反撃の狼煙
通されたのは寝室だった。
今日はもう時間も遅いということで、三人それぞれに寝室が用意されていた。フラウはそのうちの一室に通される。
中に入るとその豪華さに目を見張る。
「それではごゆっくりお寛ぎください」
メイドはそう言い残して扉を閉めた。
改めてフラウは室内を見渡す。
客室には豪華な調度品が、壁には作者はわからないが高そうな額縁に彩られた風景画が、クローゼットすら白塗りに金縁と気品を漂わせる造り。
これを売るだけで結構な値になるのではないかと思うだけで気が気ではない。
クローゼットを開くとこの邸に来た時に持っていた所持品が入れられていた。武器の類は持ってきていないので、洗濯後の衣服くらいだが。
周囲の壁から視線はベッドへと移る。
四隅に支柱が伸びており、上部には天蓋が設られている。それぞれの辺にはレースのカーテンが垂れ下がっていた。
フラウはレースのカーテンを手で持ち上げながら潜ると、勢いよくマットレスに飛び込んだ。
ボフンという効果音が聞こえてきそうなほどに体が沈み込み、そのまま反発で数十センチ宙に浮き上がる。重力に従い再びマットレスに沈み込むと優しくフラウの体を包み込む様に受け止めてくれた。
そのままごろごろと左右に転がりながら、まるで雲の上にいるかの様な心地いい浮遊感に身を任せる。
「あー。こういう生活も悪くないかもねー」
やや貴族の生活に憧れを抱き始めていた。
何もしなくていいのなら、あの貴族と結婚して食っちゃ寝するのも悪くないかもしれない。ただその相手が一番の問題なので、やはり結婚を受け入れるのはやめようと思った。
しかしこれからどうしたものか。
事は武力で解決できる様な簡単な話ではない。形としては自分が拘束されているが、いわば村人が人質に取られているようなものだ。
自分が無理を通せば何らかの不利益を村人が被る。それはフラウの望むところでは無かった。
かと言ってこのまま拘束されていては、身動きが取れずレインの思い通りになってしまう。何とか外へと出る手立てを考える必要がありそうだ。
幸いにもあの貴族が執着しているのは自分だけ。であれば、ニナやレイナは何とか帰して貰えないだろうか。
いや、無理だろうな。あれだけ黒い話をペラペラくっちゃべっていたのだ。本人も帰すつもりがない様なこと言っていたし。
しかし無理やり力で押し通ろうとしては、逆にこちらが悪者となってしまう。
貴族の屋敷を傷つけ逃げ去った魔導士。
国王や姫様に頼めば擁護してもらえるかもしれないが、それで王家の立場が悪くなるなどの不利益が発生しないとも限らない。
恐らくあの男はそれも想定しており、他の貴族にまで根回ししているに違いない。下手な救援を王家に頼もうものなら、証拠の揃った悪者を王家の立場を利用して庇護するという、責めるのに恰好の理由を与えてしまう。
それはある意味フラウを手に入れるよりも価値のあることかもしれない。
あんなやつに、むざむざそんな口実を与えるのも癪だ。出来るだけことを大きくせずに済ませたいところだ。
「それにしても……」
フラウはベッドから起き上がり自分の格好を見た。
シックなワインレッドのドレス。普段着慣れない服。着心地からも上質な布が使われていることがわかる。恐らくこれ一着で中堅冒険者の装備一式を揃えられるだろう。
ちなみに冒険者ベースでの換算なのはフラウだからだ。
着慣れないとは言ってもフラウも女の子だ。やはり綺麗なものは好きなのである。もちろん自分が綺麗に着飾るのも。
壁際に設置された姿見の前でクルクルと回ってみる。スカートがふわりと風に舞い、刺繍された花びらが散るようにフラウの周囲を彩った。
鏡の中の自分はまるで一輪の薔薇。
深紅に咲き誇った薔薇が周囲の花弁を巻き込んで花吹雪を散らすかのよう。
鏡に映った自分が別人のように見え、フラウは胸の内が暑くなるのを感じた。
クルクルと舞踊りながら、ガチャリと扉が開く。
「フラ、あ……」
扉を開けたレイナとバッチリ目があった。
フラウの動きと共に時間が止まる。
「「…………」」
