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転移大学生のダンジョン記~拳一つでフルボッコだドン~  作者: 如月 燐夜
三章 挑みし者と立ちはだかる者
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ギルドマスター カーティス

少し長めです。

ダンジョンから帰還したのは合流して四日目の深夜だった。


寝静まった地上に帰還した俺達は一度ギルドに無事帰還したことを報告して、あまりに疲れていた為詳しい事は翌日の朝、話すと言うことでギルドを出た。


ギルド前で待たせていた探索隊に二日後に報酬の支払いと酒場の予約の段取りをすると告げると捜索隊を解散した。


久しぶりの地上の新鮮な空気を胸一杯に吸うと今日は宿に戻り休む事にした。


クタクタだぁ…腹も減ったが翌朝で良いだろう。今日は寝かせてくれ…おやすみ。




翌朝、空腹の限界で目を覚ますと両隣にはセレナとモネが居た。


鎧下を着たままで。


余程疲れていたんだろう。


俺は二人の頭を撫でると部屋を出て階段を降り併設の食堂へ向かった。



「おはよう、ソラト。気持ちの良い朝だな。こんな日にはカフェテリアで優雅に時間を潰すのも乙なものだ。」


「おっ、ユリアン!おはよう!でも何故ここに?」


食堂に行くとユリアンが声を掛けてきた。


あれ?こいつ自分の家持ってるんじゃなかったっけ?



「言ってなかったかい?ここは僕の所有する宿でね。端的に言えばオーナーってやつさ」



「ほえー、知らなかった!でも納得だな。」



あまりユリアンの過去を詮索するつもりはないが元貴族なんだろう。

宿の端々には洗練された装飾が施され、スタッフの行き届いたサービスを実感する。


スイートルームには泊まったことがないが相当金が掛かってるはずだ。


主な客層が貴族や大商人なわけだから内装もこだわっている。



「当然さ、僕が手掛けた宿だからね。その辺の安宿と比べて貰っては困る。」


「さいですかい。あ、こいつと同じやつを一つ。飲み物はコーヒーで」


自慢モードに入ったユリアンを軽く流して店員さんにユリアンが食べてるものと同じのを頼んだ。


柔らかい白パンにハムとスクランブルエッグ、サラダとスープが付いたセットだ。これだけでは足りない気がするけど、まぁ良いだろう。丁度聞きたいことが有ったので聞いてみよう。



「そういえば、少し相談が有るんだがな…ユリアン、この辺で不動産屋ってのは顔見知り居るか?」


「まぁ、何店舗か知ってるが。どうしてだ?」


「家を借りようと思ってな。流石にいつまでも大所帯なのに宿暮らしってのはな。」


「となると広め屋敷が良いな。分かった、心当たりがある。夕方には話を取り付けておくからここで合流しよう!」



「ありがとう、んじゃ俺はギルドに呼ばれてるからまたな!」


「あぁ、後でな。」



飯もそこそこに食堂を出ると俺は一目散にギルドへと足を進める。


途中顔見知りの屋台の店主や冒険者も見掛けたが挨拶もそこそこにして歩は止めない。



ギルドの押戸を開くと冒険者がカウンターに何人か並んでたり酒場で飲んで居たがあまり多くはない。俺が入ってくると手を挙げ挨拶してくるくらいであまり興味を示さないようだ。俺も忙しいからそれでいいんだけど。



「あっ!ソラトさーん!こっちこっちー!」


明るく声を掛けてきたのはシャニアさんだった。うむ、今日も可憐だ。対応していた冒険者そっちのけで俺に手を振って満面の笑みだ。逆に冒険者の方は苦虫を潰したような嫌そうな顔をしている。よほどシャニアさんに入れ込んでいるのかもしれない。申し訳ない気持ちになるがシャニアさんの待つカウンターの方へ行くと嬉しそうに話し掛けてくる。


