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217話 女神の加護を持つ者たち


 魔神の角の上に膨れ上がった巨大な赤い光の玉。


 その赤い玉は、いよいよ魔神の体と同じくらいの巨大な玉に成長した。


 その玉からはこの世の物とは思えないほどの圧倒的な力が感じられる。


 まだ、魔神は、力を溜めようとしている。


 その巨大な玉が満ちたとき、天からすべてを滅ぼす凄まじい破壊の力が、禍々しい炎が、この世の終わりを告げるかのような災厄――アポカリプスが、王都全体に降りかかってくるのだ。



 そのとき――エミリーが静かに口を開いた。


「トール……女神の加護の切り札を切るわ……。そう……私の命と引き換えに、あの終末の炎――アポカリプスを防いでみせるわ。トール、そして……ミレア、あなたたちに……私の命を預けるわ」

 

「え、エミリー!?」


 俺はエミリーの顔をまじまじと見つめる。


 エミリーと目が合う。エミリーは晴れ晴れとした表情で微笑んでいた。


 そして――ミーアとアリシアさんも、口を開く。


「トール。ミーアもトールとミレアに命を預けるにゃ。最初から決めていたことにゃ」

「トール殿……私も命を預けるぞ」


 ミーアとアリシアさんも、微笑みながらそう言う。


 一体どういうことなのか分からないが……彼女たちの覚悟と託す想いがひしひしと伝わってくる。


「ミーア……。アリシアさん……」


「トール。魔神は強すぎるにゃ。今のままでは勝てないにゃ。ミーアの力を使うにゃ」


 ミーアの体から強い魔力の気配を感じる。


「トール…………いくにゃ! ――ユニークスキル『女神の武器』最終奥義――命心神剣! にゃにゃにゃあああああああああ――!!」


 ミーアは叫ぶ。ミーアの体を眩く光が包み込む。


 そして……ミーアの体は透き通って行き……光の霧となっていく。


 ――トール ミーアの命は あずけたにゃ 後はたのむにゃ――


 そして……ミーアは霧のように消えて行った。


 コロン


 消えて行くミーアの光の霧の中から、一本の剣が落ちる。


「ミーアああああああああああーー!!」

 

 涙が溢れ出してくる。


 俺は、その剣を、手に取り、霞む目で見つめる。



―――鑑定―――

神剣ミーア(神級武器:剣)

・攻撃力(AR)70

・装備時、全能力値+1983

・クリティカル効果(特大)

・猫戦士ミーアの命と引き換えに生まれた剣

・ミーアのレベルが引き継がれている

―――――――― 


「ミーア…………確かに……その命あずかった……ありがとう……ミーア……」


「トール。心配しないで。戦いが終わったら、ミレアがミーアを絶対に生き返らせるから」


 ミレアが微笑みながら言う。


「そうだな……ミレア、頼むぞ……」



 アリシアさんと目が合う。


「トール殿。次は私の番だな。私の力も使ってくれ」


 アリシアさんの体から強い魔力が溢れている。


「トール…………行くぞ! ――ユニークスキル『女神の騎士』最終奥義――命心神鎧! はぁああああああああああ――!!」


 アリシアさんは叫ぶ。アリシアさんの体を眩く光が包み込む。


 そして……アリシアの体は透き通って行き……光の霧となっていく。


 ――トール殿 私の命は あずけたぞ 後をたのむぞ――


 そして……アリシアさんは霧のように消えて行った。


 コロン


 消えて行くアリシアさんの光の霧の中から、美しい鎧が落ちる。



―――鑑定―――

神鎧アリシア(神級防具:鎧)

・防御力(DR)70

・装備時、全能力値+1982

・物理耐性(特大)

・魔法耐性(特大)

・聖騎士アリシアの命と引き換えに生まれた鎧

・アリシアのレベルが引き継がれている

―――――――― 


「アリシアさん……確かに……その命あずかりました……ありがとう……アリシアさん……」


 俺は『神剣ミーア』を右手に持ち、『神鎧アリシア』に身を包む。


 凄まじい力が湧いてくる。


 二人の命の剣と鎧が、俺の実質レベルを4000ほど引き上げる。


 俺の実質レベルはこれで、8300ほどになった。


 まだ魔神のレベルには及ばないが、魔神とのレベル差を一気にうめたのだ。


 希望が湧いてくる。


 ――そのときだった。


 パリィイイイイイイ――ン!


