俺はこの辺で・・・。」
立ち去ろうとするカールスバックの腕をガッシリとムラサキが掴む。
「せっかくですから、ストレス発散も兼ねて退治してきません?」
「いや、遠慮しとく。」
「まあまあ、そう言わず。」
「いいから放せ、あれの毒は何故か知らんが俺ら神にも効くんだぞ?」
「で?」
「『で?』じゃない。俺はやらんからな。」
「ギルドとかへの連絡はどうします? 発生箇所から言うとCBHが近いんですけど?」
「女の都の傍かよ・・・、凄く有り勝ちだな。他のモンスターなら頼むトコだが、マタンガ相手を女性にとかやったら総スカン食うぞ?」
「あー、ですよねぇ。」
マタンガの状態異常・・・それは「変顔で踊る(操作不能状態)」になると言うものなのだ。
トレインでこれを引き連れて女性のトコまで行き、スクリーンショットを収める等と言う行為を行う愉快犯がVR時代には現れ、また、そういったケースでなくともフィールドで遭遇して醜態をさらす等、トラウマを残している女性も多いし、その噂もかなり広まっている。
「「ムラサキさん、大変だよ!」」
漫才である意味時間を無駄にしているムラサキたちのところに、新たに双子が駆け込んでくる。
「マタンガの発生なら聞いたぞ?」
「そのマタンガの群れに」
「女神様が」
「『面白そう!』って突っ込んでっちゃった!」
「「「なんだってぇ~!」」」
今日も中の人の苦労は絶えない。
紫の中の人【完】
引き続きモンスターと人名の辞典を追加して、完全に終了です^^
お読み頂きありがとうございました<m(__)m>




