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ドッペルライアー・ファンタズム  作者: ほたて
『蒼穹の汀、星翠の微睡』
64/64

『         』





 中華料理店『龍光』。

 カウンター席に並んで座るのは、男女二人。

「それで、何か感想はあるの」

 口を開いたのは、女性。


 言葉を受けた男が、眉間に人差し指をやって、わざとらしく悩む素振りをしてみせる。

 やがて。その指で隣席の女性を指差して、


「三十点、ってトコだな」


軽薄の笑みを浮かべて、そう言った。


「先ずは導入がなげ〜な。異常があるってのがわかってんなら、サクサク調べ事に精出しゃ〜いぃモンを、べちゃくちゃべちゃくちゃホームドラマみてぇなやり取り、どこの層に需要があるってんだよ。青少年の青臭コメディ垂れ流される位なら、登録者二十人位の生配信観てる方が万倍有意義だぜ」


 スーツ姿の男だった。

 歳の頃は二十代前半から半ば。

 背格好は細身の長身。

 髪色は黒。


「鎧のハリボテとのドンぱちも余分だったな〜。女王モドキの登場タイミングは悪く無かったけどよ〜、出すんなら初手から出さね〜と、お客さんは退屈しちまうぜ。ま、作りモンでも見栄えはいいからな、ここは甘めの採点だ」


 その他、外見的特徴、なし。


「ドラゴン乗って特攻のトコは悪く無かったな。ファンタジーってのは作りモンだからな、ハリボテ共とは相性がい〜ぜ。とは言えまぁ、散々引っ張った挙句のオチが、なよっち〜小娘の自分探しの自作自演ってのは退屈極まるからな。コイツは大幅減点だ、次回補習参加だな」

「相変わらず手厳しいね。中々どうして、分かりやすいクライマックスで好感度高かったけど」

「馬鹿言えよ。あんなモンで合格出してたら、世の中のエンタメ業界は衰退する一方だぜ。せめてガキの一匹でもくたばってりゃ、まだ面白味もあったけどよ〜……ローファンタジー謳って、死人の一人も出ね〜なんざ、肩透かしだよなぁ」

「……死人なら、一人出たじゃない。エルフの女の子、だっけ」


 男が、わらった。


「作り物のハリボテが壊れることを、俺の世界じゃ人死にとは呼ばね〜よ。人形が壊れたらちゃ〜んと、お住まいの自治体の指示に従って分別だ」


 男が、わらった。


「フィクションの本質は消費だぜ?やるならもっと徹底的に、いくとこまでいかね〜とエンタメになんね〜だろ」

「極論ばかりだね。だったら……あなただったら、どうしてた?」

「んん?そ〜だな……」


 男が、わらった。


「あの『パラドクス』のガキ……なんだっけ、ふなっしーみて〜な名前の奴」

「……仙波星翠、ね」

「そうそう、それそれ。アイツ以外は皆殺しだな。現実も、幻想も、手当たり次第に片っ端からぶち殺して、その雁首をあのガキの前に並べてやろ〜ぜ……そうすりゃもう少し、面白いモンが見れたぜ」

「……面白いもの?」

「怒り狂う、阿島京介さ」


 男が、わらった。


「女王モドキ……というよかセンバの、か。体良くアイツが世界全体を塗り潰せたとして、現実にゃ阿島京介がいる。アイツが居る限り、ハリボテキングダムの連中に勝ちの目なんかありゃしね〜。『私の考えた!サイキョー世界征服計画』はな、はじまる前から詰んでたんだよ」


 男が、わらった。


「……心象世界を破綻させた方が、能力の精度が上がって勝率が上がったって話?」

「それこそあり得ね〜よ。あんな贋物作るだけの退屈な逆理、それこそ天地がひっくり返ったって通じる訳ね〜よ」

「……じゃあ、なんの意味があるのさ、それ」

「意味?んなもん、ある訳ね〜だろ。けどよ、おもしれ〜だろ?大の大人が大真面目にブチ切れてるのってよ」

「……全く、最悪な男だね。そんな目的の為に、年端もいかない少女の人生をぶち壊そうとするなんて」

「おいおい、そいつぁ風評被害だぜ。ネット掲示板で袋叩きにあうレベルの悪質な奴だ」


 男が、わらった。


「俺がふなっしーに掛けた『パラドクス』は【パラドクスに目覚めた当日を認識出来なくなる】……ただそれだけだぜ?そっから先は、アイツが勝手にボロボロ壊れてっただけじゃね〜か。他責思考は人類悪だぜ、けしからん」

「……本当に最悪ね」

「よせよ、照れちまうじゃね〜か」

「とはいえ、結果だけを見れば仙波星翠は再起し、パラドクスは収束。現実における死人は一人も出なかった……これは、あなたの思惑そのものが外れた、企画倒れだったということじゃないの」

「——前から思ってたけど、やっぱアンタってエンタメわかってね〜よな」

「……?」

「この一連のエンタメがさ、合格点に届かなかった最大の減点ポイーント。それは、連中が俺の想像を超えられなかったトコだ〜よ」

「…………」

「連中の末路が頭お花畑なハッピーでも、救いようの無いデッドエンドでも、それが想像の範疇だったらどっちにしろ意味ね〜よ。俺が嗤いたいのはよ、俺の頭ん中以上の何かさ。それが満たされるんなら、ハッピーエンドもデッドエンドも、どっちでも構いやしね〜んだよ」


 男が、わらった。


「……一つ聞かせて」

「スリーサイズ以外なら考えてやるよ」

「何故、『パラドクス』そのものを認識出来ない様に条件を設定しなかったの?結果的に、だからこそ彼女は最後の最後、自らの『パラドクス』を自覚した……暴走の果ての破滅が見たかったなら、その設定は矛盾してない?」

「わかってね〜なぁ。それじゃあ意味ね〜じゃんよ」


 男が。

 わらった。


「壊れるとこまで壊れて、ぶち壊しにするだけぶち壊したら、ちゃ〜んと責任は手元に返してやらね〜とだろ?教育熱心なんだよ。それに言ったろ?見たいのは別に破滅じゃね〜……何を隠そう牧歌主義だからな、俺は」


「…………本当に、最悪な男ね——明石真」

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