第一部地上英雄編第1章運命の合流点
隠れ里の襲撃から10年の月日が流れた_。
あの日の悲劇はまるで世界から忘れ去られたようだった。
ここは王国と帝国の国境に位置する「忘却の森の遺跡」。
10歳になったアルヴィンとガイウスは、ある日大人たちの目を盗んでこの遺跡へ辿り着く。
アルヴィンはゼノンからの魔法の厳しいスパルタ指導に嫌気が差し、半ば家出のような形だ。
ガイウスの方はと言うと、騎士長バルドからの剣のしごきに耐えきれず、アルヴィンと同じく白を抜け出したのだった。
忘却の森の遺跡。
ここが何故そう呼ばれているのか。
それは嘗て栄えたという超文明の名残の遺跡だからだ。
文明は遥か昔に滅んでおり、人々からは忘れ去られた為そう呼ばれている。
二人はそれぞれ全く異なる国にいたが何故かこの日たまたま同じ時間、同じ場所で出会うことになる。
それは偶然か必然か、運命の悪戯なのか。
「ゼノンの奴、大賢者かなんか知らないけどいくらなんでもスパルタ過ぎるんだよ、さすがに毎日修行はキツイに決まってるだろ!こんなの毎日なんかやってらんないぜ、全くよ。別に今戦争が起きている訳でもないし、今こんな必死こいて魔法覚える意味なんかあんよかよ、別に俺王国の王子って訳でもないんだからな?」アルヴィンはそう呟きながらなんとなく面白そうな場所を見つけたと思い、森へ足を踏み入れた。
時を同じ頃ガイウスもまた城を抜け出していた。
「バルドよ、確かに私は次期国王候補で剣の腕も鍛えたい。だからお前にはいつも感謝してる。だが、たまには息抜きも必要だと思わないか?ああそうさ、彼ならそれくらい分かってくれる。だから今日くらい城抜け出しても問題ないだろう」と考え城を抜け出し、興味がわいた近くの森へと足を踏み入れる。
森に入ったアルヴィンは喉が渇き、近くの小川で喉を潤すことにした。
潺潺と流れる川の水を手で掬い上げ口に含む。
喉を冷たい液体が通っていく。
満足するまで水を飲んだアルヴィンは更に奥へ進もうとした。
すると向こうから金髪の少年がやってくるのが見えた。
自身の銀髪とは対極にあるような明るい髪色をしたその少年は近くに来るなりこう言い放つ。
「俺も水飲もうと思ってたんだ、ここの水って飲めるのか?」と。
アルヴィンは唐突な発言に驚きつつも「今飲んだけど全然飲めるぜ、飲んでみろよ」と返す。
ガイウスは両手で水を掬い上げ口に含んで飲み込むと
「城で飲む水よりは不味いがまぁ飲めないことはないな、教えてくれてありがとう。お前は、名前をなんと言うんだ?」と更に淡々と告げる。
アルヴィンは「お前呼ばわりする前にそもそもお前はなんて言うんだよ?因みに俺はアルヴィン。西のセレスティア王国で大賢者ゼノンに魔法を教えてもらってる。歳は10歳だ」とガイウスの言い方に少し苛立ちつつも自己紹介をした。
ガイウスは「私はガイウス。東のヴァルクロス帝国で騎士長バルドから剣を教えてもらってる。私も10歳だ。よろしく頼む」とどこかキザな言い回しで自己紹介を終わらせる。
同い年だと気づいた二人はそこからそれぞれ愚痴をこぼし始める。
そして互いに同じような環境でここに来たことを悟ると「俺たち(私たち)は似たもの同士だな、仲良くしようぜ(しよう)」と互いに重ねて言い合い友人同士となった。
話が一段落した所で二人は更に森の奥地にある遺跡に行くことを思いつく。
森は木々の切れ間から光は指すものの全体的には暗く視界も少し悪かった。
そんな中で二人はどんどん奥へと進んで行く。
しばらく歩くと遺跡が見えてきた。
遺跡に着くとその前には一人の少女がいた。
どうやら何か山菜のようなものを集めているようだ。
二人は声を合わせるように「君は誰?ここで一体何をしているの?」とその少女に聞く。
少女は「私の名はセリナ。近所の村に住んでるんだけど今日は家族にここへ山菜を採ってくるように頼まれて…。森にはよく来るから大丈夫何だけどこ子、奥地にある遺跡まで来たのは初めてで…。遺跡には守護神のように獰猛な魔物もたまにいると聞いて凄く怖いの…。」と少女は詳しい経緯を話した。
二人は顔を見合わせ「どんな魔物が来ても俺の魔法(私の剣)があれば心配ない」と自信満々に少女に告げ、三人で遺跡の中にはいることを提案する。
セリナは「ありがとう。どうしても遺跡の奥にしか無い山菜があってどうしようか悩んでいたの、それなら助かるわ」と提案を承諾した。
そうして三人は遺跡に足を踏み入れる_。
遺跡に入ってどれくらいの時間が経ったことだろう。
