作者がこの手の話を学校でしたら、相当引かれました。
……で、男子トイレにて。
「それで、何なんだよ? その話しにくい内容ってのは」
狼は、個室の扉にもたれかかって、氷室に尋ねた。氷室は少し躊躇う素振りを見せたが、やがて重々しく口を開いた。
「天野は、学校では常に孤立していた。別に、天野自身に何か問題があったわけでもないんだけど……強いて言うなら、家庭環境かな」
「家庭環境?」
狼のオウム返しに、氷室は静かに頷いた。
「天野の両親は丁度、俺らの両親と同じ年代なんだ。それも、ここの出身」
「そりゃ、普通だろ?」
「普通さ。けど、『普通』じゃない」
狼が首を傾げている。彼も『普通』でない環境で育ったが、幸いにも特に不自由していないためか、それの何が問題なのか分かっていないものと思われる。
「天野の両親は……兄妹なんだよ」
氷室が、その事実を告げる。驚愕の、真実を。
……暫しの沈黙。しかしそれは、然程長くは続かない。
「……えっと、質問いいか?」
狼が、戸惑いながら口を開く。そして、こう続けた。
「それ、別に普通だろ?」
「……へ?」
氷室が、口をあんぐりと開けている。正しく、『開いた口が塞がらない』を実演しているかのようだった。それが不思議なのか、狼はもう一度言った。
「だから、近親婚なんて、割とよくあるだろ?」
狼が漏らした言葉は、そんな、カルチャーショックでは済まない衝撃を受けるものだった。
「……うるっち、それ、正気?」
「俺の口と耳が正しければ」
つまり、氷室の言葉を聞き間違えて、見当違いな応答をしていなければ、ということだろうか。それを確認したうえで、氷室は暫し悩みながらも、諭すようにこう言った。
「……あのさ、うるっち。近親婚って、普通はないと思うけど」
「そうなのか?」
どうやら、両者の間には埋めようのない溝があるらしい。それが、この状況を生み出しているのだろうか?
「じゃあ聞くけど、例えば、誰がしてる……?」
「エジプト王朝の王族」
「それ、『普通』に入らないから……」
まあ、外部に血が漏れないようにとか、血を薄めないようにという理由で、近親婚をする場合もあるが……。
「イザナミとイザナギ」
「それは神話の世界だから……」
各国の神話にはそういうものが多々あるけどね、確かに。
「とはいえ、さすがの俺も幼児愛は『普通』に入らないと思うけどな」
「うるっちが言うと説得力ないな……」
傍から見るとまんまロリコンだからな、狼は。そんなこと言うと闇代に怒られるけど。
「ネクロフィリアと殺人鬼とはお友達になりたくない」
「そこまで行かないと異常に見えないのか……」
理解があるにもほどがあるかと。そんな考えの持ち主、作者以外にそうはいない。というか作者の性癖まんまだし。
「そんなに珍しいものなのか……?」
氷室の反応があまりにも予想外だったのか、ちょっと不安になってきたっぽい狼。
「そんなの、全国に一組いるかいないかのレベル」
「マジか……!?」
氷室の返答に、今度は狼が驚愕した。かなりのショックを受けているようだ。
「異性兄弟の三割は結婚するっていうあの統計は嘘だったのか……!」
「誰が調べたのか気になる統計の存在が……」
というか、その統計こそ、狼が勘違いした原因では? 誰だよ、そんな統計出した奴?
「……まあいいか。んで、それが引き篭もりの原因なのかよ?」
「うん……多分」
なんか大分脱線したけど、要約するとそんな感じ。
「そうか……」
すると狼は一人で頷き、顎に手を当てて考え込む。そして三十秒ほど経ってから、氷室に向き直った。
「助かったよ、色々と。後はこっちでなんとかするから、安心してくれ」
「それは何よりだけど……なんか、当てでもあんの?」
氷室の問いかけに、狼は肩を竦めて答えた。
「うちは一体何屋だと思ってんだよ?」
「……ああ、なるほど。そんじゃ、まあ、頑張って」
その一言で、氷室は合点がいった様子。これ以上自分に出来ることはないと思ったのか、片手を上げてトイレから出て行った。
「さてと、今夜は忙しくなりそうだな」
対して狼は、溜息混じりにそう漏らしたのだった。