パタン。静かに扉が閉ざされた。
「&⚫︎¥★@?▲!!!」
声にならない悲鳴をあげて、恥ずかしさのあまり転げ回る。
レイナは室内から聞こえるドタバタ音を部屋の前で聴きながら、暫くぽつんとその場に突っ立っていた。
やがて別の扉が開いて、いつもの黒を基調としたフリフリの服に着替え終わったニナが姿を表した。
「……そんなところで何やってるの?」
「えっと……。ちょっと支度待ち」
「あ、そ。それにしてもフラウ何やってるの? 随分ドタバタうるさいけど」
「あー。まあ着替えてるんじゃない?」
「ふーん。そっか」
そうして自然な動きでニナはフラウの部屋の扉に手をかける。
バッと一瞬の速さでレイナはニナの手を押さえた。
「レイナ。その手、どけてくれるかしら?」
「い、いまフラウ支度中だから」
「別にいいでしょ? 女の子同士なんだから」
ニナは悪どい笑みを浮かべてノブを掴む手に力を込めた。
レイナは気付く。明らかにニナは何かに気づいている。恐らくレイナの反応から、中に何かあると予想したのだろう。それこそフラウの弱点につながるような何かが。
しかしレイナが力づくで押さえ込む。ノブは回らない。
いくら魔法がすごかろうと、身体能力は年相応の少女でしかないのがニナだ。とてもではないがレイナの力には敵わない。
「ぐぐぐぐぐっ」
「だめよ、ニナ。親しき仲にも礼儀ありって言うじゃない」
「レイナって意外と難しい言葉知ってるのね」
「フラウがいつも失礼だからそういう言葉覚えたの」
「それって本末転倒じゃ……」
これ以上争っても敵わないと悟ったのか、ニナもドアノブから手を離した。
暫くすると中のドタバタ音が止み、内側から扉が開かれる。
「お、お待たせ〜」
若干頬を赤くしたフラウが顔を覗かせた。
服はいつもの魔女然とした衣装に着替えている。山高帽は今はベッドの上に置かれており、肩までで切り揃えられた綺麗な金髪が露わになっていた。
「遅いわよ、フラウ。あんたが着替えて自分の部屋に集合っていったんじゃない」
「あははー。ごめんごめん」
「? まあいいわ。入るわよ」
ニナはそう断るとさっさとフラウの部屋の中へと入っていった。
レイナも続けて入ろうとすると、がしっとその手を掴まれる。
視線を向けると直ぐ真横に目を見開いてじっと自分を見つめるフラウの顔があった。無表情で見つめるその顔は、冷たく無慈悲な印象を与えた。
(こ、殺される……)
レイナがそう思うのも無理はないほど、今のフラウは恐ろしかった。
何も悪くないのに慌ててレイナは謝罪を述べてしまう。
「フ、フラウ。ご、ごめん。誰にも言わないから!」
「えー。ほんとー?」
無表情のまま小首を傾げながら棒読みで語りかけてくるフラウ。それが一層レイナの恐怖に拍車をかける。
半ば顔を青ざめさせながら引き離そうとするが、魔術師であるはずのフラウの手はまるで鉄の塊かのように固定され全く動かなかった。
「ほんと! 大丈夫だから!」
「ぜったいー?」
「絶対! 絶対大丈夫だから!」
「…………」
ふと手首を掴む力が緩むと、レイナはばっと後ろに下がった。
「やだなぁ。冗談よ冗談」
そこにはいつものヘラヘラと笑うフラウの姿があった。
先ほど感じた威圧感も今は霧散している。その様子にレイナはほっと胸を撫で下ろした。
「さ、中入るわよ」
「あ、うん」
そう言ってフラウに促されてレイナは部屋の中に足を踏み入れた。
「二人とも何やってたの? またフラウが虐めてたんじゃないでしょうね」
「何でもないよー」
そうして後ろに顔を向けるフラウの表情は無表情だった。
レイナは慌てて誤魔化した。
「う、うん。何でもないから」
「そう? ま、いいけど。それより早く今後の話をしましょう」
ニナはそのままフラウのベッドに腰掛けた。ニナの体重が軽いのか、ベッドはあまり沈み込まない。
フラウもニナと少し距離を空けてベッドに座る。
レイナも手近にあった椅子を二人の前まで引っ張ってきて腰を下ろした。
三人が集まったのは勿論状況を好転させるため。
