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クインテット。ナイツ 日常編  作者: 恵/.
P―繋がる。ナイツ
22/36

やっと全体の流れを掴んだはいいが、書くのが面倒という根本的問題が解決されていない。けれどとりあえず更新


  ◇



 ……狼の住まいであるこの店舗兼住宅。その店舗部分には、居酒屋『虹化粧』が入っている。この店は狼の親代わりである優が切り盛りしていて、しかもそれなりに繁盛している。つまり、店の混雑状況によっては、彼も優を手伝わなければならないのだ。

「枝豆でーす」

 テーブル席の男性二人組みにつまみを出し、伝票を置いて引っ込む狼。ついでに、先程空いた席の食器を盆に載せて、それを洗い場に持って行ってから布巾を取り出す。そしてさっきの席を素早く丁寧に拭いた上で椅子の位置を直し、更にそのまま別の客の注文を取りにいく。ようするに、忙しなく働いていたのだ。

「いらっしゃいませー」

 すると、今度は闇代が新たな客を席へと案内していた。何故彼女もここで働いているのかと言えば、普段世話になっているからそのお礼と、狼と一緒に働きたいからという二つの理由からだ。笑顔を振り撒く闇代は既に、この店の看板娘的な存在と化している。

「ほいっ、洗い物追加な」

「了解した」

 他のテーブルからも食器を回収した狼が、洗い場にいる一片にそれらを手渡す。彼はここで、皿洗い兼雑用係として働いている。家出同然の状態にも拘らず、ただで寝床と食事を提供してもらっていることに対する恩返しのつもりらしいが、破格過ぎるバイト代が支給されているので、傍から見るとそうは思えない。最早、お小遣いを渡す名目と化しているのだ。

「狼、そこのお客さんに揚げ出し豆腐を」

「へーい」

 カウンターの向こうで調理をしている優が、器に入った料理を狼に渡す。一応狼たちが注文をとって伝票も書いているのだが、優はそれを全部聞いていて、全テーブルの注文を把握し、即座に料理を(ちゃんと注文順に)作ってしまう。さすが、ほぼ一人で店を切り盛りするだけのことはある。っていうかバイト要らないだろ。

「いらっしゃいませー」

 すると、また店の戸が開いて、新たな客が入ってきた。

「あら、天野さん。お久しぶりですね」

(天野……?)

 聞き覚えのある名前に、狼は入り口に視線を向けた。

「ああ、そうかもね」

 その客は、初老の男性。狼は知らないが、彼はあかりの祖父だ。どうやらここの常連らしい。

「とりあえず、ビール」

「はーい」

 彼は一番近くのカウンター席に座ると、腕を組みながら酒を注文する。優は彼の前に、おしぼりと箸、開封したビール瓶とグラスを置いた。

「天野さんは確か、落花生でしたよね?」

「うん」

 更には、小皿に入った落花生も出される。突き出しとかいう奴である。

「……ふぅ。やっぱり、ここは落ち着くね」

 ビールを一口飲んで、溜息と共にそんな声を漏らす。そんな彼を見て、狼は少しずつ、その客のことを思い出していた。

(確か、最後に来たのは大分前だったよな……?)

 狼の記憶が正しければ、このお客が最後に来店したのは去年だったはずだ。それまでは度々来ていたのだが、最近ぱったり姿を見せなかった。それが急にやって来たのと、彼の名字が『天野』であることを考えると、あかりと何らかの関係があると勘繰ってしまう狼。果たして、それは正しいのだが。

「また何かお悩みですか?」

「まあね。ちょっと気が滅入ってるだけなんだけど」

 そして、またも溜息。グラスに注いだビールを煽って、話を続ける。

「また、孫が引き篭もっちゃってね。仮病まで使ってるんだけど、バレバレでさ。でも、突っ込むことも出来なくて……」

 酒が入ったからなのか、躊躇うことなく話していく。そしてその内容は、狼に確信を持たせていったのだった。

(この客が天野の祖父と見て、まず間違いないな)

 故に狼は仕事をしつつも、さりげなくそちらに気を向けることにした。早い話が盗み聞きである。

「高校に入ってからは、ちゃんと学校に行ってたのに……何か、学校であったのかな?」

「あら、確かお孫さんの学校って、うちの子たちと同じでしたよね? それなら、うちの子たちに相談なされば如何です?」

(ナイス!)

 なんか都合のいい受け答えに、内心ガッツポーズをする狼。けれど、男性は首を横に振る。

「いや、こればっかりは家庭の事情だからね……いくらお優さんの勧めでも、遠慮するしかないよ」

「そう、ですか……」

(ちっ……)

 まあ、そうなるよね、普通。そんな簡単に家庭事情を明かさないよ。……特に、天野家の秘密については、あまり公にしたくないだろうし。

「けどまあ、もしかしたらお願いするかもね」

 結局、彼はそれだけ言って、後は黙々と酒を飲んで帰ったのだった。

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