006.さあ、交渉の時間だ
緊張を隠しながら、受付のカウンターまでたどり着いた私。
お姉さんは面倒そうに私を上から下へと見た後、隣にいる愛犬を見て顔を歪めていた。 その仕草に苛立ちを覚えるが、ぐっとこらえバッグに手を入れた。
商品の受け付け用と思われるトレーの上に、保管ボックスから取り出した、今朝購入したばかりの商品を置く。
安価な小さいガラス玉付きの首輪が赤青黄色と三つ。
そして、真っ赤な大きめのガラス玉がハート型にカットされたものが、シルバーの台座にはめ込まれ、ぐるりと一瞬するという豪華な仕様の首輪。 18インチ、約45cmのそれは、キラキラと輝きを放っている。
12,000ダルのそれは、当然のことながら50%OFFチケットを使用したが、残念ながら5,000ダルの制限があるため、8,000ダルとなった。 そのため、三つの首輪も購入し、残高はなんと2,104ダルとなっていた。
ここでそれなりの金額で売れなければ、しばらくはジリ貧生活となるだろう。
そんな私を、お姉さんは明らかに侮蔑の目で見ていた。
鼻で笑いながら商品を手に取った彼女だったが、次第に表情が焦りに変わる。
「お、お客様、お名前を頂いてもよろしいでしょうか?」
「カナです」
「カナ様、ですね。 少々お待ちくださいませ」
背を向けた彼女は、大急ぎで奥へと消えていった。
数分後、面倒そうに出てきた脂ギッシュで小太りな男を引き連れて。
ギルド長だというその男は、トレーの上の首輪を見ると、その表情を変えた後、笑顔を作り、手もみをしながら私を「奥へどうぞ」と案内するので、手早く四つの首輪を回収し、その後を追った。
広い室内。 高そうなソファに腰かけ、目の前のテーブルにある柔らかな布の上に、真っ赤なハートのガラス玉の物を含む四つの商品を並べる。 ギルド長は並々ならぬ熱意で、真っ赤なガラス玉のハートを凝視していた。
「まずは一つ。 これにどこまで出せますか?」
私は緊張を隠しながら首輪を指差した。
「いかほどで?」
ギルド長が問い返してきたが、そんなの私が分かるわけがないのだ。 安く買いたたかれるのはごめんだが、高すぎても逆に鼻で笑われてしまうだろう。
「あなたなら、どのぐらいの値を付けますか?」
にっこりと笑顔を浮かべる。 心臓の高鳴りを必死に堪えての虚勢だった。
「くぅん(大丈夫よ。お姉ちゃんがついているから)」
察した愛犬が、私の足にそっと頬を寄せてくれた。 愛犬から感じる熱に、心が落ち着いてくる。
「で、では……これでは……」
ギルド長が指を二本出す。
金貨二枚、つまり 20,000ダルということだろうか? ディナの反応を思い出す限り、安く買い叩かれている気がした。 でも、さすが商業ギルドの長。 しょせんはガラスだ。 安物だと分かってしまうのだろう。
私は引きつりそうになる頬を緩めながら、笑顔のまま首を傾げてみせる。 逆にギルド長は引きつった笑いを浮かべている。
「こちらすべてで四枚、これで如何でしょうか?」
今度は四本に指を増やしたギルド長。
金貨四枚。 継続的に取引するなら悪くないかもしれないし、まずは初回だ。 そのことを強調して次に繋げよう。
「今回は初回ですし、お近づきのしるしとして、それで良いでしょう」
ギルド長が安堵の表情を見せる。 少し安い気もしたが当面の資金は必要だ。 計40,000ダルならそれなりの数の商品を買うことができる。 次回はもっと数を売るか、高額で売れる物を見繕うことにしよう。 そう考えながら心を落ち着け右手を前に出す。
「今回だけですよ」
その言葉にホッとした様子のギルド長は、私の手を両手で握った。 しっとりした手に不快感を感じながら、手を引っ込める。
「まだ商品はありますが、今日のところはこの辺で。 次回はもっと良い取引をしましょう」
「ほ、本当ですか! ぜひ、お願いします!」
そのタイミングで、室内にいた小綺麗な女性が退室する。
「今、用意させますので」
その言葉通り、テーブルの上にあったフルーティな飲み物をチマチマと飲みながら待つこと数分。 先ほどの女性が戻ってきた。
その女性の手にはトレイ。 そしてその上には、四枚の金貨……と同じデザインの硬貨が載っているが、その色は私が知らない色をしていた。 「観察」スキルを通して視た私はギョッとしたが、すぐに表情を取り繕った。
「確認を」
そう言われ、トレイから四枚の白い貨幣を受け取った。 白金貨四枚。 400万ダル……どうやら桁が二つ違っていたようだ。
私は震える手で白金貨をバッグへ入れるふりをして、保管ボックスへ収納した。 ギルド長はその光景を注意深く凝視している。
「中々素敵なバッグ、ですな」
「……これは売り物ではありませんので……」
そう釘を刺すと、女性からはさらに金ぴかのカードを手渡された。
「カナ様、こちらがギルド証になります。 次回からこのカードを提出しますと、ギルド長、もしくは私、レミアが対応いたします」
そう言われた後、ギルド長直々の案内でロビーへと戻る。
間髪入れずに集まってきたスタッフ一同の仰々しい見送りを受け、私たちはギルドの外へ出た。
私を待っていたであろう三人が、笑顔で寄ってくるが、その後ろで丁寧に頭を下げるギルド長たちの姿に足を止め、頬を引きつらせていた。
宿に戻りながら、三人にギルド内での様子を話す。
ディナは、私が様子見で低品質の商品を持ってきたのだろうと考えていて、次回はもっと高品質の商品を出してくれるという思惑なのでは?と言っていた。
商業ギルドは白金貨が山のように積まれての取引だってあると聞いたことがあるらしいし、白金貨が数枚の取引であれほど丁寧な見送りは、はっきり言って異常だと感じたようだ。
「ちなみに、これで400万?」
ディナはそう言いながら、自身の首につけている赤いガラス玉付きの首輪を指で示す。
「ああ、違う違う。 これの、赤い奴かな?」
私はそう言いながら、50%OFFクーポンを使って、今度は青いガラス玉のそれを購入しディナに手渡した。
「こ、これが……」
そう言いながら固まっているディナ。 今度何かのお礼にプレゼントしようかな? 懐も温かくなったからか、そんなことを考えてしまう私。 震える手で戻ってきたそれを保管ボックスに戻すと、宿までの道を足取り軽く戻って行った。
何はともあれ、一気に4,000,000ダルを手に入れた。
まずはこれを使って売れる商品を、さらに今の環境を改善させたいとも思っていた。 宿暮らしも悪くは無いけど、色々な場面で不便を感じるだろうことも予想された。
帰り道、ティナたちから寄り道をしたいと相談された。
今日は依頼をしない日だと言うが、元々その用事をこなす予定だったとか。 このまま宿に戻るのもつまらないと判断した私は、三人に同行することを決めた。
たどり着いた先は、街はずれの孤児院だった。
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