現状はラウルホーゼンを盾に雁字搦めにされてしまっており、更には邸に監禁されて動くことができないでいる。
しかし悠長にしていられる余裕はない。
このまま監禁されたままにしても、いつかは空腹に耐えきれなくなって薬物入りの料理に手をつけざるを得ない。
押し通るにしても貴族を、引いては国を相手に戦う覚悟を決める必要がある。
どちらに転んでも明るい未来が想像できないことに、三人はため息をついた。完全にレインの手のひらの上で踊らされている状況だ。
「これって正直やばくない?」
「そうね。フラウが軍門に下って後から裏切るってのが一番成功する可能性が高そうだけど」
「その頃には薬漬けになってるんじゃない?」
レイナの冗談にニナもあははと笑い声をあげる。
フラウだけが引き攣った笑みを浮かべていたが、二人はそれに気付くことはなかった。
「まあ冗談は置いといて、フラウはどうするつもり? どうにもあんたが話題の中心にいるみたいだし、どうするか決めるのもフラウ次第だと思うんだけど」
ニナの言葉にフラウは唸り声をあげて考える。
悩んだところで良案が浮かぶわけでもないが、ここで考えることを放棄してしまってはノンストップで地獄に一直線だ。いや、寧ろこのまま結婚してしまった方が良いのではないか。そうしてこの屋敷を乗っ取って、自分が当主になると言う手もある。
とは言え権謀術数渦巻く貴族の世界に入っていくのも嫌だし、もっと楽して暮らせる何かがあればなと思う。が、勿論そんな解決策など出ようはずも無い。
「うーん。どうやったら遊んで暮らせるんだろうか」
「……あんた一体何に頭悩ませてんのよ」
この状況でそんな余裕があるフラウに、ニナも呆れを通り越して感嘆のため息を吐いた。
そんな二人の様子を側から眺めながら、レイナはふと思った疑問を口にする。
「今更なんだけど、この部屋でこんな話しててもいいのかしら?」
「と言うと?」
「監視とか盗聴とかされてないのかなと」
レイナの言葉にばっと顔を見合わせるフラウとニナ。
弾かれたように探知の魔法を発動させて怪しいものがないか確認する。
監視、盗聴を行うとすれば、何かしらの魔術的方法がとられている可能性が高い。だとすれば、探知の魔法で魔力の残滓を確かめれば直ぐにわかるはずだ。
その結果ーー
「あるじゃないのよぉ……」
監視や盗聴の魔法が幾つか発見された。
つまり今までの行動や会話が筒抜けになっていたと言うこと。
即ち、フラウが姿見の前でくるくる回っていたことや、着替えの様子、三人での会話などなど。色々まずい内容がわんさか。
会話に関しては具体的な策が上がっていないため大した問題ではないが、それ以外の行動がばれていたことの恥ずかしさから、フラウは膝を抱えてベッドに丸まっていた。
レイナがよしよしとそんなフラウを慰める。
「取り敢えず魔法は無効化したし、声も外に漏れないようにしたけど、どうしよっか」
「そうね。フラウもすっかり意気消沈しちゃってるけど、何か考えないことには進まないから。ニナはどうしたらいいと思う? この中で貴族について一番詳しいニナならいい案が浮かんだりしない?」
「んー。そうねぇ」
ニナはうんうん頭を悩ませながら、首を左右に振っている。ちょっと小動物みたいで撫でたくなったがグッと堪える。
やがてメトロノームのように左右に振られていた頭はピッタリ真ん中で止まった。
「取り敢えず私の召喚魔法でラウルホーゼンに救援を出しましょうか。鳥を飛ばせば一日もあればラウルホーゼンに着くはずよ。そこからこの邸に監禁されていることを伝えて、姫様にでも救援を出してもらいましょう」
「え、でもルーシェを頼ったら貴族の間で問題になったりしないの?」
「んー。大丈夫でしょ。姫様頭いいから、何かしらいい感じの理由をつけてくれると思うわ」
「それならいいけど」
随分他人任せだなと思いながらも、自分の力では何もできないレイナからすると、結局どう足掻いても他人任せでしかないのかと気落ちする。
「じゃあちゃっちゃと召喚しちゃいましょうか」
「大丈夫なの?」
「監視もないし、行けるでしょ。ほいっと」
