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転移大学生のダンジョン記~拳一つでフルボッコだドン~  作者: 如月 燐夜
四章 攻める者と護る者
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勇者と魔王の話

冒険者ギルドに辿り着く。

押し戸を開くと人はあまり居ないがちらほらと何人か酒を飲んだり話したりと思い思いの時間を過ごしている様だ。

俺は二つ目の受付の列に並び久々に会う顔を見て微笑んだ。



「いらっしゃいませ!ソラトさん久々ですね!」


「あぁ。シャニアも元気そうで良かった。これお土産、皆で食べて。」


「シャニアって呼び捨て…?距離を縮めてきた。これは私にもチャンスが…あ、あぁ!ありがとうございます!わぁー美味しそう!…はっ!今日はどの様なご用事で?」


ギルドに来る途中で購入したドーナツの菓子折りに目がいったシャニアを横目に俺はガイのおっさんを呼び出した。


「それでは少しお待ち下さい。すぐに呼び出しますので」


シャニアは立ち上がると裏に下がりガイのおっさんを探しに行った。

何故俺が今日ギルドへ顔を出したのか。

それは俺の装備が完成したらダンジョンの50階層から先を攻略するためだ。

前回はイレギュラーがあったが、今回は100階層迄を目処にした大型の遠征を目論んでいる。

その前にちょいと顔出しといったところだ。まぁ呼び出しがあったついでの報告なんだけどな。

それまではちょくちょく来させてもらうが。



「待たせたな。あぁ、二階の個室に行こう。そっちのが良いだろ?」


「あぁ」


ガイのおっさんの後を着いて行きセレナとモネの二人を残し二階の個室へ入る。

席に着くとシャニアが茶を持ってきてくれ、退室したのを皮切りにガイのおっさんが口を開く。



「そんでおめえさん。例の話だが考えてくれたか?」


例の話…あぁ、あの事か。


「昇格の話だったか?」


「そうだ、忘れたとは言わせねえぞ?再三に渡って俺ぁ口を酸っぱく言ったからな。」


そう、ガイのおっさんは里の協議の場で、再三俺に昇格の件を顔を合わせる度に言ってきた。

滞在する三日間必ずだ。

面倒だ面倒だと断ってきたがギルドの面子というものもある。


「だが俺は100階層まで目処に冒険者業は一旦辞めることにしたんだよ。知ってるだろ?」


「あぁ、おめえさんが魔王だって話か。今でも信じられねえよ」


信頼出来るガイのおっさんには既に話してある。

それなりの権力があり情報操作も出来る人物だ。

これほど頼りがいのある人物はそうそう居ない。

まぁ、話さなくてもギルマスのカーティスなんかは鑑定があるからバレてるだろうけどさ。



セレナに聞いた話だ。

この世界では全ての種族が魔王になる可能性を秘めている。

欲に塗れ、欲に溺れ、人としての本来の姿を晒した者が行き着く先、それが魔王だと言われている。


同時期に召喚される勇者とはコインの表と裏。

何の因果かどちらかが倒れなければ、元の生活、あるいは種族に戻ることはない。


そうして何人もの勇者、魔王が散っていった。

もっとも有名な魔王は二人。


一人目は救国の英雄だった魔導士エリカ。

黒と紫を混ぜたような色の髪を持った美女でとんでもない魔力を秘めた魔王の中で最強とされた人だ。

彼女は大陸の中央に小屋を立てひっそりと暮らしていたが人がちょっかいを出し国ごと滅びかけたという。

その髪は彼女の怒りを表すように段々と紫に染まっていたらしい。


元々はその国の宮廷魔法使いだったとか。

まぁ、嫌な話だよな。

追い出されてひっそり暮らしてたのに何度も尋ねられては追い返す様な日々を送っていたというし。

誰に殺されたのか…それとも寿命だったのかは未だに解き明かされていない。


そしてエリカが滅んだ後、彼女は魔女と恐れられ語り継がれてきたという。

その数百年後、大陸の中央部に新たに生まれた魔王が城を築いた。

三人の召喚された勇者が手を組み相討ちとなるほどの強さを見せたその魔王の名がタクト。



指揮棒と同じ意味を持つが俺は多分、二人とも日本人だと思ってる。

そして魔王タクトが死んだ後あの平原は条約が決められ不侵攻の地と定められた。

タクトが死んだときに呼応するように城も共に崩れた。


そう、俺がこの世界で初めて立っていたあの場所だ。

俺も何か関係があると思っても仕方がない。


「そうだろうな…。だが生憎、俺は転生者だ。この世界で覚醒した時、俺もあの平原に立っていた。多分何かしらの因果が働いてるんだろうな。」


「ソラト…」


「気にすんなおっさん、一度は死んだこの命、自分の好きなように生きてみるよ。それがどんな終わりを迎えようと俺は誇れる人生を歩む。だからその話はなしだ」


「わかったよ…なんか困ったことがありゃなんでも相談しろよ?俺ぁおまえさんにーー」


「止めてくれ気持ち悪りぃ…湿っぽいのは苦手なんだ」


強張った厳つい顔が今にも泣きそうだ。

なんでこの街の人はこうも義理に厚いかねぇ…


「おっ…そうだ。話は変わるが、おめえさんレギオンを組む気はねえか?人数も増えてきたし丁度良い頃合いだろ?辞めるまででいい」


「レギオン?なんだそれ」


あれか?良くあるオンラインゲーのレイドボスに対して多数のパーティが手を組んで倒す奴か?


「おんらいんげーってのは良く分かんねぇが大体合ってる。どうだ?レギオンを組めば恩恵が沢山有るぜ?」


ガイのおっさんが言うには


・ギルド内での依頼を優先して斡旋する

・大通りでの買い物での値引き

・税の二割免除

・ギルド酒場の一部無料化

・武具防具を格安で貸し出す

・新人の教育をし能力の平均化


などなど言ってきたが最後のはギルドにしか旨味がないんじゃないか?

だが新人発掘の目で見れば使えるかもしれないな。

他にも酒場の一部無料化や大通りでの買い物の値引きなどはかなり助かる。消耗品が多いからな。


とりあえずやるだけやってみるか。



「まぁ、登録には金貨五十枚掛かるんだがそれ以降三年間は支払い義務が免除される。三年毎に更新費用が係るがな。それでも悪りぃ話じゃねえだろ?」


「その話、一度持ち帰る。皆にも相談したいからな。まぁ、期待して待っててくれ」


「あいよ!ん?行くのか…?もう少しゆっくりすりゃ良いのに」


「いんや、この後約束があってね。また今度な」


俺はそう伝えると待たせていたセレナ、モネを連れギルドを出た。

あ、やっべ!今日会う予定してたの忘れてた!

俺はすまなそうな表情を作り二人に声をかける。


「悪りぃ二人とも。この後用事が有るんだ。先に帰っててもらっていいか?」


「むぅ…仕方ないな…」


「お兄ちゃん!今夜はモネが料理当番だから早く帰ってきてね?今夜は黒鉄角牛のステーキだよ!」


「おーそりゃ楽しみだ!夕食前には必ず帰る。留守番頼んだぞ?」


すまない、モネ。

俺には王国軍と戦った夜から味覚がないんだ。

だが絶対に口にはしない。

お互い不幸になるだけだからな。


「あぁ」

「はーい!」


俺は大通りで二人と分かれ、近くの路地に入った。

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