第10話 卒業式
卒業レースの翌日、卒業式が始まった。
競竜学校の体育館に、100名を超える卒業生が並んでいた。彼らは本日より候補生から新人竜騎手になる。誇らしげな顔をしている男子もいれば、ほっとした顔の女子もいた。
新人竜騎手の親御さんたちも集まっていて、冠婚葬祭用のスーツを着ていた。大事な子供のハレの舞台ということもあって、びしっと気合が入っていた。そのせいで過剰なぐらい化粧品をつけすぎて臭くなっているのはご愛敬だろうか。
ただしすべての親御さんが集まれたわけではない。仕事の都合がつかないこともあるし、単純に競竜学校が遠すぎて遠征するのが難しいパターンだってあった。
統一政府が誕生して国家の概念が消滅していると、競竜学校がここ一か所しか存在しないため、惑星の裏側から留学している若者がいたわけだ。
ではゼルツェンの母親はどうしたかといえば、他でもないゼルツェンが欠席しろとお断りした。
もしゴルドザーム・カルペルの妻が現地入りしてしまったら、ゼルツェンの正体がヴァルケナン・カルペルだとバレてしまうからだ。
ちなみに友達のデルデの親は来場していた。二人ともデルデそっくりであった。
「なんだか恥ずかしいなぁーって」
デルデは親の顔を見られたくないらしく、もじもじしていた。
「別にいいじゃないか、お祝いの場なんだし」
ゼルツェンは、同期たちの親をじっくり眺めた。みんな親子だけあってそっくりであった。
「ゼルツェンの親はこないの?」
「ああ、仕事が忙しくてな」
嘘をついた。本当のことは言えないからだ。
まさか父はレース中の事故で死んでいて、その冤罪を証明するために偽名で入所していたから、母親が顔バレするとこちらの正体までバレるなんて言えないだろう。
「でもなんていうかさ、久々に親の顔を見たらさ、本当に競竜学校を卒業したんだなって感慨深くなるよ」
「学校外の人たちにまで、落ちこぼれ世代ってバカにされてるしな。卒業した実感がちょっとわきにくい」
卒業レースを取材した競竜の専門誌に『落ちこぼれ世代、ついに卒業、競竜業界の将来が不安である』と書かれていた。
まったくもって心外である、これから成長して競竜業界を引っ張る存在になるというのに、とゼルツェンは思っていた。
「見返したいよ。落ちこぼれ世代なんて悪い評判はさ」
「絶対に見返してやろう。G1ばんばん勝ちまくって」
式は滞りなく進んで、最後に校長から訓辞があった。
「えー、みなさんがこれから働く世界は、ギャンブルの世界です。公正で誠実な仕事をこなさなければ、お客さんの信用を失って、誰もお金を賭けてくれなくなるでしょう。みなさんの新しい人生に、乱数の神様の祝福あれ」
どこまでいっても飛竜と竜騎手はギャンブルの駒である。
それを忘れてしまったら、興行が成り立たなくなるので、お客さんが離れてしまうだろう。
ゼルツェンには父親の冤罪を証明するという目的もあるが、ひとりの竜騎手として真面目に興行に取り組もうと思った。




