海へ
クリストフは目を見張った。なんて広さだ。水平線の向こうは空しか見えない。気づくと水面がうなり砂浜に押し寄せる。なんて高い波だ。大胆で不規則で荒々しい。そして砂浜にも驚いた。この地面全てが砂であるという事が、信じられない。足元にある、岩場を削った階段を降りると砂浜に行けるらしい。クリストフはユリウスを見た。ユリウスも興奮した顔で頷いた。
ユリウスは逸る気持ちを押さえながら、砂浜に足を踏み入れた。一歩一歩が重い。なんて歩きづらいのだろう。波打ち際までなかなか近づかない。息が上がる。先を行くクリストフとは離れてゆくばかりだ。ようやく砂の色が変わり普通に歩けるようになった頃には、クリストフは既に足を浸けていた。
冷たいようで生暖かさも感じる。波が引くと足の指から砂が流れ、くすぐったい。時折、強い波がぶつかって波しぶきが顔にまで飛んでくる。確かにしょっぱい。波音の中に声が聞こえた気がして振り返ると、ユリウスがよろけていた。
知識とはまるで違う。砂の上に伸びて来る波は泡立っていて、弾けるような音が聞こえる。届いてた波が、次には届かなくなる。少し近づいただけで波の衝撃が強くなる。クリストフが笑い声を上げた。うるさい。
エリアーヌも笑った。大きな身体を揺らしてはしゃぐ二人を眺めているだけで楽しい。キャロラインは喜んでもらえて嬉しかった。あのユリウスでさえ声を上げて騒いでいる。エリアーヌと顔を見合わせて微笑んだ。クリストフもユリウスも年相応の青年に見えた。
翌日、別邸の食堂にはキャロラインとフリージアの姿があった。
「お姉様、ごめんなさいね。助かったわ」
「馬車の故障なら仕方ないもの、気にしないで。それに、久しぶりにここへ来れて私も楽しかったわ」
キャロラインはエリアーヌに誘われて貝殻探しをした。いつの間にかクリストフとユリウスも交ざって、おしゃべりをしながら歩き回った。最後は皆で夕暮れを眺めて、ようやく引き上げたのだ。
「それならよかったわ」
「二人共ずいぶん騒いでいたわよ。エリアーヌもはしゃいでいたし。今日はゆっくりすると思うわ」
「あらあら、ふふふ」
フリージアは嬉しそうに微笑んだ。
帰って直ぐに湯を浴びたのだが、キャロラインは眠気を我慢できなかった。他の三人も同じだろう。お昼だというのに、三人は部屋から出てくる気配がなかった。




