消化効率と大連チャン
「で、では……次、405番! 前へ……」
試験官の声はまだ震えていた。
壊れた魔力測定器の煙が漂う中、後続の受験生たちは完全に引き腰だ。俺の後ろに並んでいたヤツなんて、生まれたての子鹿みたいに膝をガクガクさせている。
(いや、そんな怯えなくても……。台の機械トラブルなんてホールじゃ日常茶飯事だろ。エラー解除待つだけだって)
俺は心の中でつぶやきながら、指定された待機エリアへと移動した。
魔力測定(保留チャージ)の試験が終わると、次は実技試験——『標的への攻撃魔術』のテストだった。
広いグラウンドに設置されたのは、魔法耐性を付与された重厚な鉄製の標的。
受験生たちは一人ずつ前に出て、呪文を唱えて火球や氷の矢を打ち込んでいく。
「——いでよ猛りし炎、我が糧となりて敵を穿て! 『ファイアボール』!!」
隣のラインで、良家の坊ちゃん風の少年が朗々と呪文を詠唱していた。
ポーズを決め、約10秒ほどかけて放たれた火球が標的に命中する。
ドカン!
標的の鉄板が少し赤くなり、表面が凹んだ。
周囲の受験生から「おおっ!」「さすが名門の御曹司!」と歓声が上がる。当の本人はドヤ顔でドックンと胸を張っていた。
だが、それを見た俺の感想は一つしかなかった。
(……詠唱、なっが。消化効率悪すぎだろ)
1回の攻撃に10秒もかけてたら、1時間で360回転しか回せない計算だ。そんなテンポの悪い台、今のパチンコホールじゃ即客が飛ぶぞ。速さこそ至高、即当りこそ爽快感の醍醐味だ。
「次! 受験生404番、ゼン!」
試験官に呼ばれ、俺は標的の前に立った。
周りの受験生たちが一斉に固唾をのむ。
「おい、例の測定器を壊した奴だぞ……」
「どんな恐ろしい大呪文を詠唱する気だ……?」
視線が痛い。だが、魔法の理論なんて1ミリも知らない俺に、長々とした詠唱なんてできるわけがない。
(要するに、手元から一番威力の高い『玉』を爆速で飛ばせばいいんだろ?)
俺は標的に向けて右手をかざした。
脳内で思い描くのは、P機特有の『高速消化モード(アタッカー開放中)』のイメージ。
体内の魔力をヘソにストックし、一気に右打ち(アタッカー狙い)で流し込む!
ピピピピピ……!!
脳内で連チャンアタッカーの開放音が鳴り響く。
「……【無詠唱】……ッ!?」
試験官が目を見開いた。
俺の右手の前に、レインボーの魔法陣が一瞬で10重に展開される。
(来い! 消化スピードMAX! 怒涛の10連チャン!!)
シュババババババババババババババッ!!!!!
「なっ……!??!?」
呪文の詠唱など一切なし。
手元から放たれたのは、拳大の極大雷撃弾『サンダーボルト・レインボー』。
それも1発や2発ではない。1秒間に数発という狂ったような連射速度(高速消化)で、怒涛の10連撃が標的に叩き込まれた!
ズガガガガガガガガガガガガガアンッ!!!!
1発目で標術の鉄板が蒸発し、
2発目で後ろの防護壁が砕け散り、
3発目〜10発目で、グラウンドの奥にある小山ごと跡形もなく消失した。
爆風と土煙が吹き荒れ、試験会場全体が静まり返る。
「……あ」
俺は煙の向こう、影も形もなくなった山を見て冷や汗をかいた。
(やべ……やりすぎた。右打ちなのにハンドル捻りすぎてオーバー入賞(過剰火力)しちゃったわ……)
あまりの威力の前に、受験生たちは腰を抜かしてへたり込み、試験官は泡を吹きかけて倒れそうになっている。
「無、無詠唱で……最上位雷撃魔術の……十連打……!?」
「標的どころか……演習場と……裏の訓練山が消失したぞ……!?」
静寂の後、雷鳴のような歓声が巻き起こった。
「す、すごすぎる!!」
「これが伝説の古代魔術……!」
「天才だ……いや、魔術の神だ!!」
熱狂する周囲をよそに、俺は手元を見てふーっと息を吐いた。
(ふぅ……初当りからのRUSH完走、余裕だったな。出玉性能(火力)も申し分なし)
パチンコでいうなら、一撃万枚オーバーの大勝利だ。脳汁がドバドバ出て止まらない。
こうして実技試験もトップの成績(というか測定不能)でパスした俺は、無事に王立魔導学院への入学と、全額免除の特待生寮への入居を勝ち取ったのだった。
「よし……これで家賃ゼロ、三食昼寝付きの最強引きこもり生活のスタートだ!」
俺は満面の笑みで、あてがわれた豪華な寮のベッドに飛び込んだ。
49年間のニート生活で培った『引きこもり力』を、この異世界で存分に発揮してやる——そう心に誓いながら。
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次回第3話は「引きこもりたいのにトラブルが向こうからやってくる(?)編」です。お楽しみに!




