ソラト、始動!
最前線の森_プルネリア
「プルネリア殿、起きるでござる!もうじきこの森に王国軍が来るでござるぞ!」
微睡みの中、しっかりと芯の通った声が頭に響く。
これはブルースちゃんの声?
「あふぅ…おはようなの!ブルースちゃん、もう時間?」
「そうでござる。拙者も分身体ではあるが共に戦うのでよろしく頼むでござる。」
「うん、一緒に頑張ろー!」
もう来ちゃったの?急いで顔を洗って、服も着替えなくちゃ!
ふわぁー、朝は眠いなぁ。
でもこれからご馳走なの!
いっぱい捕まえて血を吸っちゃおう!
だってプルはヴァンパイアの最後の生き残り、プルネリア・ヴラディオンなの。
真祖吸血鬼姫なんだから!
いっぱい僕ふやすの!
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エルフの里_ユキヤ
川に流され気が付くと俺達はエルフの里で保護されていた。
「気が付きましたか?事情はブルースちゃんから聞いています。」
「貴方は…?」
目の前には長耳のエルフの女性…綺麗な人だな…。
ブルース?俺を助けてくれた少女の事だろうか?
頭が混乱していて状況が飲み込めない。
「ユキヤ…!」
トトとネムが俺にしがみ付き不安の表情をしている。
「あれ?ワタメは…?」
「紫の少女なら熱を出し体調が悪いみたいなので休ませています。申し遅れました、私はアリシア。エルフの里長を務めるものです。」
そう金髪をゆらしながらアリシアと名乗る女性は微笑んだ。
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コボルトの巣~エルフの里道中_カミツレ
子供を連れての大移動。
もうすぐ里に着く。
皆少し不安そうだ。期待してるのが少し。
オレは先頭を親父に合わせて走っていた。
少し前のオレならこんな早く走れなかった。
ソラトと会って色々変わった。
毎日腹一杯食えるし、餌を取り合って喧嘩することもなくなったし、肉が食えるし、強くなった。
あと毎日腹一杯…もう言ったか。
オレも文字と沢山言葉を覚えた。
すぐ忘れるけど、アンリエッタが毎日教えてくれた。
色んなことも知った。
知るのは楽しい、もっと皆にも知ってほしい。
だからオレはそれを親父に話した。
親父は少し考えてから口を開いた。
「オ前ノ飼イ主ハ良イ人間ダナ。楽シソウデ何ヨリダ。良イ番ヲ見ツケタ。」
番…つがい?なんだそれ?オレには良く分かんない。
けど親父は何だか嬉しそうだ。
あれか!昔、親父より強い奴じゃないと番にはさせないとか言ってたけどその事だろうか?
分からないって首を傾げてたら、
親父と死んだ母ちゃんみたいなもんだと教えてくれた。
群れを預かるなら強くないとな!
そっか、オレとソラトはツガイなのか!
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エルフの里本陣_ティア
ユリアンが爆弾発言をしてから停滞していた会議はどんどん進んだ。
まさか女だったとはね…この中で気付いてたのはアンリエッタだけみたい。
まぁ、当然よね。
本人も言ってたけど貴族と王族だし、催しが有れば、招待されるのは必然。
歴史が長いシュラーク家は王家との繋がりも深い。
ユリアンが家を出たのは十年前だけど、アンリエッタはその時十四才、覚えてても不思議じゃない。
ユリアンの話では第二王子バーストレウスは以下のような人柄だった。
残忍で狡猾、それでいて周りに悟らせないほどの知略を持った怪物。
ユリアンの話を聞いてる限り、そんな印象を受けた。
何故ユリアンが家を出たのか。
それは跡目争いが原因だという。
王位に固執するバーストレウスは幼き弟妹を毒殺や事故に見せ掛け次々と殺していった。
それを悟らせないようにもっとも家格の低い王の妾を主犯に立てるという徹底ぶり。
心配した執事のローアインがクロッセアまで幼いユリアンを連れ逃げたという。
聞いてるだけで虫酸が走る…!この男だけは絶対に王位にしてはならない。全力で止めなきゃ。
その時、ブルースの分身体が震え始めた。誰かの元に動きがあったみたい。
「こんにちは守護者さん。僕はバーストレウス。一応今回の遠征の代表者だよ。」
「ほう…貴様がそうか。我は守護者、この騒ぎ、どう落とし前を着けようか…まずは話し合いをはじめるとしようか。その前に一発殴らせてくれ!」
声を低くしてるけど、ここに居る皆は分かってる。
どうやらソラトがバーストレウスと対面しているらしい。
まだ戦争が始まって一時間も経ってないのに…!