遺跡の中は意外と広く作られており、なかなか最深部まで辿り着かない。
そして気がかりなのは奥に進むごとに大きな獣の足跡や鉤爪の跡などが残されているという点だった。
恐らく確実に奥には何か大きな魔物が潜んでいる。
でも今更引き返すことはできなかった。
何より二人は日々鍛えてる自分達なら魔物の一体くらい余裕だと思っていた。
そうして最深部に迫った頃、奥から低い唸り声が聞こえ始める。
獣のような鳥のような、何とも言えない鳴き声。
やがて翼をはためかせる音が響き渡る。
三人は慌てて上空を見あげると、鷲の上半身と、「百獣の王」である獅子の下半身を兼ね備えた神話の聖獣、幻獣として名高い霊鳥獣グリフォンが翼をはためかせながら自分たちを見下ろしていた…。
三人は驚きながらもグリフォンの様子を伺う。
グリフォンは地に降り立つと自分達を敵と認識し今にも飛びかかってきそうな様子でこちらを威嚇している。
目は赤く染まり、どこか正常ではない様にも見える。
足には何か文字の書かれた腕輪をしているのが見える。
赤く染まった目と腕輪に気づいたのはセリナだった。
セリナは「あのグリフォンさん、本当は私たちを襲うような幻獣じゃない。多分、あの足にハマった腕輪のせいでおかしくなっているんだわ。お願い、良かったら私を守るついでにあの足についた腕輪をどうにかして。このままだとどうせ三人とも終わりだわ。」と2人に告げる。
二人は覚悟を決め「了解。日々の鍛錬の成果を試す時がようやく来たんだ、精一杯やるぞ、絶対にセリナを守るんだ」と叫び同時に飛び出した。
グリフォンは2人の少年が飛び出すや否や再び大きな唸り声で威嚇し、その大きな翼をはためかせる。
それだけで突風のような強い風が起こり、それが衝撃波となって2人を襲う。
アルヴィンは簡易的な初歩の防御結界をすぐさま自身と2人に張る。
そして「ファイアボール」と叫び小さな火の玉をグリフォンに飛ばす。
ガイウスも腰に掛けていた剣を抜き、「ヴァルクロス流剣術、一の法、斬撃波」と叫び魔法のように斬撃を衝撃波のように飛ばした。
セリナはそんな二人の戦いに目を輝かせ、初めてとは思えない息の合った共闘に驚きつつグリフォンにも目を向ける。
彼女にはグリフォンはどこか辛そうにも見えたのだ。
セリナは「早くグリフォンさんの足に嵌められた腕輪を壊して!」と叫びつい前に出すぎてしまう。
グリフォンは二人の猛攻を跳ね除け、セリナの前に移動し、その前足で彼女の頬を傷つける。
幸い大きな怪我にはなっていないもののそれを見た二人の少年の内心には大きな焦りと恐怖が湧き上がる。
このままではセリナの命が危ない。
このままでは何も守れない。
そう気づいた二人は魔法と剣での攻撃のスピードをあげる。
そしてセリナの言った腕輪に集中攻撃を仕掛ける。
「セリナァァァ!!君を死なせはしない!!ファイアブラスト!!」「セリナァァァ!!まだ出会ったばかりだが一度守ると決意した以上それは絶対なのだよ!!ヴァルクロス流剣術二の方、斬撃乱舞!!」
二人の渾身の奥義によりグリフォンの足に嵌められた腕輪は2つに割れた。
腕輪が割れるとさっきまでの獰猛さが嘘のようにグリフォンは大人しく静かになった。
目も優しい黄色で赤く染まった目とは全く違う色をしていた。
グリフォンは二人の少年の目を交互に見つめたあと、セリナの前に歩み寄り、一礼をした。
セリナは「うんうん、大丈夫。謝らなくて良いよ、ただ操られていただけなんだよね。気にしなくて良いの。別に私はどうもないし。」と頭を下げたグリフォンに向けて諭すように優しく告げる。
すると彼女の言葉を理解したのか親鳥が子供に言うような優しい鳴き声で一鳴きしたあと上空へ飛翔しどこかへ飛び去った。
その一幕を観ていたアルヴィンとガイウスの二人は「セリナ、君は幻獣の言葉がわかるのか?不思議な能力だな…」と驚きつつも「良かった、無事で、本当に」と少女セリナの無事を喜んだ。
セリナは「二人とも私のお願い聞いてくれてありがとう。山菜も取れたことだし私は村に帰るよ。二人はこれからどうするの?」と言う。
子供たちの小さな冒険が終わろうとしていた。
セリナは「二人とも、髪色は違うけど目の色は同じだね、私もだけど澄んだ青色。なんか似てるね!まるで家族みたい。また三人で一緒に冒険したりしようね!いつかまたここで会おうよ!」と2人に続けて言う。
そうして三人は互いの正体も知らぬまままたそれぞれの地へと、そしてそれぞれの人生を歩み始めるのだった…。
それは偶然か必然か。宿命によって歴史の歯車は動き出す…。




