005.必需品を確保せよ
夕食を終えて部屋に戻ると、ベッドに腰かけながら Waooon Shopping の画面と睨めっこ。 唸りながら商品リストを見つめていた。
まずは最優先事項である愛犬の食事を探す。
「ごめんねレイ、美味しくなかったよね?」
「くーん(いいのよ妹ちゃん)」
不味そうに葉を食べていた愛犬に謝っておく。
まずは主食だ。 ビワオンテのチキン&ライス、三キログラムで2,500ダル。 ラム&ライスは二千八百ダルか。 愛犬の健康を守る為の必要経費だ。 迷わず二種類を購入。 ジャーキーなども余裕を見て買う予定だし、これで10日は持つはずだ。
ついでに飲み水も確保しておく。 海外では現地の水で腹を壊すと聞くし大事なことだ。
幸いなことに犬用の水は売っておらず、普通のミネラルウォーターが見つかった。 アルプス山脈の天然水二リットル×9本入り、お値段1,500ダル。 その注文を確定させようとしたその時、画面の隅で通知が点滅していることに気づいた。
『異世界進出特典、50%OFFチケット×10枚プレゼント』
今回は10枚なので個別に使えるようだ。 こうして使い切れずにクーポンのループとなるのはいつものことだろうと感じにんまりする。 日本にいた頃はそれほど嬉しくなかったクーポンも、収入が限られるこの世界では重要なことだ。
私は苦笑しつつ、水3箱をクーポン適用で2,250ダルで購入した。 もう少し早く通知が来れば、ビワオンテも半額になったのにと少し悔やむ。 とりあえず水とフードがあれば、一週間はなんとかなるだろう。
「そうだ、忘れないうちに……」
ディナから助言されていた対策にと手頃なスリングバッグを探す。 抱っこひも付きのスタンダードタイプというものを見つけ、おしゃれな桃色をチョイス。 これも半額チケットを使ってゲットする。
3,500ダルが1,750ダル。 収納スキル持ちだとバレないよう、カモフラージュするため、この世界でも定番の対策らしい。 とは言え、魔道具でもある収納バッグについても高価なため、これらの盗難や強奪にも気を付けなくてはということらしい。
これで残高は11,104ダル。 金策も本格的に考えなければならない。 あの首輪でしばらくは稼げるだろうが、いずれ需要は尽きるだろう。 新たな商材を探そうと画面を眺めていると、愛犬が鼻先で私を突いた。
「くぅーん?(もうお眠の時間じゃない? そろそろおねんねしましょ?)」
愛犬はそう言って、器用に布団を咥えて私の膝にかけてくれる。
「レイ、もう少しこれを見てるから。 先に寝ていていいよ?」
「わん(だめよ、お肌に悪いわ!)」
どうやらお怒りらしい。 私は観念して画面を閉じ、ベッドにダイブした。 想像以上に硬いマットにデコを打ち付け、「ぐのぉ」と呻き声が漏れる。
「くーぅん(馬鹿ね。 ちゃんと寝ないとだめよ?)」
痛みを我慢して仰向けになると、愛犬が苦言を呈しながらテシテシとおでこを撫でてくれた。
「レイ、ありがとう。 レイもこっちにおいで。 こんな世界だし、今夜は一緒に寝よう?」
そう言いながらも、私の意識は疲れからすぐに遠のいていく。
「わぅ(甘えん坊さんね)」
最後にそんな声を聞いた気がしながら、暖かい毛皮に包まれた私は、深い眠りに落ちた。
翌朝、けたたましいノックの音で目が覚めた。
寝ぼけ眼のまま上着を羽織り、重い腰を上げてドアを開けると、そこにはすでに身支度を整えたディナが立っていた。
「おはようカナ! 朝食、一緒にとりましょう?」
誘われるまま、一階の食堂へと移動する。 席を確保してくれていたラフリコ、クリスの二人とも合流した。
食堂には愛犬の食事は不要であることを告げ、私は持参したドッグフードを借りた大皿に盛る。 愛犬は機嫌よく、カリカリと小気味よい音を立てて食べ始めた。
その様子を、三人が興味津々で見つめている。
「それ、美味しいやつか?」
身を乗り出すラフリコに、私は苦笑いで釘を刺した。
「食べない方がいいよ。 レイ専用だから、人間が食べたらお腹を壊すかもしれないからね」
「へー、そんなものか」
ラフリコは納得したようにうなずいているが、それでも美味そうに食べる愛犬から目が離せない様子だった。
遅れて運ばれてきた朝食は、焼きたてのパンと薄いスープ、それに葉野菜のサラダだった。 正直、肉気が恋しい。 別注文できるという「焼肉 1,000ダル」の文字に視線が吸い寄せられる。
金銭的な余裕ができたら、夜はこういうメニューに変えてもらおうと心に決めた。 ふと、半分ほど食べた愛犬が、顔を上げて私を見る。
「くーん(妹ちゃん、お水が欲しいわ)」
「ごめん、忘れていたね」
私はスリングバッグから取り出したふりをして、取り出したペットボトルに入った水を、愛犬の器に注ぐ。
そう言えば専用のフードボウルも買ってやらなきゃね。そう考えながら、味変を楽しむように食事を再開した愛犬を眺める。 そんな私の手元を三人が凝視しているのも気付かずに。
その後、お腹を満たした私は三人に金策について相談を持ちかけた。
「それなら、商業ギルドで交渉するといいわ。 貴族様にも伝手があるでしょうし、これならきっと売れるわよ!」
ディナが自分の首元に輝く、あの赤いガラス玉のついた首輪を引くようにして見せてそう言った。
「後で案内してあげるわ!」
そんな心強いディナの言葉に甘え、私は三人が食事を終えるのを待って宿を出た。
外に出ると、愛犬には好奇の視線が集まったが、構わずゆっくりと歩みを進める。 やがて、ひと際大きな建物の前に到着した。 商業ギルドだというその場所は、金ぴかの装飾が少々うるさい見た目をしていた。
「私たちは外で待っているよ」
ディナがそう言い、それに合わせラフリコとクリスの二人も苦笑いして足を止めていた。
「ここは金持ちばかりで、どうも居心地が悪くてね」
ラフリコの言葉に納得した私は、意を決して愛犬と一緒に目の前の重厚な扉を開け、建物の中へと足を踏み入れた。
広いロビーには、貴族か豪商かといった身綺麗な大人たちが大勢いた。 一斉に注がれる好奇の視線に思わず身を縮めそうになる。 受付では、お姉さんが怪訝そうな顔でこちらを伺っていた。
私は勇気を振り絞り、レイと共に受付と思われるそのお姉さんがいるカウンターへ向かって歩き出した。
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