「良かった…!無事だったんですね…!私、ソラトさんが帰ってくるの信じてましたよ!遅番の同僚から話を聞いてはしゃいでしまいました…!えへへ」


「あ、あぁ…。ありがとう。と、とりあえずガイのおっさんは居るか?来るように言われてるんだけど。」


「あぁ…そうでした。ソラトさんが来たら報告するように言われてたんだった…嬉しくなって忘れてました。今呼んできますね?ニア、交代してもらっていい?」


冒険者を放置して奥に引っ込んだシャニアさん。冒険者の方は血のなみだを今にも流しそうなくらい俺を睨んでいる。


それで良いのか受付嬢さん…



まぁ、俺のために動いてくれてるんだ。良しとしよう。


「おう、コラ!てめぇシャニアさんとはどういう関係だ!」


なんか絡んできた。面倒だなぁ、まぁマンガとかラノベでは良くあるパターンだけど、俺はテンプレだー!とかそういう風には喜ばない主義だ。


相手の男は俺より年下っぽくていかにも新人って感じだな。可憐なシャニアさんに優しくされてコロッとやられたクチだな、こりゃ。


「どういう関係も何も冒険者と受付嬢の間柄でしかないが。そっちこそなんだ?いきなり狂犬みたいに噛みついて来やがって。お前みたいな三下は相手にしない主義なんだ。どっか行け!」


「んだと、テメェ!ふざけんじゃねえ!ーーいってぇ!」


結構強めに煽ったら、怒るわ怒るわ。いきなり殴りかかって来たので足を掛けてすっ転ばした。


「別に相手するのは良いがここはギルドの中だ。ギルド内では私闘禁止と新人教育ん時聞かなかったのか?」


これだから単細胞の脳筋は困る。酒場に居た冒険者たちは面白そうな顔をしてやんややんやと騒ぎ始めた。


「おう、ナッシュ!やめとけ!てめぇらも静まれ!ソラト、何があった?」


騒ぎを聞き付けてシャニアさんを引き連れたガイのおっさんがやって来る。なんだ、顔見知りか。


「いや、そっちの若いのが絡んできてな。いきなり俺に喧嘩を売ってきて殴りかかって来たから転んで貰っただけだ。」


「そうか。ナッシュ、詳しい話は後で聞く。それとお前は三日間、謹慎だ。宿で大人しくしてろ!」


「何でだよ叔父さん!悪いのはーー「うるせぇ、さっさと出てけ!」」


ん?叔父さん?ガイのおっさんの親戚か。確かに口が悪いのはそっくりだな。ナッシュと呼ばれた少年はトボトボとギルドを後にして出ていった。


「ソラトさん、多分ナッシュ君が怒ったの私が原因ですよね?あの子、私に好意を抱いてたから…ご迷惑をお掛けしました…」


あれだけ必死に口説いてたらそりゃ気付くよな。他人の恋愛に口を挟むのは野暮ってもんだ、ここは知らんぷりしよう。


「なんのことか分からないな。それよりおっさん、詳しい話をすんだろ?さっさと部屋に案内してくれ。」


「お、おい、ソラト!ったく…こっちだ、着いてこい」



わりぃなおっさん。けど、俺は報告をしに来たんだ。ガキに絡まれたからって一々気にしてらんねえよ。


おっさんに案内された先には少し豪華な装飾がされた大きな木戸の前だった。


「ここは…?」


「ギルマスの部屋だ。詳しく話を聞きたいらしいからな。シャニア、茶を四人分頼む。入れ終えたらお前も中の席に着いてくれ。」


「…承知しました。」


ギルマス…そういや、会ったことないな。どんな人なんだろう。



それにしてもシャニアさん、元気ないなぁ。まぁ、半分俺のせいでもあるんだろうけど。いつもの笑顔が素敵な彼女に戻ってほしいね。



「ギルマス、ガイです。冒険者ソラトを連れて参りました。」


「入りなさい。」


男にしては高すぎて女にしては低すぎる不思議な声が部屋の中から聞こえた。


扉を開くとまず一際目を引いたのは真っ白な羽を持った人だ。その人は臼緑色の髪をしており執務机に顔を寄せペンを走らせていた。



「呼び出しておいてすまないね。もうすぐキリ良く終わるからしばし腰掛けて待ってくれ。」


男とも女とも似つかない声が響きガイのおっさんに進められるまま三人掛けの柔らかなソファに身を沈めた。向かいにはテーブルを挟んで一人掛けのソファがある。



「うおッ!柔けえッ!あ…すんません。」


思わず声を上げてしまった俺にギルマスが視線だけを向けるがすぐに書類の方へ視線を戻した。


「ははッ!ギルマスの部屋に入れるなんてやつはクロッセア冒険者の一割にも充たないやつらだ。あのカインだって入ったことないんだぜ?」


ガイのおっさんが嬉しそうにそう話すと少し背筋を伸ばした。そっか…あんな、一流のベテランでも入ることが出来ないごく限られた人間しか出入り出来ない部屋なんだな、此処は。そう思うと自然背凭れから背中を離した。なんだか緊張してきたな…大丈夫かこれ…?