 魔神を取り囲む「宝玉結界」の壊れた音が辺りに響き渡った。


「――なっ!」

「「あっ!」」


 ついに宝玉結界が壊れれてしまったか!


 もう魔神を遮るものは何も無い。


 魔神はまだ力を溜めている。



 そのとき――後ろの城壁の方から、ズシンズシンと大地を響かせるような音が聞こえて来た。


 振り返る。


 壊された北門に、巨大なゴーレムが現れた。


「「シャンテ様ー! オリハルコンゴーレムをお持ちしましたー!」」


 3人の裁縫師たちが、苦しそうに、その巨大なゴーレムを操って、持ってきたのだ。


「待ってましたよぉー! 皆さーん、ありがとうございますぅー! 後は私に任せるのですー!」


 シャンテが声を上げ、裁縫師たちから、オリハルコンゴーレムの操作を引き継ぐ。


「トールさん。魔神の動きを封じるのは私の役目ですよぉー。このゴーレムを最高の状態で動かしてみせるのですぅー」


 シャンテの体から強い魔力が揺らいでいる。


「トールさーん。…………私も頑張るのですー! ――ユニークスキル『女神の裁縫』最終奥義――神糸変化! はうぅうううううう――!!」


 シャンテは叫ぶ。シャンテの体を眩く光が包み込む。


 そして……シャンテの体は透き通って行き……光の霧となっていく。


 ――トールさーん 私の命も あずけましたよぅー 後をたのむのですぅー――


 そして……シャンテは霧のように消えて行った。


 シュルシュルシュル


 消えて行くシャンテの光の霧の中から、煌めく虹のような糸が宙に舞う。


 その虹のように輝く糸は、オリハルコンゴーレムに絡みつく。そして、その巨大なオリハルコンゴーレムは、その美しい糸に操られ、踊るように軽々と動き出し、魔神の前に立ちはだかった。


「シャンテ……確かに、お前の命も預かった……ありがとう……シャンテ……」



 そして――ついに……魔神の赤い光の玉が満ちた。


 天に昇る巨大な赤い玉。


 そして――天が真っ赤に染まる。まるでこの世の終わりを告げるかのように。


 ゴゴゴゴゴゴゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――


 天が吹き荒れる音が聞こえてくる。


 王都が、草原が、大陸までも揺るがすような振動が空から伝わってくる――



「トール。魔神の魔力を抑えるのはわらわの役目なのじゃ。魔力は攻撃にも防御にも通じる。その魔神の力の源を抑え込むのじゃ」


 イナリの体から強い魔力が揺らいでいる。


「わらわも行くのじゃー! ――ユニークスキル『女神の火炎』最終奥義――フレアフォックス! うにゃあああああああああ――!!」


 イナリは叫ぶ。イナリの体を眩く光が包み込む。


 そして……イナリの体は透き通って行き……光の霧となっていく。


 ――トール ミレア わらわの命も あずけたのじゃ 後をたのむのじゃ 皆を……たのむ……――


 そして……イナリは霧のように消えて行った。


 ビュゥウウウウウウウウウウウウウ


 消えて行くイナリの光の霧の中から、巨大な狐の姿をした炎が浮かび上がる。


 その炎の狐は、魔神の魔力を阻害する灼熱の炎となり、魔神に絡みつく。


「イナリ……ありがとう……イナリの命も預かったぞ……」


「大丈夫だよ……戦いが終わったら、みんなミレアが生き返らせるからね!」


 力強く言うミレア。



 リンの体から強い魔力が揺らいでいる。


「ミレアを守るのは私の役割だよ。ミレアは世界樹の光(ユグドラシル)を継ぐ者。ミレアは世界樹なんだよ。聖女はいつも世界樹を育み、守り続けてきたんだよ。私は聖女。ミレアを守るのは私なんだよ」


