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薄紅色の花が咲いたら  作者: 巻乃
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小話ー4

『ジェイドとクンツァイトのご褒美』


 プリムラちゃんの婚約式が行われたその日の夜、神託が無かったなと思いながら。早めにベッドに入ったのだが、次の瞬間、広くて白い何もない部屋の中にいた。周りを見回すと、俺とエレガント、第1王子レオニダス、第2王子アレクサンダー、第3王子ルーピング、第4王子アイスバーグ、王弟のクンツァイトが立っていた。そしてどこからか声がした。


『今日は愛し子の婚約式が行われ、我も浮かれて遅くなった。今夜は懐かしい者達にそなた達を会わせようと思う。』


 「兄上、神です!神のお声です!」ああ、クンツァイトが毎回神託で聞いている声だから分かるのかと、何となく思った。


 俺達の前に、モヤモヤとした白い塊が3つ現れたと思ったら、その塊が段々と人の形になり、父と母、義母の姿になった。俺やクンツァイトが驚き過ぎて動けない中、エレガントが挨拶をした。


「お久しぶりでございます。お義父様、お義母様、もう一人のお義母様。私、エレガントと申します。」

「久しいな、皆、息災であったか。」前王であった父、父上であるメタリオが話しかけている。

「ジェイド、こんなに大きくなって。お嫁さんもいて、王子も4人いるのね。そちらの大きい子が弟なのね。」俺の、私の母のリモナ母様が話している。目の前がぼやけて来た、変だな、服の袖で目を擦る。

「私の話した通りでしょう。その子が私の産んだジェイド様の弟のクンツァイトですわ、リモナ様。」義母まで母と話している。俺はその夢の様な光景を見ているだけで、声が出せない。

「そうね、つい名前が思い出せなくて。ごめんなさいね。私もジェイドの小さい頃しか知らないから、孫までいるとは思っていなかったから、驚いてしまって、うふふ。」

「孫が4人もいて、私もお爺様になったのだな。」父の微笑みが4人の息子に向けられる。


 息子たちが自己紹介を始めた。それを目を細めて嬉しそうに見守る父達。涙が止まらない、再び会えるとも思っていなかったし、まさか家族を紹介出来ると思わなかった。


 4人の息子達がおずおずと父達に近付き、順番に3人によって抱きしめられている姿を見ていた。


「ジェイド、お前もどれだけ歳を重ねたか見たいのだ。私達の側においで。」

「私も久しぶりにジェイドを抱きしめたいわ。この機会を逃したくないから、おいでなさいな。」


 フラフラと父と母に吸い寄せられる様に近付いて2人に顔をしげしげと見られて何回も抱きしめられた。嗚咽が漏れる。「会いたかったーーーー!」泣き崩れた私を子供みたいねと2人で抱きしめて、沢山頭を撫でられた。「父上ー!母上ー!」叫んで泣いた、思いっきり泣いた。日頃は王として父として夫としての責務で泣く事も出来なかった俺は、久しぶりに子供の様に泣いた。


 隣から「母上ー!」「父上ー!」とクンツァイトの呼ぶ声と泣き声が聞こえたので、弟も泣いているのだと分かった。まったく余裕のない我が身に笑えた。妻も子もいるのに、な。


「あちらにお茶が用意がされているのよ、皆で飲みましょう。」母上が笑いかけてくる。

「私も息子達や、嫁と孫と話をしたり、お茶を楽しみたいから、ジェイド、クンツァイト移動しよう。」父上に小さい頃の様に、言い聞かせられた。


 隣を見るとクンツァイトが泣き笑い顔で、「兄上、移動しましょう。」と言うので、「ああ。そうだな。」と返事をして、移動した。


「今回の機会を作ってくれたスキル持ちのご令嬢を王家で娶れなかったのは、私がやらかしてしまったせいで実現出来なかったのは理解している。」俺は、茶を噴いた。咽ていると母上が背中を摩ってくれた。

「自覚がおありなのですか、父上。」

「フリューリンク家にスキル持ちが生まれると神から聞いて知った時点で、王家には無理だと思っていた。その後、お前たちも色々やらかしていたしな。」俺達の上から神と一緒に見てたのか。説明不要か。

「今回の機会を作ってくれたご令嬢に、お礼を言っておいてくれ。」

「私からもお願いね。」「ええ、私からもですわ。」


 そうして、俺達は自分達の話を、気持ちを父達に話していたのだった。それを頷いて聞いてくれている父達を見ている幸せを感じていた。お茶がなくなれば、母達が淹れてくれて、茶菓子もいつの間にか追加されている不思議なお茶会になっていた。


 そこに1人の青年が現れた。俺に話しかけてくる。「ジェイド陛下、この書簡をストック兄上に渡していただけませんか。」ああ、この青年は、名を神に返されたストックの弟だと理解した。2通の書簡が俺に手渡されたが、「2通ともストック兄上に渡していただければ、兄上ならもう1通を誰に渡せばいいのか理解出来ますので。宜しくお願い致します。」丁寧な拝礼による挨拶をされたので、「明日、渡そう。」と返事をしたのだった。「それでは、家族団らんの所、失礼致します。」と言った青年の姿がその場から消えた。預かった書簡をテーブルの上の端に置き、お茶会が続いた。