「待たせたな、初めましてだね。ソラト・ユウキ君。私は冒険者ギルドクロッセア支部長のカーティスだ。よろしく頼む。いつもはガイに外を任せて私は裏方役に徹しているが君に興味を持ってね?仲良くしてくれ。」


ギルマス改めカーティスさんは人懐っこい笑みを浮かべて右手を差し出してきた。


んー…性別はどっちだろう?


胸の膨らみはないけど、仕草は女性っぽい。名前は男性寄りな名前だけど、話し方はセレナやユリアンに近いから高貴な身分なのかもしれない。


いや、職業柄冒険者を纏めるギルドを更に纏めるギルドマスターだ。それで身に付いたのかもしれない。


「初めましてギルドマスター。ソラト・ユウキです。お会いできて嬉しいです。少し丁寧語は苦手ですが多目に見てくださいね?」



「ははは、私も同じだよ。よくガイから愚痴というか自慢というか面白い話を聞かせて貰ってるよ。新人にすごい奴が現れたとか、色々相談されたとか。あ、あと新しい弟が出来たみたいなーー「カーティスさん、それ以上は勘弁してくれ…!」あっはっは、まあガイに免じてこれ以上は止しておこう。」


「はぁ…。」


なんか凄い早口だな。


モネもテンションが上がるとたまに凄い早口になるけど、それよりも話す量が多い。


話好きなのかな?


ガイのおっさんもたじたじだなこりゃ。


だが、俺はガイのおっさんを断じて兄貴としては認めない!


例えるならば、せめて遇に会う親戚のおっちゃんくらいの感覚だ。




「いえ、おっさーーガイさんには良くして貰ってますよ。クロッセアに仲間と来てから冒険者の右も左も分からない時から良くして貰ってるんで。もちろんシャニアさんもね。」


俺が話してる時にシャニアさんが丁度お茶を入れて戻ってきた。視線が一瞬会うと顔をみるみるうちに赤くしていきすぐに下を見て視線を外した。


熱でもあるのかな?なんて鈍感主人公なら言うのだろうが俺は違う。


だけど、なんだか今日のシャニアさんは様子がおかしい。


俺のことばかり目で追ってるのにいざ視線が合うと顔を背けるし、顔が耳まで赤くなる。


「シャニア、そこに座ってくれ。さて、カーティスさん!これで役者は揃ったぜ?」


右隣のおっさんが俯いてるシャニアさんを何故か俺の左隣に座らせると話を仕切り始める。にやりと悪い笑みを浮かべながら…。なんか嫌な予感がする…帰ろっかな?


「あ…俺急に腹の調子が…!いたたたーー」


「帰るのかな?シャニアが淹れてくれた茶も飲まずに。」


カーティスが容赦なく俺の仮病を見通してきた。あ、これ逃げられないやつだわ。


「い、いえ、なんか気のせいだったみたい。あ、おっさん続けて?」


「お、おう。まぁ、今日来たのはお前の遭難失踪の件とかじゃなくて依頼の話なんだよな。実は大方、ブルースちゃんから報告を深夜のうちに貰ってるし。記憶を追体験したでござる!とかなんとか言ってたけど、魔族にそんなこと出来るやつ居るんだな?初めて知ったよ」


昨日寝る前にブルースウォッチの新品を貰っている。


それにブルースは寝ることも疲れることも殆どないから煩わしい報告を済ませてくれたのかもしれない。


プルやモネにも手渡してるのをしっかり確認したし、何故か俺の記憶や思考を読めるみたいだからガイのおっさんも鮮明に情報収集出来たんじゃないのかな?


「はぁ…それで依頼って?」


「戦争だよ」


あぁ、戦争か。は?はぁ?


