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いよいよ北に向けて出発する日が来た。
リリベルは旅の間はずっと男装というか乗馬服だ。
とりあえず最初は我が国の国境の手前にある北の陛下の別荘を目指す。
普通なら別荘まで馬車だと5日ほどで、そこから辺境伯が守る北の国境までは3日なのだが、スネイプニルなら別荘までは2日、国境までは1日ぐらいだろうと予想する。
北の国境から北の国の王都までは1日なので、もしかしたら最短で3、4日で着いてしまうのではないだろうか…。
そもそも北の陛下はスネイプニルで山脈を越えてしまうので、いつも子爵領まで1日ちょっとで来てしまう。
辺境伯領の国境は山脈を越えないルートなので少し遠回りになる。だから心配なのは直進主義のサオリだ。
リリベルはサオリにしっかりお願いする。
「サオリ、今回はちゃんと道順を守らないといけないの。最短ルートじゃないのよ!お願いね。」
一応地図も見せてルートを示す。
サオリはジッと耳を傾け地図を見ていたが‥‥
「スネイプニルとは本当に賢いのだな。そなたがサオリ相手に地図を持ち出した時は目を疑ったが、サオリは分かったように見ている。きっと正しくそなたらを導くのだろう」
と王太子殿下が仰せになると、何だかサオリは急にご機嫌に長いシッポを犬のように振り出した。マジか?!
その後、王太子殿下におだてられたサオリは順調に北の陛下の別荘に到着した。予定通り2日だ。いや正確には1日半だけど。
サオリは今回は休憩時以外、セノビックを一切待たなかった。だがセノビックはさすが体格がサオリよりも立派な牡馬だ。タナカよりもパワーがあるようで、そんなに遅れる事なく別荘にやって来た。
「な〜!どう言う事だ?サオリのスピード…一体どうなってんの?」
ザック殿下、スネイプニルの全力疾走より感想がそっちか。だったら今後も手加減は要らないな。
「それにしても王都を朝に出ただろ?それで次の日の夕方に着くってビックリだ。休憩も食事の時だけだろ?偉いな〜2頭共」
ザック殿下は長距離移動ハイなのか、そのままご機嫌に2頭を褒めまくっている。
できれば世話の手も動かして欲しいが、様子を見ていると何だかスネイプニル達っておだてに弱いんじゃないだろうか?だったらいいかとリリベルは無言で飼い葉と水を用意して、ザック殿下にそっとブラシを渡して別荘内に戻った。
別荘の使用人は私達が予定よりも早く到着した事に驚きもせず迎えてくれた。きっと北の陛下のせいだな。慣れてるんだろう。
リリベルは「別荘に到着しました」と魔石の伝令鳥を飛ばすと、翌日の早朝「ふざけるな!」と王太子から返事が来た。
でもザック殿下は大笑いしていたから、まあいいかと思った。
そう実はこの別荘にはなんとスネイプニルを世話できる元北の騎士がいたのだ!なんてこった!
でもやはりスネイプニル達を世話するには北の人間である事が絶対条件だそうだ。更に乗せてもらうにはスネイプニルのお眼鏡に敵わないといけないらしい。だから1頭に対して騎士1人は必然で、他人のスネイプニルには乗れないのだそうだ。
だが例外がサオリだ。サオリが乗せる人間はどのスネイプニルにも乗れるらしいから、やっぱりサオリは特別なのだ。そんな凄いスネイプニルをお借りしちゃって大丈夫なんだろうか?って言ったら別荘の元騎士さんは「えんでねがな?」ってあっさり仰った。
いまいち北の人の価値観が分からない瞬間だった。
この調子だと北の辺境伯領の国境までは半日だ。
辺境伯の屋敷に一泊の予定なのだが長居にならないよう朝に出て夕方到着を目指す。
こういう気の遣い方が、まだ下位貴族感が抜けてないと思われがちなのだが、これまでの経験からすると‥‥
「ようこそ第三王子殿下!遠い辺境伯領までよくお越しになりました」
おい!妃殿下を付け加え忘れているぞ。
「第三王子殿下、私は辺境伯家の長女でございます」
と美しい令嬢が辺境伯の横でスカートを摘んでいる。
ほら、やっぱり!!
「辺境伯、短い間だが世話になる」
多分、ザック殿下も気付いているが、あえて私を紹介しない。
ま〜また勝手に勘違いコースが一番、面倒がないからいいけど。
「お世話になります」私もニッコリ微笑んでおいた。
「おやっ?もしや殿下お一人ですかな?」
そんな訳がないだろう!ちゃんと王家からの手紙を読んだか?だが辺境伯は嬉しそうだ。
娘は私を見て嬉しそうだがな。
辺境伯家の執事に部屋を案内されるが、どうも執事が困っている様子だ。
「あの…お連れの方は実は妃殿下ではございませんか…?」
使用人の方が分かっているのだなと思ったら、なんと彼は辺境伯の弟君だった。近々、辺境伯の代替わりを薦めるべきかもしれないな。そもそも辺境伯には娘は居ないことになっている。伊達に王太子妃に貴族の情報を叩き込まれた訳ではないのだ。
以前のリリベルとは違うのだぞ!
きっと親戚か傘下の貴族の令嬢を連れて来たんだろう。とリリベルがトリップしていると「ああ。でも夫婦だし部屋は同じで構わない。風呂の準備と食事だけ頼むよ」とザック殿下が仰った。
部屋に入るとザック殿下はベッドに転がって急に大笑いし始めた。ずっと堪えていたんだな。だって殿下は笑いの沸点が低い人だしな。
「ひーっ可笑しい!毎回、このパターンだっ」
「辺境伯家は当主変更を進言した方が良いかもです」
「そうだな。国境だしな。聖女の守りのせいで、すっかり間抜けになってるな。でも可笑しい!ヒーハハハッ」
ずっと笑ってろ…。