ニナはベッドから飛び降り床に両手をつけた。すると床に魔法陣が浮かび上がり光を発する。
ボンっと煙を出して飛び出したのは黒いカラスだった。
カラスは室内をパタパタと回遊するとゆっくりとニナの腕に降り立った。
「ポンちゃん。お願いがあるんだけどいいかしら?」
「はん! 久々に呼び出したかと思えばいきなりお願いかYO。全く失礼なやつだぜ」
「ご、ごめんね。中々召喚する機会がなくって」
「はん! ニナに召喚されなくても別に寂しくなんてないんだがYO。けど久々にお前のぺたんこな胸も見られたからよしとしてやるYO」
カラスの言葉にニナは頬をひくつかせる。しかし笑みは何とか絶やさず維持していた。
「ラウルホーゼンの位置は覚えてるかしら?」
「はん! 俺様を誰だと思ってやがるんだ。覚えてるに決まってるYO」
「そう。じゃあ今から言うことをラウルホーゼンにいるグレイス様に伝えてくれるかしら?」
「はん! あの優男か。構わねーYO。その代わり、後でちゃんと毛繕いしろYO」
「わ、分かったわ。じゃあ言うわね。グレイス様、ニナです。私たち三人は今バルトリオン伯爵家に監禁されています。今回の首謀者は伯爵家の次男、レイン・バルトリオン。彼はラウルホーゼンを盾にフラウを従わせてその力を利用する気です。私たちは無理に屋敷から逃げ出せません。どうか姫様にこの事を伝えて、何とか外から私たちを助け出してくれるよう働きかけてください。お願いします。グレイス様だけが頼りなんです。どうかよろしくお願いします。あなたの愛しのニナより」
「あ、先輩よろしくお願いしますねー」
「あぁ!」
締めくくった後のレイナの一言に、思わずニナが声を上げる。だが時すでに遅し、カラスのポンちゃんは颯爽と体を宙に浮かせる。
「確かに記憶したぜ。んじゃあいっちょ伝えてくるYO」
『あばYO』と捨て台詞を残してポンちゃんは窓の外へと飛び去った。
残されたニナは窓に手をかけポンちゃんの飛び去った方角に力なく手を伸ばしていた。
「うぅぅ〜。グレイスざまぁぁぁ……」
全部レイナに持ってかれるぅと悲嘆を口にする。
そんなニナをよしよしと撫でて慰めるレイナ。その状況が虚しく思えて、一層ニナは涙を流した。
「ま、いつまでも悔やんでたってしょうがないわね。今はこの状況を何とかする方が大事だし」
「ニナのその強さ、私尊敬するわ」
一瞬で立ち直ったニナに、レイナは心底賞賛を送る。
とてもではないが自分にはできない芸当だ。ただでさえここ最近は打ちのめされてばかりで落ち込まない時の方が少ないくらいなのだから。
そんな前向きなニナの姿に、少し元気をもらえたような気がするレイナだった。
「これでポンちゃんが先輩に伝言を伝えてくれれば大丈夫なわけよね。それまではどうするの?」
「取り敢えずこの屋敷で大人しくするしかないんじゃないかしら。私たちがこの邸に留まることが抑止力になるわけだし」
「そうね。それにしてもお腹減ったなぁ。あんな美味しそうな料理、食べられなかったから尚更よ」
レイナが空腹にお腹をさする。
馬車で邸に連れてこられる間、バルトリオン領を通過してきたが、今この屋敷はバルトリオン領のエスメイルという都市にある。
エスメイルはバルトリオン領で最大の都市で、交易が盛んなため多種多様な文化が入り乱れており、食の文化も種々混在している。
バルトリオン家の料理人はそれら各国各地の料理体系を集積し、研鑽を積み重ね独自の味へと昇華させたとして国内でよく知られていた。
王国の中でも屈指の料理人として名高いバルトリオン家の料理長。その料理が目の前に供され、しかし食べられない絶望。
フラウが怒りたくなる気持ちも分からないではない。
まして三人はここ数日、干し肉と硬いパンなど大した食事も出されずここまで連れてこられたのだ。
連行されてきたとは言え随分扱いがぞんざいだと感じていたが、恐らくこの為の布石でもあったのだろう。
ニナも同じくお腹に手を当てる。が、ない袖は触れないように、食べるものは何一つない。今の自分たちにできることは何も無いのだ。