「きちんと説明してくれないか?いきなり戦争なんて言われてもさっぱり分からん。」


「分かった、順を追って説明しよう。カーティスさん、良いですね?」


「ああ。」



カーティスさんの話によるとセレナ隊の故郷ミンストレイル王国が策謀を張り巡らし色々と動いているらしい。


斥候役と思われる素性の知れない者が南門、エルフの里側から数十名捕まっている。それを検閲せずに通そうとしたクロッセアに派遣されている兵士も内通していると考え現在は関所の牢屋に入れられているとか。


セレナ隊の皆にも斥候なのではと疑われているが怪しい動きもないし、要注意するくらいで特段平気な様子らしい。


また捕まえた斥候に尋問したところ、兵五万を進軍中とのこと。明日にはエルフの里に到着し攻められるのは確実だとか。



「ふざけんじゃねえ!なんで罪のないエルフ達ばかり狙われるんだ!つい一ヶ月前に魔族に襲われたばかりで復興にもやっと手を付けたんだぞ!」


「それが強欲な人間の性だよ。私も怒りを覚えている。そこでソラト君、君には特別指名依頼を出したい。」


「あ?俺に?指名依頼ってのは金級、白金級の人たちが受けるもんだ。俺みたいな銀級のしかも新人に任せるようなものじゃない!」


「あはは、その通りだよ。君の言う通り、金級、白金級の特権ではあるがこのダンジョン都市クロッセアで一番力を持っている君にはその特権も降りるのさ。シャニア君、例の物を。」


カーティスさんが高笑いして俺を見つめるとシャニアさんに話を振る。分かっていたのかシャニアさんは懐から一枚のカードを取り出した。


「これは白金級の更に上、ここ五百年間居なかった英雄のために存在するギルドカード、黒金級を証明するものだよ。ソラト君にこそふさわしい、受け取ってくれるね?」



もはや話が飛躍しすぎて俺の思考もフライアウェイしてきた。お茶を空にする勢いで飲み干すと一呼吸置きカーティスさんに話し始める。


「俺がそれを受けとるとなんのメリットがある?」


「それはかつて五百年も前の時代に二人の青年が持っていたものさ。一人はヤマト、もう一人の名はタイガ、君と同じ漂流者だよ。」


「んなッ…!何故それを…」


「ふっふっふ、長く生きてると色々知ってるものさ。続きを話すよ。」


ヤマトとタイガは突然現れると魔人に苦しめられていた人たちを救う決意をした。


彼らの不思議な魅力に囚われた人々は魔人を倒すために立ち上がったという。


だが魔人との戦いが激化していく中で二人の青年はそれぞれ別の道を辿ることになる。


手の届く範囲の者を助け、戦う事を選んだヤマト。


どんな犠牲を払ってでも魔人を滅ぼさんとするタイガは袂を別ったのだ。



「それでその二人はどうなったんだ?」


「魔人共を滅ぼし二人は別々の地に国を興した。それが王国と帝国、当時は魔導国と呼ばれていたが周辺諸国を食い散らかし吸収合併し力を蓄えて帝国と呼ばれるようになったのさ。」


「それで何で建国時代の話になるんだ?」


「王国だけならまだよかったんだけどね。帝国も進軍して来てるんだ。不進すすまずの平原に向けてね。私の同族から報告を受けたんだ。監視するのは得意だからね、王国の倍、十万は居るはずだとの報告さ。」


「十万か…それで俺はどうすれば良いんだカーティスさん?」


「君には両国の進軍及び蹂躙を止めて欲しい。お願い出来るか?」



「嫌だね!断る!そんな呪いの掛かったギルドカードもいらねえ。俺は俺のやりたい様にやらせてもらう。」


「ソラト、おめぇ!」


「良いよガイ。彼ならそう言うと思ってた。ソラト君、これだけは受け取って繰れるかな?」


カーティスさんが取り出したのは白金級のカードと二つのサイコロだった。


「黒金級を断るならせめて白金級カードは持っててもらうよ。それは固定した場所に転移門を作る魔道具だ。移動するのに使ってくれ。魔力を大幅に使うのが難点だが君の魔力なら問題ないだろう。」


こいつ…!鑑定スキルを持ってるのか。俺も鑑定を発動するがエラーが出続けて何も見れない。


「ふふ、私には鑑定は利かないよ。まぁせいぜい頑張ってくれたまえ、名も無き英雄くんっ!」


「一人でも足掻いて見せるさ。エルフや他の罪無き人達には指一本触れさせない!じゃあな。」


名も無き英雄か…それも良いかもな。まずはギルドを出て宿の仲間全員に現状を説明しよう。


アリシアさんの故郷は俺が守ってみせる!

次回は2本更新します。登場人物紹介と本編です。


また話の構成を練りながらの為一週間だけおやすみを頂きたいと思います。御了承下さいませ。


追記※

おやすみやめました。1月16日水曜日12時に登場人物紹介2本と15時に本編四章導入分を更新となります。

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