42話 グリンバル獣王国
まだ太陽が昇る前の早朝。
黄色いオープンカーに四人は乗っていた。
「それじゃあ、行きますよ」
ハルがアクセルを踏み込む。
以前のように、いきなり全力で飛ばすことはもうない。
車体はゆっくりと地面を離れ、空へと上昇していった。
「次はどこのダンジョンに行くの?」
後部座席に座るユカリが尋ねる。
「タイガくんが生まれた国だよ」
「タイガくんの!?」
ユカリの顔がぱっと明るくなる。
「やった!」
「帰ったらタイガくんに教えてあげる!」
「ふふ、そうだね」
その光景を想像し、思わず笑みがこぼれる。
タイガがどんな顔をするのか、今から楽しみだった。
◇◇◇
アレス公国は世界の中心に位置している。
今回向かう場所。
グリンバル獣王国は、そこから南へ向かった先にある。
空を飛ぶ車なら、約二時間ほどの距離だ。
◇◇◇
グリンバル獣王国は、荒野とは全く違う景色が広がっていた。
広大な砂漠。
その中心には巨大な王都があり、周囲にはいくつもの緑豊かな街が点在している。
「映画のアラジンの世界みたい!」
ユカリが目を輝かせる。
白い石造りの城門を抜けると、甘い香辛料の香りが風に乗って漂ってきた。
街には数え切れないほどの露店が並び、商人たちの威勢のいい声が響いている。
獣人はもちろん、人間、ドワーフ、そして魔物の商人らしき姿まで。
様々な種族が肩を並べ、活気に満ちた街を作っていた。
さらに都市の中心へ進むと。
そこには、砂漠の中に存在するとは思えないほど美しい光景が広がっていた。
巨大な湖。
その周囲を囲む緑豊かな森。
そして湖の中心には、白い石造りの巨大な王宮がそびえ立っている。
「綺麗……」
思わず呟く。
砂と岩しかないと思っていた砂漠に、こんな場所があるなんて。
あまりの美しさに、ワタルはすぐにスマホを取り出した。
「写真撮ろ!」
カシャッ。
四人で景色を眺めながら、
「すごいね」
「綺麗だね」
そんな会話をしていると。
「『黒い人形使い』の方々でございますね」
背後から声を掛けられた。
振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。
「私、グリンバル獣王国第一王女様付きの使用人、マリベルと申します」
丁寧に頭を下げる。
「ジャスミン様が、あなた方にお会いしたいと申しております」
そして。
「いらしてくださいますね」
笑顔だった。
とても礼儀正しい。
しかし、その笑顔には断ることを許さない強さがあった。
◇◇◇
ハルは表情を変えず、マリベルを見る。
「光栄なお誘いですが……理由を伺ってもよろしいでしょうか」
「申し訳ございません」
マリベルは微笑んだまま答える。
「それにつきましては、ジャスミン様ご本人からお話ししたいとのことです」
「そうですか」
ハルは一度、仲間たちを見る。
「少し相談しても?」
「もちろんでございます」
マリベルは一歩下がった。
四人は少し離れた場所で話し合う。
「どうする?」
シオンが腕を組む。
「王女様から直接のお呼び出しを断るのは、あまり得策じゃねぇな」
「ですが、何の目的か分からないまま王宮へ行くのは危険です」
ワタルが言う。
「罠って可能性もある?」
「ゼロではありません」
ハルが答える。
「ですが、相手は王女です。街中で堂々と接触してきた以上、いきなり敵対する可能性は低いと思います」
「それに……」
シオンが続ける。
「俺たちもこの国に来た以上、王族への礼は必要だろ」
「じゃあ、行く?」
ユカリが首を傾げる。
ハルは頷いた。
「行こう。ただし、警戒は怠らない」
四人はマリベルのもとへ戻る。
「お待たせしました」
「お招きをお受けします」
「ですが、目的地だけ先に教えていただけますか?」
マリベルは優雅に一礼した。
「もちろんでございます」
「王宮の迎賓館へご案内いたします」
「分かりました」
ハルは静かに頷く。
こうして一行は、グリンバル獣王国の王宮へ向かうことになった。




