003.Waooon Shopping
改めて自己紹介。
大剣を背負った青年の名はラフリコ。 表面に無数の傷がついた銀色の胸当てに、丈夫そうな茶色のズボンを履いている。 短く切り揃えられた黒髪に、射抜くような鋭い瞳が特徴的だ。
偵察を得意とする少年はクリス。 見た目は中学生ぐらいに見えたが、これでも十八才だと言われ頭を下げる。 動きを邪魔しない緑色のベストと短パン姿で、腰には二振りの鋭いナイフを下げている。
そして、火炎魔法を操るという後衛職の女性、ディナ。 裾が少し擦り切れた赤いフード付きのローブを纏っている。 金の刺繍が施されたその装束は、まさにイメージどおりの魔法使いとしての格を感じさせた。
その彼女が握る木製の杖の先には、淡く発光する魔石が埋め込まれていて、それもまた良い雰囲気を出していた。
聞けば、三人はまだD級という駆け出しから少し慣れた頃と言っていた。 ディナもまだ新人からようやく一人立ちできた程度だと言う。 見た目は出来る魔法使いに見えたのに。
先ほどの盗賊も、戦えば勝てたかどうか怪しいのだと教えてくれた。 それを聞き、改めて深くお礼を告げる。 出て来てくれなきゃ、いくら愛犬が頑張ってくれたとしても、どうなるかわからなかっただろう。
私については、カナとだけ名を告げ、はるか遠く、ド田舎の村から出てきたことをやんわりと説明した。 だから世間知らずですよと。
そんな奥歯に何か挟まったような話を創作した私に、三人は何かを察したのか優しい視線を向けてくれた。 その後、三人の馴染みの宿を紹介してくれることになり、町へ戻るため一時的に三人と同行することになった。
だが、正直にお金があまりないことを伝えると、三人は困惑した表情を浮かべた。 何か売れるものがあれば、商業ギルド、はたまた冒険者ギルドでも買い取りをしていることを教えてくれた。
私は手荷物を確認する。
先ほどパーカーのポケットに突っ込んだ中身の寂しい財布、ハンカチ、そして電源の入らないスマホ。 そして、愛犬が粗相した時用のバッグ(ビニール袋in)。 城の門前で拾ったあのコインも財布の中にあるが、とてもじゃないが売り物になりそうにはなかった。
そして私は、思い出したように謎スキル、 Waooon Shopping を初めて発動させた。
目の前に現れたのは見慣れた某通販サイト風の画面。 背景に白い犬が透けて見えたような気がした。 だが、トップページの最推し商品はなぜかドッグフードだった。 全体的な商品数も極端に少ないように思える。
画面の右上には「10,454ダル」という数字が表示されていた。 どういうこと?と首を傾げながら考える。 そして、それが自分の財布に入っていた金額と一致することに気付いた。 試しに雑貨カテゴリを開くと、数点の商品が並んでいる。
その中にある、ワンちゃん用の首輪のカテゴリーに目が留まった。 それを開くとバラエティー豊かなチャーム付きのものが多数表示されている。 目を引いたのは、宝石のようなガラス玉が多数ついた、大型犬用のチェーンネックレス。
首回りは50cmあるし、これなら人間でもいけるかな? 日本で身に着けるならかなりダサいデザインであるけれど、ここは異世界だ。 ワンチャンいけるかもしれない。 ワンちゃんだけに?
価格は1200ダル。 さらに、画面の端には通知マークが見えたのでタップしてみる。 「初回50%OFFクーポン 10点まで」というメッセージが表示された。
私は首輪を適当に10個選択し、購入画面へと進んだ。 計12,000ダルが半額で6,000ダルになる計算だ。 初めての購入にカートを確認する私の指先が震える。 確定ボタンを押せば、所持金の半分が消えてしまうのだ。
見知ったあのサイトなら毎日のように配られるクーポンだが、このスキルでは同じように配られるかは不明。 私は慎重を期し、個数を五つに減らして購入を決めた。 50%OFFにより3,000ダルとなった。
画面上の「保管ボックス」という場所に、購入した品が保存される。 その中の一つを指先で選択すると、目の前に選択した実物が現れた。 私は慌ててそれを両手でキャッチ。
「お前、収納持ちか?」
ラフリコが驚いた声を上げたが、びっくりして心臓バクバクな私には返事をする余裕もなかった。 赤いガラス玉がおしゃれなその首輪をディナの前に差し出すと、彼女は目を輝かせて食いついた。
「それ、買うわ!」
「お礼も兼ねてお安くしますが、どれぐらいなら?」
私はこの世界の価値が分からず、探るように問いかけた。
「あっ、他にもありますよ?」
彼女が吟味をしている中、私は追加で緑と青、二つの首輪を取り出した。 彼女が吟味している間、何ともなしに「保管ボックス」について考察する。 手にしたスマホと財布を保管できないかと念じてみる。
手に握っていたそれらは瞬時に消え、保管ボックスの画面上のリストに表示された。 文句なしの便利機能だ。 心の中で小躍りした。 さらにバッグも保管ボックスにしまい込んだ。
「うーん、三つ買うから50,000ダル。 ……は、流石に安いかしら?」
ディナが不安そうにこちらを伺う。 私は内心の驚愕を押し殺し、あえて難しい表情を作った。
「助けてもらった恩もありますし、それで手を打ちましょう!」
私はディナから、歪な形をした500円玉程度の大きさの金貨を5枚受け取った。
「後からやっぱやめたってのは、ナシだからね」
ディナは声を弾ませながらそう言って、さっそく赤い首輪を自らの首に着けてみた。 意外と違和感ないかも。 そんなことを考えながら頷いた。 愛犬が「くーん(犬用よ?)」と悲しげに鳴いたので、「黙ってなさい」という意思を込めた目線を送っておいた。
「どう?」
彼女が仲間の二人に見せびらかすと「おお」と感嘆の声が上がる。 私は画面上の数字が「57,454ダル」に跳ね上がったのを確認し「おお」と喜びながら、頬が緩みそうになるのを、必死で堪えた。
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