『積もる話もあったようだが、あれから6刻(時間)も過ぎて、王妃も王子も仕切りの向こうのベッドで寝ている。これが夢でない証拠に神託を授けよう。』


「まぁ、楽しいとすぐに刻(時間)が経ってしまうわ。」「そうだな。」「そうですわね。」父達が話す。


『我が使いのクンツァイト、それにジェイド王、ここでの話は家族内の話として他言無用で頼む。愛し子とストック、宰相にソルベールぐらいなら内緒で話しても構わないが。』


「神託とはどんな内容でしょうか。」クンツァイトが尋ねる。


『まずは、王妃の腹の中に双子の姫がいる。丁度、宰相の所にも時期はズレるが、娘が同い歳で生まれるのだ。待望の姫だぞ、嬉しくないのかジェイド王よ。』


「へ?」間抜けな声が出てしまった。嬉しいが、ストックを見ているから不安も感じるのだ。俺はあんな娘に甘くてだらしない父親にはなりたくないのだが、そう言い切る自信は一切ない。


「おめでとう、ジェイド。」「でかした!ジェイド!」「おめでたいですわ!ジェイド様。」「兄上、おめでとうございます。」

「あ、ありがとうございます。」何とかお祝いの言葉にお礼を言えたが、こんな展開が待っているとは思わなかった。


『我が使いのクンツァイトよ、他国の移民の中に貴族の家がある。その貴族の娘との恋愛結婚をすると神託しよう。』


「は?」クンツァイト、俺とあまり変わらない返事だぞ、何故かその受け答えに、俺達が兄弟なのだと腑に落ちた。父達がさすが兄弟だ同じ反応だなと、笑っている。


「クンツァイト、おめでとう。」「おめでとう。」「どんな娘か楽しみね、おめでとう。」「良かったな、クンツァイト。おめでとう。」

「あ、ありがとうございます。」照れているな、クンツァイトよ。頬が赤くなっているぞ。


 兄としては、すぐに揶揄いたいが、クンツァイトが婚約するまで我慢しておこうと思う。移民は調査してから受け入れる方向にもっていくか。


『王子達にも婚約者が近々、決まるであろう。姫達にも早々に婚約が調うだろう事も告げておく。ストックの様に取り乱すと娘に嫌われるから気を付ける様に。ジェイド王よ、我からの忠告だ。愛し子が散々嘆いていたのでな。これはストックには内緒で頼むぞ。』


 ストックは娘に呆れられているのか、気を付けよう。でも、娘の婚約が早い事は忘れない様に覚えておこう。そう思っていたら、そのまま視界が白くなった。


 気付いたら、自身のベッドで寝ていたようだ。エレガントも横に寝ている。ベッド横のサイドテーブルの上には、おめでとうと書いてあるカードが3枚、ストック宛の書簡が2通、載っていた。


 カードは父の字で「国王として頑張っているのをいつでも見ている。おめでとう、ジェイド。」と書いてある父の署名入りのカード、「ジェイドは孫を見せてくれたので、嬉しかったわ。今度は姫で嬉しいわ。おめでとう、ジェイドとエレガントに母からの愛を込めて。」母の字で書かれて母の署名入りのカード、「あの少年だったジェイド様が家族と会いにいらして、楽しかったです。クンツァイトとこれからも仲良くお願いしますね。ご家族が増える事は喜ばしいですわ。おめでとうございます。」義母の字で書かれた義母の署名入りのカードを見ていた俺。エレガントが起きたので、見せた。


「ありがとう、エレガント。今度は双子の姫が生まれると神託を受けた。王子達にも近々、婚約が決まると、姫達も婚約が早く決まると神託を受けた。クンツァイトも恋愛結婚すると神託を受けたんだよ。」

「まあ!私のお腹の中に双子の姫が!」「ああ。」

「王子達にも、クンツァイト様にも!」「そうなんだ。」


「嬉しいわ!」「時期はズレるが、宰相の所にもうちと同じ歳の娘が生まれるそうだ。」

「素敵ー!公爵家なら、姫達の遊び友達に丁度いいじゃない!」

「プリムラ嬢が神に私達兄弟のご褒美を頼んだから、昨夜のお茶会も神託も実現したのだそうだ。」

「じゃあ、イリスにもストック殿にも感謝しなくては、ね。プリムラちゃんの両親ですもの。」

「帝国の罪人に天罰実施をした立役者で、今回の事でも王家として色々と感謝しているんだ。プリムラ嬢に褒美を与えてもいいかと思うんだが、エレガントの意見はどうだろうか。」


「それは、王家としても個人としても褒美を与えなくちゃ!私も神様から、今回の帝国の件での褒美で姫を授かったのだとコッソリと神託されたの。ジェイド王の妹達には不憫な思いをさせたから、他の場所で幸せになっている事だけを教えておこうって言ってくれたけど。」


「幸せになっているのか、そうか。よかった。」すんなりと自分の言葉が、心の中に納まった。

「でも、何か不思議だわ。二度と会えないと思っていたお義父様とお義母様達に会えて、お祝いの言葉をジェイドが聞いて、こうやってカードまで届いているなんて。不思議。でも、素敵な不思議で、娘達にも話してあげたいわ。それにしても、そちらの書簡は?」

「ストック宛だ。弟君から2通、預かったんだ。」

「今日、渡して上げるのね。」

「そうするつもりだよ、昨夜、約束したし。」

「ストックに」

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