「こんなことなら干し肉の一つでも残しておくんだったなぁ……」
「今言っても虚しいだけよ」
はぁと二人はため息をつく。
コンコン。
扉から聞こえてきたノックの音に、反射的に二人は身構える。フラウは相変わらず不貞腐れてベッドに丸まっていた。
コンコン。
もう一度ノックの音が鳴る。
もう夜も遅い。メイドも何か用がなければ朝まで来ないはずだ。とすると、先程のやりとりがバレたことで警告に来たのか。
何が出てきても対処できるよう体勢を整えながら、扉の前の人物に対して誰何する。
「誰ですか?」
「……執事のホーフェルと申します。お嬢様方にお願いがあり、夜更けに失礼かと存じましたが、お尋ねいたしました。宜しければ中に入れていただいてもよろしいでしょうか」
レイナとニナは顔を見合わせる。ニナはこくりと頷くと、レイナは扉へと向かって歩き出した。
襲い掛かられても対応できるよう身構えながら鍵を開ける。そこには三人をこの館に迎え入れ、レインの側に控えていた老人の姿があった。
「夜分遅く失礼いたします。お嬢様方のお部屋で恐縮の至りですが、中に入ってもよろしいでしょうか」
「はい。構いません」
机と椅子を準備すると、レイナとニナはそれぞれ腰掛け、執事にも着席を促す。
「失礼いたします。それと、これはほんの気持ちです。お受け取りください」
そう言って差し出したのは大きめのバスケット。
蓋を開けると中から出てきたのはサンドイッチと紅茶のポット、それに三客のカップだった。
「これは?」
レイナは疑いの言葉を執事に投げかける。。
食べ物を差し出されたところで、また薬物が入れられているに違いない。
どうやらあの手この手でどうにかして自分たちを薬で操りたいようだ。
レイナは執事に対して険のある視線を向ける。
レイナはこれでも一流の剣士だ。ラウルホーゼンの面々の中ではパッとしない印象だが、それでも一線級の冒険者でさえ油断できない存在感を放っている。
そんなレイナの視線に執事は一歩も引くことなく、真正面からじっと見据えた。
暫く無言の時が続き、やがてレイナが息を吐く。
「何かやましいことがある様子ではないですね。一体私たちに頼みたいこととは何ですか?」
「それは……」
執事は一瞬言い淀むが、しかし覚悟を決めた顔付きで口を開いた。
「お嬢様を、いえ、このバルトリオン家を救って頂きたい」
「それはどう言う……」
「面白そうね!」
机に額がつくほど深々と頭を下げる執事に、レイナとニナはただただ困惑を浮かべるしかなかった。
そんな状況に割って入ってきたのはフラウ。先程まで落ち込んでいたのが嘘のような立ち直り。サンドイッチの匂いでも嗅ぎつけてきたのだろうか。
フラウはバスケットの中からサンドイッチを一切れ取り出すと、それを口に放り込んだ。疑わしい自分が持ち込んだ食料をこともなげに食べたことに、執事も驚きの表情を見せる。
呆気に取られるレイナとニナを他所に、フラウはごくりと音を立ててサンドイッチを飲み込んだ。
「あー、美味しかった。で、執事さん。その話、詳しく聞かせなさいよ」
ニンマリと、悪巧みを考える子供のような笑みを浮かべた。
漆黒の翼の持ち主は、暗闇の中、空を優雅に飛翔する。
「俺はハヤブサ、音の速さで空をかける〜。YO 、YO 、YO YO。ニナのぺたんこ〜、嘆きの絶壁〜。体は子供〜、頭脳は大人〜、それが我がご主人様だYO!」
高らかに歌を奏でる、障害物も何もない暗い世界。
どれだけとばしてもぶつかるものは何もない。誰も俺を止められない。
そんな中に一条の閃光が伸びる。
「誰も俺を止められなーー」
一羽のカラスは、その閃光に飲み込まれて消え失せた。
一枚の黒い羽が、ひらひらと重力に引かれて舞い落ちる。
後に残ったのは静寂だけ。カラスの姿も、その閃光も、目撃したものは誰もいない。
さて新年一発目。
次週は飛ばして再来週に更新しようかと思います。
もし余裕があれば来週投稿で。(多分余裕ないのです。。)
もし誤字脱字、その他おかしな所あればあればご指摘ください。