あのひとは無茶をし過ぎるから…
側に居るのはチトセだけか…不安だわ。
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主戦場敵本陣_ソラト
俺は振り上げた拳をバーストレウス目掛けて振り下ろした。が、寸手のところでよけられてしまう。
「ふふふ…守護者さん、腹を割って話し合おうじゃないか?君の要求は何だい?」
奴は余裕の笑みを保ちながらそう言ってきた。
俺も椅子に腰掛け足を組み、余裕を見せながら対応する。
なんかここで余裕を崩す無様な姿は見せたくなかったからだ。
「決まっている。すぐに軍を引け、さもなくば王都を潰す。それに貴様らに選択の余地はない。こちらが主導者だ。」
俺達の力は見せ付けた。
目の前に居るのが敵の総大将バーストレウスか。
余裕を見せる様に笑みを向け沈黙を繰り返す。
チトセが龍化を解いてしまい思わぬ対面となったが、ローブと仮面で顔を隠している為か強気な態度で居られる。
【虚像の仮面】…込められた魔力により、自らの思う強き存在を演出する事が出来る。魔力上昇、腕力上昇効果付与 製造者ベニート
【吸血鬼王のローブ】…魔力を増幅し、威厳が備わる。対峙者に畏怖のイメージを植え付ける。速度上昇、防御力超上昇付与 製造者???
ローブと仮面の効果を思い出しているとバーストレウスは口を開いた。
「それは髄分と面白い提案だね。君は何者だ?顔を見せ給え」
俺の仮面に手を触れようとするバーストレウス
俺はそれを弾くと言葉を返す。
「聞こえなかったか?これは命令だ。さっさと軍を退け!」
ふざけやがって!
俺が叫んだ瞬間、音もなく背後から何かが振り下ろされる。
俺はアイシクル・ブロウを纏うと左腕でそれを受け止めた。
受けた場所が悪かった、これ折れたっぽいな…
俺は腕を氷魔法を使い添え木の要領で固定した。
「チッ…不意打ちは利かないか…」
バーストレウスが舌打ちをしてごちる。
残念だったな、俺にはマップと気配察知がある。
だがそんなことは絶対に口を滑らせるものか。
襲撃してきたのは蒼髪の女だった。
中々の強さを持つ、だが俺やブルース、チトセには敵わないな。
それでも厄介な称号がある。
龍殺し…安全策を取って俺が相手をするか?
ちらりとチトセを見ると幼い幼女姿で牙(犬歯)を向き、やる気をアピールしている。
仕方ない奴だ。
「随分な歓迎じゃないか。チトセ、少し遊んでやれ!」
「仕方ないのう。まぁ、時間潰しにはなるか、のうッ!」
空を舞い無数の土の棘を出し牽制するチトセ。
まだ魔力には余裕があるし、任せても大丈夫だろう。
俺もさっさとこの馬鹿を殺そう。
もう慈悲をくれてやるつもりは毛頭ない、死んで詫びろ!!
「アイシクル・バースト!」
バーストレウスに向け無数の氷柱が襲い掛かる。
だがそれを一人の男が庇い、事なきを経たバーストレウス。
鑑定を使う。
まずいな、守りじゃアンリエッタ以上かもしれない。
英雄マルス…勇者の師匠だと?
この世界にも勇者が居るのか。
【護光】なんて大層な称号持ってるのは伊達じゃないみたいだな。
しかし、様子が変だ。
焦点が合わず呼吸も不規則、少し青白い顔は明らかにおかしい。
「バーストレウス!貴様、この者に何をしたッ!」
「それは僕の大事な手駒さ。まぁ、ほとんど壊れてるけどね。言うこと聞かないから少し強制的に従って貰ってるだけさ。」
「下衆が!」
まずはこのマルスって人を助けないとな。
少し荒療治だけど、何とかなるだろ。
俺は右手を翳し集中する。
「召喚!!ブルース!ティア!」
ダンジョンを出た後に俺が得た三つの新しい力。
そのうちの一つ、スキル【召喚】だ。
俺の従魔を自由に召喚し、呼び出すことが出来る。
まぁ、テイマーにとっちゃ必須のスキルだろうな。
「主の呼び掛けに応え、参上仕奉った。」
「…あら、ここは…?」
跪き頭を垂れるブルースの本体と不機嫌そうに辺りを見渡し納得したような顔を見せ、直ぐに不機嫌そうに取り繕うティア。
「ブルース、ティア、あの人を解放してやってくれ。俺はバーストレウスを追う。」
「承知!」
「…まぁ、良いわ。ソラトの頼みなら」
マルスの相手を二人に任せると俺は一人バーストレウスを追った。
明日は、川の近くで交戦中のブルース分身体視点です。
次回、粘魔戦隊
お楽しみに!
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