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中華料理店『龍光』。
カウンター席に並んで座るのは、男女二人。
「それで、何か感想はあるの」
口を開いたのは、女性。
言葉を受けた男が、眉間に人差し指をやって、わざとらしく悩む素振りをしてみせる。
やがて。その指で隣席の女性を指差して、
「三十点、ってトコだな」
軽薄の笑みを浮かべて、そう言った。
「先ずは導入がなげ〜な。異常があるってのがわかってんなら、サクサク調べ事に精出しゃ〜いぃモンを、べちゃくちゃべちゃくちゃホームドラマみてぇなやり取り、どこの層に需要があるってんだよ。青少年の青臭コメディ垂れ流される位なら、登録者二十人位の生配信観てる方が万倍有意義だぜ」
スーツ姿の男だった。
歳の頃は二十代前半から半ば。
背格好は細身の長身。
髪色は黒。
「鎧のハリボテとのドンぱちも余分だったな〜。女王モドキの登場タイミングは悪く無かったけどよ〜、出すんなら初手から出さね〜と、お客さんは退屈しちまうぜ。ま、作りモンでも見栄えはいいからな、ここは甘めの採点だ」
その他、外見的特徴、なし。
「ドラゴン乗って特攻のトコは悪く無かったな。ファンタジーってのは作りモンだからな、ハリボテ共とは相性がい〜ぜ。とは言えまぁ、散々引っ張った挙句のオチが、なよっち〜小娘の自分探しの自作自演ってのは退屈極まるからな。コイツは大幅減点だ、次回補習参加だな」
「相変わらず手厳しいね。中々どうして、分かりやすいクライマックスで好感度高かったけど」
「馬鹿言えよ。あんなモンで合格出してたら、世の中のエンタメ業界は衰退する一方だぜ。せめてガキの一匹でもくたばってりゃ、まだ面白味もあったけどよ〜……ローファンタジー謳って、死人の一人も出ね〜なんざ、肩透かしだよなぁ」
「……死人なら、一人出たじゃない。エルフの女の子、だっけ」
男が、わらった。
「作り物のハリボテが壊れることを、俺の世界じゃ人死にとは呼ばね〜よ。人形が壊れたらちゃ〜んと、お住まいの自治体の指示に従って分別だ」
男が、わらった。
「フィクションの本質は消費だぜ?やるならもっと徹底的に、いくとこまでいかね〜とエンタメになんね〜だろ」
「極論ばかりだね。だったら……あなただったら、どうしてた?」
「んん?そ〜だな……」
男が、わらった。
「あの『パラドクス』のガキ……なんだっけ、ふなっしーみて〜な名前の奴」
「……仙波星翠、ね」
「そうそう、それそれ。アイツ以外は皆殺しだな。現実も、幻想も、手当たり次第に片っ端からぶち殺して、その雁首をあのガキの前に並べてやろ〜ぜ……そうすりゃもう少し、面白いモンが見れたぜ」
「……面白いもの?」
「怒り狂う、阿島京介さ」
男が、わらった。
「女王モドキ……というよかセンバの、か。体良くアイツが世界全体を塗り潰せたとして、現実にゃ阿島京介がいる。アイツが居る限り、ハリボテキングダムの連中に勝ちの目なんかありゃしね〜。『私の考えた!サイキョー世界征服計画』はな、はじまる前から詰んでたんだよ」
男が、わらった。
「……心象世界を破綻させた方が、能力の精度が上がって勝率が上がったって話?」
「それこそあり得ね〜よ。あんな贋物作るだけの退屈な逆理、それこそ天地がひっくり返ったって通じる訳ね〜よ」
「……じゃあ、なんの意味があるのさ、それ」
「意味?んなもん、ある訳ね〜だろ。けどよ、おもしれ〜だろ?大の大人が大真面目にブチ切れてるのってよ」
「……全く、最悪な男だね。そんな目的の為に、年端もいかない少女の人生をぶち壊そうとするなんて」
「おいおい、そいつぁ風評被害だぜ。ネット掲示板で袋叩きにあうレベルの悪質な奴だ」
男が、わらった。
「俺がふなっしーに掛けた『パラドクス』は【パラドクスに目覚めた当日を認識出来なくなる】……ただそれだけだぜ?そっから先は、アイツが勝手にボロボロ壊れてっただけじゃね〜か。他責思考は人類悪だぜ、けしからん」
「……本当に最悪ね」
「よせよ、照れちまうじゃね〜か」
「とはいえ、結果だけを見れば仙波星翠は再起し、パラドクスは収束。現実における死人は一人も出なかった……これは、あなたの思惑そのものが外れた、企画倒れだったということじゃないの」
「——前から思ってたけど、やっぱアンタってエンタメわかってね〜よな」
「……?」
「この一連のエンタメがさ、合格点に届かなかった最大の減点ポイーント。それは、連中が俺の想像を超えられなかったトコだ〜よ」
「…………」
「連中の末路が頭お花畑なハッピーでも、救いようの無いデッドエンドでも、それが想像の範疇だったらどっちにしろ意味ね〜よ。俺が嗤いたいのはよ、俺の頭ん中以上の何かさ。それが満たされるんなら、ハッピーエンドもデッドエンドも、どっちでも構いやしね〜んだよ」
男が、わらった。
「……一つ聞かせて」
「スリーサイズ以外なら考えてやるよ」
「何故、『パラドクス』そのものを認識出来ない様に条件を設定しなかったの?結果的に、だからこそ彼女は最後の最後、自らの『パラドクス』を自覚した……暴走の果ての破滅が見たかったなら、その設定は矛盾してない?」
「わかってね〜なぁ。それじゃあ意味ね〜じゃんよ」
男が。
わらった。
「壊れるとこまで壊れて、ぶち壊しにするだけぶち壊したら、ちゃ〜んと責任は手元に返してやらね〜とだろ?教育熱心なんだよ。それに言ったろ?見たいのは別に破滅じゃね〜……何を隠そう牧歌主義だからな、俺は」
「…………本当に、最悪な男ね——明石真」