 リンは微笑みながら言う。


「お兄ちゃん、ミレア。後は任せるね。――ユニークスキル『女神の栽培』最終奥義――聖女の誓い! はぁあああああああ――!!」


 リンは叫び、その体は、眩く光に包まれる。


 ――お兄ちゃん ミレア 私の命も あずけたよ みんなを頼むね――


 そして……リンは霧のように消えて行った。


 シュルシュルシュル サワサワサワ


 消えて行くリンの光の霧の中から、輝く緑色の枝葉が現れてくる。


 その枝葉は、まるで世界樹の枝葉のように瑞々しく新緑に輝き、ミレアを強く優しく包み込む結界となった。


「リンーー! ……ありがとう……絶対にリンとみんなを生き返らせるからね!」


 ミレアは叫ぶ。



「トールさん……」


 城壁の上から、俺を呼ぶ声がした。

 振り返る。

 城壁の上に一人の美しい女性が立っていた。

 ルーナさんだ!


「トールさん、これから……魔神の弱点を見抜きます。魔神の心臓の位置を示しますわ……」


 ルーナさんの体から強い魔力が溢れている。


「トールさん………参りますわ! ――ユニークスキル『女神の占い』奥義――鏡花水月! はぁああああああああああ――!!」


 ルーナさんは叫ぶ。ルーナさんの体は眩しい光に包まれる。


 そして……ルーナさんの体は透き通って行き……光の霧となっていく。


 ――トールさん 私の命も 預けましたわ 魔神を 倒してください――


 そして……ルーナさんは霧のように消えて行った。


 消えて行くルーナさんの光の霧の中から、月のように輝く美しい鏡が出現する。


 その鏡から一筋の光が魔神に向かって走る。


 魔神の体を貫く一筋の光。月光。


 徐々に魔神の体のある一点が輝きだす。その輝きは魔神の弱点――心臓の位置をずっと指し示し続けている。


 鏡花水月――真実を見抜く鏡。隠された秘密を暴く力。敵の弱点を指し示し続ける力。


「ルーナさん……ありがとう……必ず期待に応えます……」


  

 ついに――真っ赤に染まった天から、災厄の炎、破壊の力――アポカリプスが落ちてきた。


 王都の空から、深紅の炎が迫って来た。


 ゴゴゴゴゴゴゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――


「「「きゃあああーー!!」」」

「「「うわあああ――!!」」」


 王都中から、人々の恐怖した声がここまで聞こえて来る――



 エミリーの体は、強い魔力で揺らいでいた。


「トール! ミレア! 私も行くわ! 絶対に防ぐから! ――ユニークスキル『女神の結界』最終奥義――ミルレリアヴェール! はぁああああああああああ――!!」


 エミリーの体が眩しく輝く。


 ――トール 魔神を倒して ミレア みんなを頼むわね――


 霧となって消えていくエミリー


 エミリーが切った女神の加護の切り札――ミルレリアヴェール


 エミリーの命と引き換えに……王都を包み込む巨大な光の結界が出現する!


 煌々と輝く光の結界。まるでエミリーの魂に女神が乗り移ったかのように、強く、優しく、輝く結界!


 ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオ――

 ゴゴゴゴゴゴゴォオオオオオオオオオオオオオ――


 災厄の炎アポカリプスと、王都を守るミルレリアヴェールが、激しく衝突する。


 王都が、草原が、大陸が激しく揺れる。


 揺れる。


 揺れる――


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