002.聖女だった件
少しだけお腹を満たした私。
人の目を避けるように、路地裏を通り人通りの少ない街外れまで移動した私は、周囲に誰もいないことを確認してしゃがみ込む。 そして、意を決した私は、物語の定番であるあの言葉を口にする。
「ステータス……」
目の前に、薄っすらと透けた青い画面が浮かび上がったことにびくりとする。 良かった。 このワードを口にして、何もなかった時の空しさを感じることがなくて。
――――――
武田加奈:放浪者 天職:保護者
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ここまでは先ほどの魔導具? それで見た。 その中の「保護者」という文字を注視すると、さらに詳細な板が目の前に表示された。
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観察:すべてを見通す眼力。
飼主特権:保護下にある家族の力は飼主の力。
Waooon Shopping:毎日がお安く。
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私は一つ一つの項目にツッコミを入れる。
「観察? これはいわゆる鑑定スキルじゃない? すっご!」
便利だし、この世界を知ることは大事なことだとうなづいた。 恐らくこの画面が見えているだろう愛犬が、首を傾げながらもステータスの画面に視線を向けている。
「飼主特権って……保護下にある家族の力は飼主の力? 何この説明。 お前の物も俺の物的な?」
某ガキ大将を思い浮かべる私。 それにしても家族って、この場合は愛犬の力ってことかな? それとも、この世界で新しい家族を……いやいや、飼主の力って書いてあるし、そう言う事じゃないはずだ。 うんうん。
「Waooon Shopping……名前からして謎過ぎる。 某通販サイトのパクリ? でも日本の商品を買えるなら、かなりのチートなのかも!」
日本の物を売りさばいて無双する漫画は読んだことがある。 それなら異世界も楽勝?
そんなスキルの内容に驚きつつも、私は「観察」スキルを愛犬に向けてみた。
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レイ:放浪犬 天賦:聖女 飼主:武田加奈
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おやおや……数分悩む。 ……おかしいな? これは、いわゆる巻き込まれ召喚というやつか? 愛犬が聖女であれば、私はおまけ? わんこのおまけか……そんな考えがぐるぐると脳内を爆走している。
「まあ、考えたとて何も変わらんだろう? まずはスキルの内容確認しなくちゃ。 頼れるものはスキルだけだしね!」
そう思って拳を強く握る。 能力の把握は大事なことだ。 聖女の所持スキル一覧も、詳細が表示されるようだ。
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治癒:どんな傷もチョチョイチョイ。
肉体改造:聖なる力に不可能は無い。
念話:飼主とは以心伝心、可能性は無限大。
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「最初のスキルは治癒か……聖女らしくていいけど、説明が雑すぎない? チョチョイチョイって……大けがしても問題ないレベル? 一回試してみたいけど……痛いのは嫌だな。 その内チャンスはあるだろう」
そう思いながらも汗ばむ両手を見つめる。
「次は、肉体改造って……。 うーん、聖なる力だもんね! 愛犬はいわゆる脳筋聖女、ということで……」
そう思って苦笑いしながら愛犬を見ると、レイからは冷たい視線が向けられているのに気付く。
「レイ? どったの?」
「わん(妹ちゃん、今、変なこと考えてない?)
「変な事って……私がそんなこと考えたりしないよ?」
愛犬は呆れたように「わふ」と鳴いた。
「さ、さて、最後は念話? やっぱりだけど、愛犬から聞こえたあの声は、このスキルの影響だったのね。 でもこの説明のフレーズ、どこかで聞いたような……」
その既視感のある説明に、深掘りすると火傷しそうなので、思考を止めて画面を閉じた。 内容も確認したし、次は検証かな? そう覆って欠伸を噛み殺し、伸びをしたその直後、背後からいくつもの足音と共に、下卑た笑い声が聞こえてきた。
気がつくと、私は五人の厳つい男たちに囲まれていた。 汚れた革の鎧を着込み、錆びた剣や鉄の棒を手にした、いかにもな盗賊と思われる男たちだ。
「おい女、見慣れねえ格好だが、お上りさんか? 俺たち、ちょーっとばかり金に困っててな。 少しばかり恵んでくれねーかなぁ? まっ、金を持ってなきゃ、その体で払ってもらってもいいぜ?」
先頭の男が、欠けた歯を見せて笑う。 その表情に寒気がした。 他の男たちも同様にニヤニヤとした嫌悪感のある顔を見せていた。
「グルルルルルルッ! ワンッ!(妹ちゃんにお下品な言葉、投げかけないで! 教育に悪いわ!)」
レイが鋭く牙を剥き、私の前に立つ。 だが多勢に無勢のこの状況。 私が恐怖で身を竦めた、その時だった。
「そこまでだ!」
凛とした声とともに、一人の男が横から飛び出してきた。 彼は使い込まれた銀の胸当てに、丈夫な茶色のズボンを履いた青年だった。 短く刈り込まれた黒髪に、意志の強そうな鋭い瞳。 背中には大きな剣を背負っている。
続いて、身軽そうな少年が男の隣に並んだ。 十五歳前後だろうか? 緑色のベストに短パン、両手には逆手に持った鋭いナイフが握られている。
さらに後方から、ゆったりとした赤いフード付きのローブを纏った女性が歩み寄る。 ローブの裾には金の刺繍が施され、手には淡く光る石のついた木製の杖を握っていた。 フードの隙間から、整った鼻筋と真剣な眼差しが見え、若い女性なのだと思った。
「ちっ、冒険者か! 逃げるぞ!」
しばらく睨み合いをした後、三人の放つ圧倒的な威圧感に、盗賊と思われる男たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。 張り詰めていた糸が切れ、私はその場にへなへなと座り込んだ。
その後も緊張感のある空気が続く。 そして、盗賊たちが見えなくなった後、ドカリと地面に座り込んだのは大きな剣を背負った青年だった。
「ふー、助かった……」
他の二人もホッと胸をなでおろしているようだ。
「ほんと。 怖かったー」
「僕も、漏らすかと思ったよ……」
同じようにしゃがみ込む二人。
もしかして、危なかった? そう感じた私は、それでも出て来てくれたことに感謝しながら、ラフリコ、クリス、ディナと名乗った三人にお礼を言って、深く頭を下げた。
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