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007.欲望の渦


――― 商業ギルド執務室


 まだ少女とも見えてしまう若い女性を見送った後、ギルド長であるモロスは、あの赤いガラス玉の付いたネックレスを自室に持ち込み、見惚れるように見つめていた。


「やはり素晴らしいものだ」


 私はそう独り言をつぶやく。


 人目を引くほど赤く、宝石のように正確にカットされたハート形のガラスの装飾部。 全部で八つはめ込まれたガラス玉はどれも濁りが無く、均等に透き通っていた。 それぞれが見る者を惹きつける魅力に満ちている。


 すべてが均一と言っても良いぐらい揃えられた形状。 高度な技術を持つ職人の手によるものに違いないと確信する。


 さらには銀の台座の部分もガラスをしっかりと支えるように加工してあり、繊細でありながら、その強度も申し分なくしっかりとしている。 一つ一つの台座が巧妙に組み合わされており、肌にあたる部分も滑らかにできており、その技術の高さが窺える。


 それらと一緒に出された三つの品もまた、美しい物だった。 だが、彼女はそれらを安い物だと言わんばかりに軽く扱っていたように感じた。 出所はどこだろうか? そんなことを考えながら、あのカナという少女のことを思い出す。


 それでも、プライドをかけた駆け引きのつもりで提示した価格を、一度は不満の意を向けられたことで慌てて上げた。 それでも目の前のこれの価値としてはまだ安いと言って良いだろう。


 だが彼女は、「お近づきの印」としてあっさりそれを了承した。


 彼女にとって、この程度の品はどうとでもなる。 そういうことなのだろう。 それを良しとする彼女に、畏怖の念すら感じる。 私は自身の直感の赴くままに、彼女を外まで見送った。


 思えば、商業ギルドの長に登り詰めて十数年。


 ついに私にもチャンスが巡ってきたのだ。


 莫大な富を得る好機。 彼女を上手く取り込み、彼女の持つ切り札ともなるであろう逸品を買い取り、王家に献上することができれば、生涯遊んで暮らせるだけの金と地位を得ることも叶うだろう。


 まずはこの首輪を公爵夫人にでも見せてみよう。 どのような値をつけるか、今から楽しみだ。


「楽しくなってきたじゃないか!」


 私は、約束された煌びやかな余生を送るという未来を思い描きながら、「がはは」と下卑た笑い声を室内に響かせた。



◆◇◆◇◆



 三人と一緒に訪ねたのは孤児院だった。


「私たち、ここで育ったんだよね。 いわゆる、捨て子って奴? 卒業を機に冒険者になったんだよ」


 ディナが三人ともここの出身であることを教えてくれた。 世知辛い世界だと思わず目頭を押さえた。


「でも、楽しく生活できていたのよ? 親と生活したところで、貧乏で働かされる家だってあるんだし、そんな境遇よりはマシなくらいなんだから」


 そう言って笑うディナ。 そう言う考えもあるのだろう。 そう思いながら、地球と同じ物差しで考えてはいけないことを改めて感じた。


「カレンさーん、いるー?」


 孤児院のドアを開け、そんな声をかけるディナ。


 院長と思われる質素な白い衣服に包まれた女性が顔を出す。 化粧っ気は無いが、二十歳前後と思われる綺麗な女性だ。 後で三十も後半だということを聞き驚いたぐらい若々しく見える。


 その背後から、大勢の子供たちが顔を出し、私たちを温かく出迎えてくれた。 子供たちは愛犬(レイ)にも抵抗は無いようで、おっかなびっくりしながらも、愛犬(レイ)の自慢の毛皮をもふっている子供たちもいたぐらいだ。


 ディナたちは毎月、一人につき金貨二枚を寄付しているらしい。 ならば私も、とバッグに手を突っ込みつつ保管ボックスから白金貨を取り出した。


「少ないですが、お役立て下さい」


「ちょ、ちょっと待って!」


 慌てたディナに制止された。 さらに、カレンに「さすがにそこまでは、困ってしまいます」とまで言われてしまう。


「カナ、そんな大金いきなり出さないで? 私たち、そんなつもりでカナを誘ったんじゃないんだから……」


 ディナも頬を掻きながらそう言っているが、手元には白金貨しかないし……困りながらも保管ボックスを確認すると、その中では勝手に両替ができるようだった。 私は控えめに、金貨十枚を取り出して改めてカレンに手渡した。


「心のこもった御寄付をありがとうございます。 カナ様に神のご加護がありますように……」


 カレンが胸の前で手を組み、深く祈りを捧げる。


 神様、か……。


 王国が原因とは言え、こんな世界に勝手に召喚された身としては、会えるものなら文句の一つでも言ってやりたい気分だった。


「神様ね。 思うところもあるし、私は文句の一つも言ってやりたい気分だわ」


 まだ祈りを続けるカレンを見ながら照れ隠しにそう漏らすと、ディナが笑った。


「何があったか知らないけれど、だったら今度、文句を言いに行くといいわよ」


 その言葉に、私は苦笑いを返すしかなかった。 


 孤児院の運営については僅かではあるが国からの支援もあるようで、他にも貴族からも定期的に寄付があると言う。 貴族からすると、貧しい孤児院に寄付をしたという事実が大事なようで、その金額はあまり多くないようだ。


 それでもこうやって孤児院から卒業したディナのような者も多く、暮らしは慎ましくも、支障がないほどにはなっているようだ。 それを聞いて益々白金貨を寄付したい気持ちを抑えるのに必死の、成金状態の私だった。


 その後、三人とは夜に食事をする約束をして別れ、部屋に戻った私。


「さすがにあれを幾つも出すのもなー」


 新たな商材として、高額で売れることが確定したあの首輪のことを考えながら独り言を言う。 一点ものとしての価値という物も大事だろう。 そう考えながら、また別のものを探そうと画面と睨めっこ。


「あと、レイも不便だろうし、色々買い揃えないと」


 それにこの宿生活をもっと快適にしなきゃだし……億万長者になって家でも買う? それもいいかも。 そんなことを考えながら、固いベッドに寝そべり画面をスクロールさせていく。


「わぅん(妹ちゃんが幸せなら、お姉ちゃんは後回しで良いのよ?)」


 体を擦り付けながらそんなことを言ってくる愛犬(レイ)の頭を撫でながら、私は再び Waooon Shopping の画面と睨めっこして、「うーん」と唸りながら、新たな商材探しを始めた。


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