4話 隣席の女子の事情と入部希望(俺)
私の名前は青山理沙。青山銀行の頭取の娘で、生粋のお嬢様、のように思えるかな?
みんなは信じないかもしれないけど、私は転生、というものをしたらしいの。前世はしがないOLをしながら大好きな野球観戦とアニメとかラノベの鑑賞、ゲームばかりしていた。
まあ俗に言うオタクね。ほんと、陰キャだったわ、私。
それが今では自分が頼めばなんでも手に入る、そんな夢のようなお嬢様になっちゃった。世の中何があるか分からないよね。
でも、しばらくして気付いた。なんとなく察してたけど、5歳の頃に見かけた1人の同い年の男の子、攻略対象の1人、倉敷和宏を見て確信したの。ここは、前世でやってた乙女ゲームの世界だってね。
しかも私は悪役、そう、流行りの悪役令嬢。でも実際に自分が巻き込まれると嫌よね。
理由?単純じゃない。破滅しかないからよ。正規のルートを辿れば間違いなく家が借金抱えて銀行は潰れるし、その影響で青山家は一生色んなものを抱えて苦しみの中死を迎える......
冗談じゃないし、なんなのそれ!そんな人生いらないわー!
と、愚痴はここまでにしようかしら。
.........ところで、さっきから隣の男子が気になってしょうがない。もちろん攻略対象の1人、倉敷和宏だからだ!
こいつは俺様気取りの1番女子から人気のあったキャラクターなのだ!5歳のときは大人しそうだったけど、そのときから私はあんまり好きじゃない......というか、嫌いになったに等しい。何故なら、こいつは私の人生を狂わせる張本人のひとりなのだから。
しかも何故か私の方をずっと見てくる。勘弁して欲しい、私はあなたとは関わりたくないの。
「何か用。」
しかし耐えきれなくなって思わず声をかけてしまった。私のばか!
でもこいつはかつて私が知ってる俺様な感じではなく、普通の口調で返してきた。
「ごめん、不快に思ったなら謝るよ。なんかどっかで見たことがあるような気がしたから。」
ごめん!?あの俺様キャラの倉敷和宏がごめん!?いやいや、なんかの間違いか?というか、私のことを覚えていなのかな?
これは好都合、それならあなたとは関わりませんという態度で接してやろう。
「そう。」
これだけ言って、私はさもガリ勉のように勉強を始めた。
どう?こんな時から勉強ばかりする陰キャな女の子など興味わかないだろう?
少し上機嫌になりながら私はスラスラと英語の文章を書いていく。
この時無意識に、「覚えていないのね.........」と嬉しげに呟いてしまったが、多分聞かれていないだろう。
今日はホームルームで簡単な学校のしくみやら案内、部活動のこと、それから3ヶ月に1度行う社交パーティーについて説明されたあと、解散になった。
俺はいち早く野球がやりたかったので、担任となった先生に野球部の顧問を教えてもらい、早速職員室に行くことにした。
「失礼します。高橋先生いますか。」
職員室に入ると俺は野球部顧問の高橋先生のことを呼び出した。
「高橋先生!呼ばれてますよ!」
近くにいた男の先生が呼んでくれたので、高橋先生はこちらに気づき、俺の所までやって来た。
「僕を呼んだのは君かい?君は、えっと...新入生かな?見覚えがないから。」
「あ、はい。そうです。今年度入学した倉敷和宏といいます。あの、野球部顧問の高橋先生ですよね?俺、野球部に入部すると決めていたので、少し早く訪ねさせてもらいました。」
「え!まさか君は、あの立川イーグルスのエースだった!?」
先生は少し早口で俺の所属していた小学生のころの野球チーム名を言い当てた。
「あ、そうです。よくご存知ですね。」
「当然だよ。君は凄く有名なんだよ?凄いスピードが出るピッチャーが関東にいるってね。まあでも2回戦で負けてしまったから関東圏じゃない人達は意外と知らないかもしれないね。」
俺って案外有名だったのか?初耳だ。確かに小学生にしては速い球だ、とか褒められたこともあるけど、自分で投げていたからあまり気づかなかった。
「そうなんですか、知りませんでした。それでその、入部は...?」
そう聞くと高橋先生は「もちろんいいよ。是非入ってほしい。」と言ってきた。今日から練習も出ていいそうだ。
「高橋先生、ありがとうございます。これからよろしくお願いします。」
「うん、君のような強い子に入ってもらえて嬉しいよ。是非これからうちのチームを引っ張ってほしい。」
「はい、頑張ります。」
そして、「失礼しました。」と言って職員室を後にした。職員室から出た時、入れ替わるように隣の席だった女子がニヤニヤしながら職員室に入っていったけど、どうしたのか。最初の印象は凄く真面目そうな感じだったけど、意外とそうでもないのかもな。
こうして、俺の野球生活が始まる。入部早々一波乱起きることも知らずに......